64 【 リカルドside ~No.1~】
リカルド目線のお話です。
私はリカルド・フィリップス。
北の地に生を受けてから18年。
フィリップス公爵家の嫡男である。兄弟はおらず、厳しい両親と祖父母に育てられた。
王国騎士団長を父に持ち、私自身も王国騎士団第二支部隊に所属している。日々、剣術や強靭な精神力を鍛えるためにも鍛練を怠らずに、騎士として真摯に向き合っている。
代々王国騎士団所属の家系であるフィリップス公爵家は、両親も祖父母も剣術を得意とし王国を護るために剣を巧みに操り勤めてきた。
幼少の頃より甘えた記憶は一切ない。
常に自分に厳しくあれと父上からは攻撃的な剣術や護るための剣術の指南を受けている。
母上からは騎士道精神を徹底的に叩き込まれ、勇気、誠実、慈愛、礼儀や女性に対する格別の配慮や、一朝ことあらば真先に戦場に駆けつけるという、ノブレス・オブリージュを教わってきたのだ。
母上はモルカンダ公爵家出身で、現モルカンダ公爵とは兄妹である。元々は国王陛下の最有力妃候補の数名の中にいたらしいのだ。
父上と出逢ったことで、貴族社会では珍しい恋愛結婚をしたという。政略結婚させられる前に裏で暗躍し、妃候補名簿から末梢したという。早急に手を打つ辺りが母上らしい。
厳しい両親の元に育った私は、真面目で堅物、曲がったことが嫌いな性格である。面白味がないと周りからは言われている。
モルカンダ公爵子息である従兄弟のアクアジークとは年が近く兄弟のように育てられた。
アクアジークは明るい性格で責任感が強い男だ。同じく王太子殿下の側近を務めている。
私より1歳上ということもあり兄のような頼りになる存在だ。剣術も魔力も強く、自分のようになりたいのならば、““ 不真面目になれ、自分の領域以外のことを知れ ””とよく外へ連れ出し沢山のこと教えようとしてくれるのだ。
剣術の稽古と体を鍛えることが趣味の私は““羽目を外す””ということが未だに理解できないが、よい経験だと感じている。
私は騎士として所属する傍ら、王立学園で学んでいる。
現在6学年に籍を置いている。あと3年で卒業である。
4学年以上の生徒は午前に学問や剣術、魔法などを学び、午後からは各所属部署で務めを果たすことになっている。
学園にはこの国の王太子殿下が在籍されている。剣術も魔力も最上級の腕を持ち、国民の豊かな生活の為に、立派に務めを果たし厳しい政策を打ち出し実行されてきた。
そんな私にも幼馴染みという存在がいる。
アクアジークは勿論のこと、クレイサス公爵家のイシード。ベアトリクス公爵家のエリックである。そして、我が国のレオナルド王太子殿下に、王弟陛下である大公のご子息セルカーク殿下である。
幼い頃より次期国王となられる王太子殿下にお仕えし、側近として王族を護る役もいただいていている。更にご友人としても仲良くさせていただいているのだ。王太子殿下は本当に素晴らしい方で私の尊敬してやまない稀有な方である。
そんな王太子殿下は成人を迎える頃から諸外国に足を運び、他国の政や国民の生活を学ぶためにお一人でお忍び外遊なさっているのだ。護衛としてお供を願い出たのだが許可されることはなかった。
帰国される度に、王太子殿下の表情は固くなり体調も優れないようでお辛そうにされていた。
一度、体調が回復されてから次の地を訪れるべきなのではと父上に申し上げたのたが、王命を受けての諸外国外遊のため、臣下である私たちは口を出すことは許されていないのだと言われた。
王太子殿下不在でも着々と準備が進められていた今年の社交界デビュタント。20歳となる殿下の生誕パーティを兼ねた舞踏会のため、今年は盛大に開かれることになっている。デビュタントに関係のない成人を終えた年頃の貴族も参加が認められている。
王太子殿下やセルカーク殿下、そして私たち公爵子息には婚約者はおらず、焦った国の重鎮貴族がこの舞踏会を利用し妃をあてがおうと考えていると聞いた。あわよくば自分の娘を差し出し、姻戚関係を結びたいという考えなのだろう。
ドラゴンレアール国の公爵家にはご令嬢は一人も存在していない。
その為、エランドル侯爵家の令嬢を筆頭として伯爵家以上の令嬢18名と他国の公爵令嬢や王女を含め、総勢28名が私たちの妃候補として名前が上がっている。出席するご令嬢達は大国の王妃、又は公爵夫人の座にどんな手を使ってでも納まりたいと躍起になっている。
毎月行われる婚約者のいない上位貴族が集められる王妃殿下主催のお茶会がある。私達を思っての王妃殿下の格別のお計らいなのだろうが実際問題うんざりしている。王妃殿下の主催であるため欠席することは許されていないのだ。
令嬢たちは手っ取り早く既成事実を作ろうと色気仕掛けで近づいたり薬を盛られたこともある。私達を自分の地位を確立するための道具としてしかみていないのだ。
一生を共にする相手なのだから、地位や名誉は関係なく、一人の人間として接してくれる心根の良い女性を妻に迎えたいと私を初め、皆思っているのだ。
しかし、そのような女性はおらず、年々女性に対して拒否反応を示すようになってしまった。
いずれは政略的な婚姻を結び家のために妃を迎えなければならない。だが今は考えられない。いや考えたくないのた。
王太子殿下は学園を卒業される最後の一年はご公務が多くなることからお一人での外遊は今年で最後となる。
次期国王として、今後はご公務に連れ立つご令嬢を必ず置かなければならない機会が増えることから、妃候補の中からご正妃を選ばなければならないようだ。
王太子殿下が選べなければ、婚約内定の令嬢を宛がわれ、次期ご正妃として発表されるらしい。
あのような女性達の中から選ばなければならないのはお辛い立場である。
最近になり父上から王太子殿下の外遊にもう一つ理由があったと聞いた。
““ 至誠の令嬢を見つけること ””
大国の国母として治められる清廉潔白なご正妃をご自分のお心で決めたいとの願いから諸外国を回っていたようである。
帰国された際の暗い表情から王太子殿下のお相手は見つからなかったのだろうと感じた。
王太子殿下の帰国直後に婚約者に内定した令嬢がいると発表された。しかし、お相手のご令嬢がどの家の方なのかは、未だに明らかにされていない。
日に日に王太子殿下の表情が強張っていることから、政略的な婚姻をされるのだろうと誰もが思っていた。
以前から人前で笑うことは一切なかった。我々も王太子殿下の笑った顔はみたことがない。
このところは以前にも増して表情が強ばり、他者を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。更に、淡々とご公務に励み、容赦のない政策を実行されていたことから、国内貴族、国民からは““完璧冷徹最強王太子””と呼ばれるようになっていった。
一方、妃候補者のご令嬢たちは自分が選ばれるのではないかと期待が膨らんでいる者が多い。特に妃候補筆頭のエランドル侯爵令嬢は自分が内定者であると周りに言い回っているようだ。その話が本当であれば私達が知らないわけがないのだが……
ご生誕の日まであと数ヵ月となったある日、王太子殿下は城下に外出された。
お一人でとのことだったがそう言うわけにもいかない。
護衛任務にあるアクアジークと共に王太子殿下に気付かれない距離を保ちながら護衛していたのだが、一瞬の隙に姿が見えなくなってしまったのだ。
焦った私達はお捜ししたのだが見付からず……夜になっても王宮に戻らなかった。御身に何かあったのではないかと心配し、夜通しお捜ししたのを覚えている。
翌朝、城下町中心にある女神の噴水の前でお姿を確認できたときはアクアジークと共に安堵した。
しかしながら、王太子殿下は平民の娘が経営しているであろう店の前で人の目も憚らず抱き合い、娘の頭上に接吻を落としていたのだ。
見たこともない屈託のない笑顔を浮かべてお話している姿に驚きを隠せなかった。
昨晩はあの女性と一緒に過ごしていたのかと考えるとお世継ぎ問題などが、頭を過ってしまいアクアジークと顔を見合せてしまった。
平民の娘では王妃の座に就くことはできない。
いくら王太子殿下の好いた女性であっても妃にも妻にも出来ない。愛人として置くわけにもいかないのだ。
上位貴族、王族ならば尚更である。
妃の条件として爵位がある家のご令嬢というのは絶対なのだ。確かに人の目を引く美しい女性であるようだが……平民の娘とは現実問題結ばれることは絶対にない。認められないのだ。
変装していたため、我が国の王太子殿下とは気付く者はいないであろうが、二人の人並み外れた美しい容姿に周りは目を奪われ釘付けになっていた。
女性に別れを告げ、名残惜しそうに振り返りながらこちらへ颯爽と晴れやかな顔で歩いてくる王太子殿下に後ろ髪を引かれる思いで声をお掛けする。
私達に気付き驚いた表情をしていた。
『『……お前達いたのか。』』
『はい。』とアクアジークが応えると王太子殿下に話し掛けた。私は何も言えず、黙って後から付いていく。
『恐れながら……あの方はレオ様の思い人ですか?』
『『……あぁ。そうだ。』』
『………レオ様のお妃に……と考えておられるのですか?平民の女性ですよ……お立場が余りにも違っ……』
『『……っ……わかっている……皆まで言うな!』』
『ですが……』
『『……私はあの娘のことを……求めている……』』
『王太子殿下にはご婚約内定のご令嬢がいると聞き及びました。その方はどうされるのですか……』
『『………。お前の言いたいことはわかる。だがこの事はもう聞くな……誰にも言うな……忘れろ、命令だ!』』
『『『……はっ。』』』
アクアジークも私も一言も話さず王宮に戻った。
王太子殿下の見初めた女性なのだから素晴らしい娘なのだろう。友としては応援してあげたい気持ちがある。
しかし、次期国王として立つ殿下のお立場を考えると我々は賛成できない。残念だが、この先あの娘が隣に立つことはないだろう。
城下へ外出した日から数日後、王太子殿下は国王陛下、王妃殿下にご婚約内定の取り消しをしたいと求めたと聞いた。
““我が王国を守るために必要なことで国民を守る王家の役割を忘れてはならない。自分の立場を理解しなさい。””
国王陛下から厳しい言葉が発せられ認めてもらえず、内定が白紙になることはなかったと後から聞いた。
やはり我々は政略結婚を結ぶしかないのだ……と落胆した。
次回No.2に続きます。




