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『さぁ、アリシア……リカルドを頼む!!』
「はい。お任せください!」
「それでは、まずは……これを……」
リカルドの瞳と髪の色の赤と茶色の石で作ったブレスレットをレオナルドに手渡した。
「始めにこのブレスレットを手首に付けてあげてください。」
本当だったら虹色金平糖を口に含ませるのが手っ取り早いのだろうが、アリシアの持ってきた物は絶対に口にしないだろうと思っていた。ブレスレットで魅力の力の能力を弱めてからの方がいいのではと判断したのだ。
『よし、付けたぞ。』
アリシアはリカルドに効いているのか、表情を確認するために近付いていく。クリストファーが不安そうな表情を浮かべたていたが、大丈夫だと頷きリカルドの方に歩みをすすめる。アリシアが近付いても殺気立った様子はみられかった。
《おぉ!これはいい感じかも。効いているみたい!金平糖はいらないかな?首筋のハートマークが薄くなっているようにみえるけど……う~ん……時間が立つと消えていくのかも。……でもまぁ、念には念を入れておいた方がいいのかな。》
「次は、このお薬を口に含ませてください。これでリカルド様の症状は落ち着くと思います。」
『リカルド、口を開けろ。これを口に含め。』
リカルドはレオナルドに言われた通り、口に含み、ゆっくり舐め始めた。その後、意識を一時的に失う。
心配した公子達はリカルドの体を揺すり声を掛けていた。魅力の力の影響で体にかなりの負担がかかっているようだ。だから、体から力を追い出すためにも休ませてあげることが一番だと話した。
リカルドが目を覚ます前に、アモーレの力のことを説明することにした。
「リカルド様の首筋を見てください。首筋にはピンク色の模様があるのですが、この模様がアモーレ嬢の魅力の力の影響を受けている““ 印 ””となります。
男性にはこのマークが、女性には赤黒いばつ印が現れます。
次に、魅力の力の発動条件ですが““ 触れる ””という行為をすることで発動します。
男性は魅了され、女性はアモーレ嬢に対し攻撃的な言動、行動を取るようになります。あの場にいたほとんどの方にこの印が確認できました。
そして、アモーレ嬢が突撃してきた際に、リカルド様が彼女を受け止めてしまったことで操られ正気を失ってしまったと考えられます。
それから、アモーレ嬢には魔力はありません。魔法は一切使えないのです。魅力の力を含んだ魔石を持つことによって力を発動させています。」
「魔石は元々、アモーレ嬢の母親が保有していました。
アモーレ親子がどれぐらいの魔石を保有しているのかはわかりませんが、今回のデビュタントでは胸に付けていたブローチに魔石が取り付けられていました。
ピアニッシモ男爵と婚姻したことで、娘に持たせて社交界の中心となるように力を使わせているようです。
最終目標は高位貴族との婚姻を結ぶこと。それもセルカーク殿下や公子様方を限定し、今後の貴族の長になられる皆様方を狙っております。
学園に入学後のアモーレ嬢は力を使い、在学する全ての男子学生の好意を一心に受けます。より良い家柄の妻の座を手に入れようと学園内で動き周ります。公子様方に近寄ってきますので注意が必要となります。今回リカルド様の件は、アモーレ嬢も予想外の出来事だったのでしょう。
私も、今回のことは突発的に起こったことでとても驚きました。改めて、取り乱し、ご迷惑をお掛けしましたことをお詫びいたします。
皆様方がそのアモーレ嬢の力の影響を受けないようにするために以前より対策を準備しておりましたので、こちらを付けていただきます。」
説明後、それぞれの色を使用し作ったブレスレットを渡していく。ブレスレットだけでは不安が残るため、更にもうひとつ保険を掛けておく。手渡そうとしたところでリカルドが意識を取り戻した。
自分の置かれている状況に頭を抱え、自責の念に苛まれていた。操られていたとはいえ、王太子殿下の側近を勤めていて王国騎士団長と北の公爵位の座をいずれ父親から引き継ぎ、王国民を護っていくのが使命だと幼い頃から言われてきた。
近い将来、国を盛り上げ守らなければならない立場の者が、訳のわからない理由でか弱い公爵家のご令嬢に剣を向け殺害しようとしたことは大罪であり、騎士として許されることではない。自分の掲げる騎士道精神にも反する行為にリカルドの心は後悔で胸が縛られるように苦しかった。
深く頭を下げお詫びしたまま動かない。
『あの女が悪い。操られていたのだから仕方がない。気にするな。』
とみんなで宥めても、真面目なリカルドは自分自身を許すことができなかった。
リカルドを落ち着かせるためにも少し休憩を挟むことしようとレオナルドが提案した。お茶が運ばれてきので、ソファーに皆で腰を下ろすことにしたのだが、
““ 私は隅の方へ控えています ””
とリカルドは言い、伏し目がちに壁側に静かに立つとみんなから距離を取り俯いていたのだった。
他人の力で意図も簡単に操られ、惑わされてしまったことや騎士として築き上げてきた強靭な精神力を保つことが出来なかったことにいつまでも苦悶しているように見える。
レオナルド、セルカークや公子達はリカルドのことを幼い頃から知っているからこそ、リカルド自身が解決するべきことだと何も言わず、敢えて他愛のない話をしていた。彼らなりの深い友情なのだろうとアリシアは感じていた。
自分で克服することも見守るのも大事だし否定はしないのだが、今はリカルドの顔色がとても悪く体調が心配である。魅力の力が抜けたとはいえ、まだ体力の回復も完全ではないようだし、精神的な苦痛も重なって体調が優れないのであろう。あの場で微動だにせず立ってるのは辛いはずである。
アリシアは辛そうに顔を歪めながら俯いていて、今にも倒れそうなリカルドに近付き、正面に立つと穏やかな声音で話掛けた。
「……リカルド様?体調は如何ですか?お辛そうにみえます。あちらで少しお休みましょう。」
今、一番の被害者であるアリシアが関わらなければ、リカルドは今回のことを一生悔やんで前に進めないかもしれないと思っていた。
『アリシア様……。』
『……いえ、私は……私は皆様方とご一緒するわけにはまいりません。……アリシア様にもどのようにお詫びをしたらよいのか……』
「私は気にはしておりません。リカルド様は悪くはないでしょう?悪いのは人の心を操り惑わした者です。心はその人自身の意思に従うものです。それを操り自分の所有物のように扱おうとしているアモーレ嬢が悪いのです。リカルドさまは悪くありません。ですからもう思い悩むのはやましょう!」
『ですが……やはり操られていたとはいえ、王国の騎士として犯してはならない誤りを起こしてしまいました……ですから……』
「気にしないでと言っても駄目なのですね……ならば、一つリカルド様に ““ 貸し ” にいたしましょう!」
『……貸し?とはいったい……?』
「今後、私が助けて欲しいときや困ったことが起こった際にリカルド様のお力を貸していただきたいのです。それで、今回のことは水に流しませんか?」
『……水に……流す……。』
「はい。それに、アモーレ嬢の力を失わせるにはリカルド様のお力が必要です。彼女は今現在もリカルド様は自分に惚れているのだと思って幸せな時間を過ごしていることでしょうね。リカルド様は後悔の念で押し潰されそうにされているとも知らずに……
しかし、そこを利用してこの件を解決出来ないかと考えておりました。ご協力いただきたいのです。リカルド様の ““お友達”” としてお願いしたいのです。」
『………友達。……私に務まるでしょうか。操られ正気を失い、あの女の言いなりになり、また……アリシア様に危害をくわえようとしてしまうのではと考えると……自分自身が恐ろしく感じるのです。勿論、今後はアリシア様のことは身命を賭してお助けすることを誓い、生涯償っていく次第です……
ですが……騎士として培ってきた精神もあの女の力でここまで弱い心になってしまうのか……アリシア様や、皆様方の側にいるだけでご迷惑をお掛けしてしまうのではないかと……不安で……不安で仕方がないのです。』
「そうですか……では私がその不安を取り除いて差し上げます!お任せください。まずは、これをつけましょうか!」
ポケットにしまっておいた箱を取り出し、小さな赤い宝石がついたピアスをリカルドの美しくたくましい手においた。
『これは……??』
「耳に付ける宝飾品““ピアス””と言うものです。私の耳にもこれと同じものが付いています。」
そう言うと、自分の耳たぶに付いた紫色のピアスを触ってみせた。
「このピアスは強力なお守りのようなものです。」
続いて左腕に付けていたブレスレットを右手の人差し指でトントンと軽く叩く。
「先ほどの力の解除では、このブレスレットを使いましたが、完全にアモーレ嬢の力を防げるわけではありません。ブレスレットが壊れて体から外れてしまえば効果はなくなってしまいます。
ですが、耳に付けるピアスならば外れることはありません。特殊な加工を施しておりますので、一度付けたら外すことが出来なくなってしまいますので、そこはご了承いただかなければなりませんが……」
リカルドは自分の左手に置かれた、自分の目と同じ色のピアスを優しく握り、ブレスレットを大事そうに右手で包むように触れていた。
「リカルド様にお付けしてもよろしいですか?」
『……はい。お願いいたします……』
リカルドは握っていた手を開いてピアスを差し出した。そして、うつ向いていた顔をゆっくりと上げて、アリシアの前に跪いた。
突然、リカルドが顔を上げ跪き、燃えるような緋色の瞳を向けている姿は、大好きなおとぎ話にでてきた美しい騎士がお姫様にする生涯を誓う行動のようで、アリシアはドキドキと胸が高鳴っていた。
《きゃー!!役得!なんと美しく、流れるような動作なの~!!やっぱり本物の騎士様は違うね。間近で体験出来るなんて最高!お姫様になった気分!ご馳走さまです!!……あっ、私お姫様だったわ~えへへへ~リカルド様も攻略対象なだけあって超絶イケメンだな。こんな風に近くでご尊顔を拝める日が来るなんて……信じられない!!赤い瞳は情熱的でさらさらの茶色い髪も素敵!!触ってみたい!!触り心地いいんだろうな~もードキドキが止まらない!》
「……それでは、付けさせていただきますね。少しチクッとしますが出来るだけ痛くないように気を付けますね。」
内心興奮状態であるのを悟られないように、出さないように言ってから、どさくさに紛れてリカルドのさらさらの茶色い髪の毛に触れた。たっぷり堪能するためにゆっくりと耳に掛けてあげた。
《やっぱりさらさら!ふわふわ!いいにおいがする!!》
そして、風魔法で小さな穴を開けると同時に光魔法で痛みを和らげピアスを両耳に付けてあげた。照明の光に反射してキラキラと輝いていた。
「痛みはありませんか?これで魅力の力を防ぐことが出来ます!リカルド様……ご安心していただけるといいのですが……あとは……」
リカルドは自分の耳を触り確かめていた。アリシアはリカルドの両手を握り立たせると、癒しの魔法を流し込んでいく。リカルドは驚いた表情でアリシアを見つめていた。顔の血色が段々と良くなっていく。真っ青だった顔もほのかに赤みを取り戻していた。
『……………!!!』
リカルドは鉛の塊のようだった自分の体と心が軽くなっていくのを感じた。アリシアと繋がれているところから温かく、優しい力が送られている。珍しく美しい紫色の瞳が虹色に変わっているようにみえた。リカルドを見つめる瞳は穏やかで柔らかい微笑みを浮かべている。
ドクンドクンと心臓が激しく鼓動をはじめリカルドの顔や体が熱を持っていた。
「もう大丈夫そうですね。顔色も戻ってきましたね!」
リカルドの頬に軽く触れて体調を確認した。リカルドはアリシアが突然、顔に触れてきたことに驚いたのか、ビクリと体に力が入り、顔が更に赤みを帯びているように見えた。
《操られていたときは別として……リカルド様は女性が苦手だったはずだよね……あちゃー……触りすぎちゃったかも。まぁ、こんなことがないと近付けないから今だけ見逃してもらっちゃおう~!それに少しは女性に免疫を持った方がいいんじゃないかな~》
アリシアはリカルドの頬から手を離すと、まだ繋いだままだった右手にぎゅっと力を入れてみんなの座っている方に引っ張っていく。一瞬、リカルドから握り返されたような気もするが、まだレオナルドや公子たちに顔向けできないと……不安が残っているのかな真面目だね~気にすることないのに~と鈍感なアリシアはそれぐらいのことにしか思っていなかった。
「さぁリカルド様、皆様のところへ一緒に行きましょう!」
次回64話はリカルド目線で書きたいと思います。
お楽しみに~!




