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『……私のアモーレ嬢を苦しめる悪女め!!なぜ殿下の執務室に!許せん!覚悟しろー!!!』
と言いながら、リカルドが剣を抜く。
アリシア目掛けて勢いよく飛び出し、切りかかってきた。
「「……うそ!!イヤ。……やだ……やめて……殺さ……な……助け……て…………」」
アリシアは恐怖の余りその場にしゃがみ、うずくまる。
『『リカルド!!やめろ!!!』』
レオナルドの声が執務室に響きわたった。
隣の部屋から待機していた公子達が慌てて駆け込んできた。
““ カキーン!!!””
危機一髪、クリストファーがアリシアの前に立ち塞がり、鞘のついた剣を魔力で強化し、リカルドの剣を止めている。
レオナルドは咄嗟にアリシアを守るため防御魔法をかけた。クリストファーが止めるのとほぼ同時に紫色の光がアリシア包み込んでいた。そして、自分の方へ引き寄せ背中に隠した。
リカルドの体も同じ紫の光に覆われていて、しばらくするとその光が形を変えていた。蛇のようにリカルドの体を締め付けていて身動きが取れない状態になっていたのだった。
『『『リカルド!!お前何を……やめろ……止めるんだ!しっかりしろ!!』』』
駆け付けた公子達によりリカルドは体を押さえ付けられていた。
リカルドはアリシアから目線を外すことなく睨み続けている。隙あらば ““ お前の息の根を止めてやる ”” と言っているように殺気立っていた。
アリシアの存在がアモーレに露見したのであろう。
アモーレ自身がアリシアをライバル認定したことで、リカルドの意識の中に ““ グランツ公爵令嬢アリシア ”” は愛する女性を苦しめる ““ 悪女 ”” にしか見えず、殺さなければと本能的に感じているのだ。
『リカルド殿……そんなに妹を殺したいですか?』
クリストファーは、いつの間に剣を鞘から引き抜き、リカルドの首筋に剣先を向けていた。怒りで冷静さを保てていない。
『クリストファー、剣をしまえ!リカルドを刺せばお前まで処分を受けることになるぞ。
今、あいつは正気ではないのだから何を言っても響くことはない。私はこんなことでお前たちを失いたくない。お前の怒りはわかる。だが、ここは事を荒立てず納めなければならない。
アリシアも無傷だ。大丈夫だ。私が必ず護ると誓う。だから剣を下ろせ!クリストファー、私に任せろ!』
リカルドを今にも切りつけようとしている姿は生気が感じとれず危ういと感じていた。クリストファーをなんとか落ち着かせようと訴える。
アリシアもあのときの恐怖の大魔王様がまた降臨してしまうのでは……まずい!と思い必死に話し掛けた。
遠くの方からゴロゴロ……ゴロゴロと恐怖の音が微かに聞こえているような気がして背筋がゾワゾワしている。
「お兄様おやめください!私は大丈夫です!お兄様と殿下のお陰で怪我はありません。少し驚いただけですから。ごめんなさい騒いだりして……リカルド様は悪くはありません。魅力の力を使ったアモーレのせいなのです。お兄様ー!!魔王様だけは無理ー!!』
クリストファーはチラリとアリシアを見た。
アリシアを見つめる瞳が揺れている。
クリストファーは操られていようがなんだろうが、この先も、今回のようにアリシアに危険がおよび、標的になり失ってしまうかもしれない事態が起こり得るのであれば、この場でその危険分子である公子達を始末してしまえばいい。アリシアが殺されるかもしれないという未来は来なくなるだろう。そうだ……そうしてしまえば、アリシアは幸せに生きていけるのかもしれない。と頭の片すみで思っていた。
一方お気楽なアリシアはこちらを見てくれた!いつもと変わらない優しい目に戻ってきている!今がチャンス!魔王様降臨阻止!!急がねば!と思い、行動に移っていた。
レオナルドの背中からするりと抜け出て、リカルドの近くに投げっぱなしなっていた荷物の側まで駆け寄ると、袋の中に顔を突っ込んでいた。
『……なっ!アリシア……危ないから下がれ!早くこちらへ……』
レオナルドが自分の側から、突然離れてしまったアリシアを慌てて追いかける。
捕縛中のリカルドは、悪女という標的が自分のすぐ近くに来たことで、焼き殺すような憎悪に満ちた視線を向けていた。愛する人の幸せのために、目の前の女を始末したい、殺したいという欲望が殺意となり、からだ全体から凄まじいオーラを発している。押さえ付けられている体をバタバタとさせて自由になろうと暴れていた。
『……何してるのアリシア?!……レオナルド殿下とあちらへ下がっていなさい!殺されかけているんだよ!まだ安全ではないのだから!!早く!!アリシア!!!』
クリストファーがアリシアを心配し声を荒げて言うのだが……当の本人はリカルドのこともレオナルド、クリストファーのことも眼中に無し……
今も尚、お構い無しに袋の中を無我夢中でガサゴソさせていた。そして、目的の ““ アモーレ対策グッズ ”” を取り出し満面の笑みを浮かべ顔を上げるのだった。
「あった!これ!!お兄様ありました!!」
「ん?お兄様……??」
““ 何してるのこの子は……信じられない ””といった顔でアリシアを見つめ呆気に取られていた。
(『あーあ……アリシアにはやっぱり敵わない。この緊迫した状況でよくもまぁ……こっちは必死に考えているっていうのに……
当の本人はあっちへコロコロ、こっちへコロコロ。少しもじっとしていない……泣いたり笑ったり忙しそうだ。
自分の生死がかかっているということは、すっかり頭の中から抜け落ちてしまっているんだろうな。リカルド殿を恐れていたアリシアはどこへやら……
現在のアリシアの頭の中は、
““ 私、いいもの持ってきました!偉いでしょう~凄いでしょう~褒めて!褒めて! ””
といったところだろうか。
なんとお気楽すぎる妹なのだろうか……
持って産まれた、たくましい生命力があるのなら、何があっても生き残る道を見つけてしぶとく生きていきそうだね。
あんなにもヤキモキさせられ、こっちはこんなに心配で仕方なかったっていうのに……我を忘れて怒ってしまったというのに……はぁ~、私も修行が足りないな……父上にも心を鍛えろと言われたばかりなのにな……
公子達を始末してしまえばいいなんて考えるとは……父上にもエメラドーナにも迷惑をかけてしまうところだった。危ない道を行くところだった……
これからは成人したのだから、立派な落ち着いたレディになれるよう、心を鬼にしなければならないな……基本甘くなってしまうのだろうけど……ははは!!』)
『……ふーう……。』
「……お兄様?」
『うん。大丈夫だよアリィ。魔王様にはならないよ!』
「よかっ………!!」
《「えっ!魔王さ……ま……って……もしかして私声に出してたのーギャー!」》
クリストファーは先ほどとは打って変わり、穏やかな表情でアリシアに冗談を言っていた。
レオナルドもそのクリストファーの表情を見てもう大丈夫だと安心していた。
しかし、二人に声を掛けようとして……状況は一変する。
『アリシア!!また勝手な行動をして!何かをするときは必ず報告、相談、説明をしなさいと何度も何度も口を酸っぱくして言ってきただろう。
この間も叱られたの忘れたの?あんなにも反省の弁を述べていたのに?
毎回、アリシアが勝手な行動をすることによって、周りに掛かる多大なるご迷惑のお詫びや負担の処理。その後の後始末を誰がしてると思っている?
そう、兄である私だよ!私の大変さをいい加減わかって欲しいな。
今回のこともそう。もとはといえば、舞踏会場にいた際、上で待っていなさいとの指示を破って下に降りてきたのは誰?
それに、アリシアがちゃんと説明をしてからこの場から去っていたならば、対策をしっかり練ることも出来たし、リカルド殿と鉢合わせすることも、命の危険も避けられたはずだよね。
こんなに大事にはならなかったんだよ?わかってる?少しは相手の気持ちを考え、その場の状況を明確に判断し行動出来るようになりなさい!
まったく!ちゃんと聞いているの!ア・リ・シ・ア!!!』
アリシアはしゅんとして大人しくなり、顔を下に向け、膝を抱えて小さくなりうずくまっていた。
誰かが止めなければ、クリストファーのお小言が延々と続きそうである。
この場にいる妹のいない公子達は、如何に妹という存在が大変な生き物なのかをクリストファーの話で想像し、複雑な表情を浮かべながらも ““ 兄・クリス ”” に同情し、横やりをいれることなく頷き黙って状況を見守っていた。
リカルドは相変わらずアリシアを睨み付け唸っていた。
やはりこの場を治めるのはレオナルドしかいないのである。苦笑いをしながらクリストファーに話し掛けた。
『クリストファー、それくらいにしてやれ。アリシアも反省しているようだ。リカルドを正気に戻せるかもしれないのはアリシアだけなのだろう?ならば、そろそろお願いしたいのだが……』
突然現れた救世主の声に反応し、アリシアは顔を上げて
““ そうなんです!リカルド様を救えるのは私しかいないのです!だから助けて下さい! ””
ときらきらしい瞳を向け、大袈裟に頭を上下させて頷いてみせた。
『レオナルド殿下……アリシアのあの瞳に騙されてはいけません。仔犬のような目で訴えていますが、お気をつけ下さい。あの目は獲物を定めた獰猛なライオンですから……。私も幼い頃から、目の中に入れても痛くないほど可愛がり溺愛してきました。甘く、甘く育ててしまったことに少しばかり後悔の念もあります。
妹には、時に厳しく接しなければ、ためにならないのだと最近身をもって感じ知り得ました。ですから……』
「もう!!……お兄様ひどい!ひどすぎます!!みんなの前で怒らなくてもいいじゃないですか。
私だって皆さんに迷惑をかけないように一応……気を付けてはいるんです!ただ何事も裏目に出てしまうというか……運が悪いというか……思い立ったら考えるよりも行動で示してしまうというか……だから……仕方のないことだと思って諦めてください!」
半ば逆切れ状態のアリシアはクリストファーにおかしな抗議するのだった。
『はは!わかった、わかった。クリストファーの言うとおり気を付けよう。アリシアも反省していることだし、兄妹喧嘩は今日のところはお開きにしてもいいだろう?』
クリストファーは謎の微笑みを浮かべて『はい。私的なことでお騒がせしてしまい、大変申し訳ございません。』と返事をし深く頭の下げた。
レオナルドは破顔しながら、座っているアリシアに手を差しのべ体を起こしてくれた。
辺りを見渡すと笑いを堪えている公子たちの姿があった。その暖かい雰囲気にホッとする。この転生した世界は、まだ自分が知っている世界ではないのだと思わせてくれていたのだ。
『さぁ、アリシア……リカルドを頼む!!』




