61 【 クリストファー激怒編★No.2 】
クリストファー激怒編★No.2の投稿です。
お楽しみ下さい♪
その頃、公爵邸では……
マリーはアリシアから手紙を受け取っていた。いつアリシアが帰宅しても大丈夫なように準備をしっかり整えていた。
『アリシアお嬢様……久しぶりの外出だから作品作りに夢中にならなければよろしいのだけれど……』
数時間後、マリーの不安は的中した。
なかなか戻らないアリシアを心配し、お店まで迎えに来たのだが……アリシアの姿は何処にもない。
入れ違いになったのかと慌てて公爵邸に戻るが、やはりアリシアの所在がわからない。
こんなにも遅く帰ることは今までなかったのだ。
おろおろしていると後ろから声を掛けられる。
『『マリー、そんなに慌てて君らしくないね。何かあったのかい?』』
『……クリストファー様、おかえりなさいませ。』
『実は……アリシアお嬢様がお戻りになっておりません。午後は、アトリエへ行くとおっしゃってお出掛けになられました。しかし、このようなお手紙が届いたのですが……』
執務室から戻ってきたクリストファーにアリシアの手紙を見せた。
『『なるほどね。アリィのことだから夢中になっているだけだと思うけど。』』
『私もそう思い……アトリエにお迎えに行ったのですが……何処にもおられないのです。行き違いになったのではと急ぎ戻りました。部屋などをお捜ししたのですが……何処にもいらっしゃらなくて……』
マリーはお仕えする大事なお嬢様がいないことで不安になり、目に涙を浮かべ狼狽えていた。
『『父上には?』』
『公爵様は国王陛下から御呼びが掛かり、お出掛けになられました。まだお戻りになっておりません。』
『『わかった。私がアリシアを捜しにいく。もしかしたら、アリシアが戻るかもしれないからマリーは部屋で待っているように。』』
『はい……。』
『『まったく。アリシアは……一体どこで何をしているのか……』』
クリストファーは、以前アリシアが行方知れずになったことを教訓にしっかりと対策をしていたのだ。
アリシアに誕生日プレゼントとして送ったアンクレット。それには、追跡魔法入りの宝石が鏤められていた。追跡魔法を発動させて、アリシアの居場所を突き止めた。
『『……よし!見つけた!』』
クリストファーは念のため、髪や瞳の色を外出用に変えてから、転移魔法を使いアリシアのいる場所の前までやってきた。
転移場所は……アリシアの店の近くにあるレストラン。
まもなく日が変わるというのに、ギラギラと店の中は照明で明るく照らされ、笑い声や賑やかな声が外まで聞こえていた。
ガラス越しにアリシアがいるのか確認をすると……
目の当たりにした光景にクリストファーの怒りは爆発してしまいそうだった。
可愛い、可愛い妹の周りに群がる男たち……
成人前の大事な、大事な妹に酒を進める男たち……
そして、愛しい、愛しい妹に求婚を始める男たち……
当のアリシアは酔っ払っているのだろうか。溢れんばかりのとびっきりの可愛いらしい笑顔を振り撒いていた。あれでは勘違いする男は多いだろう。
『リアちゃん!僕と結婚して!!』
『初めて会った時から、ずっと好きだったんだ!』
『お友達からでも構わないから、私と仲良くしましょう!!』
『僕の……僕のお嫁さんになってください!絶対に幸せにしまーす!!!』
その求婚めいた言葉を聞いたクリストファーは抑えていた怒りが大爆発!
““ ゴロゴロ……ゴロゴロ ガッシャーン ””
雷が落ちる爆音と共に荒々しい稲妻が走る。
先程まで穏やかだった天気は一変。外は嵐。激しい風に叩きつけるような雨が降り、雷雲から稲妻が下へとのびて地面に何本も落ちていた。雷の影響なのか店内の照明がプツリと消えた。
激しく鳴り響く雷と凄まじい光を放つ稲妻に驚いた店内にいる全員の視線が窓のある入り口に向かった。
暗闇の中、稲妻の光に映し出される黒い巨大なシルエットが突如現れた。同時に、辺りを凍らせてしまうのではないかと思うぐらいの冷気が人々を覆い尽くしている。
『ひぃぃーーっ!!』
『……何が……!うぅわーー悪魔だーー!』
『魔王さまだーー!!ひぃー……。』
『ギャーーー』
みんな恐怖のあまり動けず、その場でブルブルと震えていた。
『『……何をしている。今すぐ離れろ!触れるな!!』
ドスの効いた声が響き渡り、更に恐怖が増していく。
みんなが手を合わせ祈りを捧げ始めた……
アリシアは聞き覚えのある声にハッとして息をのみ、声のする方を見上げ凝視する。そして呟いた。
「……?魔王さ……ま……いえ……お……にい……さ……………」
アリシアの目の前に現れた大魔王もといクリスお兄様に驚き固まってしまった。
アリシアの発した言葉に反応するかのように店内の明かりが復旧した。間髪いれず、お兄様のお怒りの言葉が続く……
『コラ!!!リア!!!何をしている!今何時なのか、もちろん知ってるんだよね。これは一体何?なんの会?まさか私に隠れて運命の愛する男でも探しているのか?それは許せないよ。僕が真綿で包むように大切に大切に育ててきたのに!ちゃんと!!わかるように!!!詳しく!!!説明をしなさーーい!!!』』
『『……あぁ……そうだね……そうしよう!このリアについた悪い虫たちは、私が……僕の力で木っ端微塵に跡形もなく、今すぐにでも処分してあげるよ。呪いをかけてしまうのもいいかもしれないね。女性に近付けなくなる呪いがあったなー。
……いいよね?だって成人前の女の子に近づいて自分の者にしようと求婚してる悪~い奴らなんだから排除するのは当たり前だよね。』
《げっ……げげっ……なんでお兄様がいるの……その思考……大変恐ろしいのですが……》
いつもの王子様スマイルを浮かべてはいるが、目が笑っていないし、額には無数の青筋が立っていた。クリストファーの後ろには雷と稲妻が鳴り響き、おさまる気配は全くない。
《こわい……怖すぎる!本当に魔王様なんじゃ……》
アリシアはクリストファーの恐ろしさから酔いがいつの間にか覚めていた。
「……あ……あの……おに……いさ………ごめ……ん……な……」
『いやー、急に電気が消えてびっくりしたねーみんな大丈夫かい?』
店の奥からおばちゃん達が顔を出した。
さっきまで一緒にいたのだが ““ あとは若い者同士で~ ”” とお決まりのお見合い常套句を言い放つと、保護者のおばちゃんたちは店の奥に下がって自分たちは別で楽しく飲んでいたようだ。
『おや?見ない顔だね。えらくべっぴんさんな兄ちゃんだねー!!よかったらリアちゃんのお婿さん候補を選ぶパーティに参加していきな!ほら!!座りな!』
『『……お婿さん候補だって……?!』』
「いや、おばさん……この人は……」
『あ?なんだい?……まさか……リアちゃんのこれかい?』
おばちゃんはアリシアに親指を立て““リアの男””なのかと尋ねてくる…
『確かに、こんなきれいな兄ちゃんに求婚されたらコロッといっちまうもんね~私らだってもうちょっと若けりゃお相手になりたいもんだわ!今の旦那なんか捨ててしまうかもしれんね!ははは!!』
『あーあ。残念だけど、あの兄ちゃんの美しさではうちの平々凡々な息子では敵うわけないね……』
『なんだい、リアちゃんも好い人いるんなら言ってくれりゃよかったのに。水くさいね~!幸せになりなよ~!ほら、早くリアちゃんの相手を私たちに紹介しておくれ!』
アリシアはクリストファーをチラリとみた。おばちゃんパワーに圧倒されて、先ほどまでの怒りは消え失せたように見えた。
ホッと一息すると、アリシアは恋人ではなく、自分の兄であると訂正しなければと思い口を開こうとしたら、被せるようにクリストファーが話を始めた。
「えっと……こちらは……」
『『では、私が……。クリスと言います。そうですねー……リアのことをこの世で一番、愛している者とでも言っておきましょうか。特技は予言を唱えることです。どうぞよろしくお願いします。
それから、私の大切なリアはお酒が一切飲めませんし、相手も間に合っています。ですから、今後はこのような会に参加させるのはやめてくださいね。』』
(『『……天罰がくだりますからね。』』)
クリストファーはボソッと物騒なことを呟いた。
《予言ってなに?聞いたことないんだけど……特技?天罰?って……やっぱりお兄様、めちゃくちゃ怒っているんじゃ……》
『いやいや、リアちゃんには飲ませてないんだよ!料理で出したアサリの酒蒸しを食べた途端に楽しくなっちゃったみたいでね~ちゃんと酒をとばして調理したんだけど駄目だったみたいだね!いや~悪かったよ。あんたみたいないい男がいたんじゃ次は誘わないよ!安心しな!』
『『まぁ。今回は許すとしましょう。おばさま方は……。しかし、神様……いいえ、大魔王様はお怒りの様子なので天罰は避けられないでしょうね。大魔王様の使いである、この私が言うのですから間違いなく罰が下るでしょう。
まぁ、ここにいる男性陣は数日間は耐えてください。おかわいそうに……でも仕方がありませんよね。罰は罰ですから。それでは、可愛い私のリアは連れていきますので……皆さんさようならー!ごきげんよう…………』』
「ちょっ……クリスお……」
アリシアはクリストファーに““ 待って ””と言い掛けたのだが聞いていない。
辺りが赤い光に包まれていく。クリストファーの怒りの色と言ってもいいのだろう。その光を巧く使って転移魔法でアリシアたちはその場から一瞬にして消えたのだった。
『……は?』
『えっ……?』
『……なっ……。』
『消えた……?』
『嘘だろ……ありえない……』
『魔王さ……ま……ほんとに……?!』
『て……天罰……?!!』
『ギャーーー!!!助けてー!!』
『『『『『魔王様ごめんなさーい!!!もうリアちゃんには近づきませんからーお許しをーー!!!』』』』』
叫んでいる男性陣の鼻に真っ赤な毒々しい花が咲き始めた。
『うえっ……!!?』
『くっさ!!』
『なんだこれはー!!』
『取ってくれー魔王さまー!!!』
それは、世界一臭いと言われているラフレシアを縮小したような花であり、強烈な臭いを放っていた。
その場にいた男性陣以外の女性たちと付き添いで来ていた保護者たちはあまりの臭さに店の外へ逃げ出した。
『母ちゃん!これを取ってくれ!!』
『頼む母さん!どうにかしてくれよー』
『お前……臭いからこっちに来るんじゃないよ!おぇっ……』
『こっち来んな!今日は野宿しな!家に帰ってきたら臭いでやられちまうよ。さぁ、みんなお開きにするよ!』
お母さん連中は鼻をつまみながら、そそくさと逃げ帰っていったのである。
『なんでだよー母ちゃんたちがリアちゃんを嫁に口説けっていったんじゃないか!!!俺たちは悪くなーい!!魔王様、許してくださーい!!リアちゃん、助けてくれー!!』
お母さんたちに見捨てられた男性25名は、数分前まで荒れていた空を見上げながら、魔王様が消えたであろう天に向かって嘆きの声をあげていた。
その声が届いたのか、雷雲が去り、星がいつもよりキラキラと美しく輝いていた。
その後、余りの臭さに耐えきれず苦しんだ。汗や涙が止まらず、咳き込んだり、気絶したりと散々であった。
3日目の朝日が昇ると同時に“鼻”から“花”が消えてなくなっていたのだが、しばらくは体に臭いが染み付き消えることはなかった。
女性達から距離をとられてしまったとか……なんとか……
公爵邸に(強制的に)戻ったアリシアは、お兄様という名の大魔王様にしこたま怒られた。
大魔王様の後ろにはマリーが鬼の形相を浮かべ、腕を組み仁王立ちして怒っていた。アリシアに大魔王様の叱責から助け船を出すつもりはない!と言っているように見えた。
カルイドパパが帰宅したことで、新たな助け船に““助かったーようやく解放されるー”” と思ったアリシアだったが甘かった……
パパは公爵家の隠された力がクリストファーに発現したことに興奮し喜んでいて、アリシアが床に正座していることなど気に留めてはいない。
本来なら20歳前後で安定する力を覚醒させたクリストファーを褒め称えていた。
『やはり、姉上の子だな!能力の高さは姉上譲りか!!これでグランツ公爵家は安泰だ!よくやった!クリス!!』
『今回の能力の暴走は仕方がない。被害が一切報告がないのは幸いであった。次からは私的なことへの使用は禁じられている。心を強く持て。力を抑える方法を身に付けよ。わかったな!』
『『はい!父上!!しかしながら、今回は私的な理由での使用ではありませんでした。アリシアが“また”やらかしたので……助けるために発動させた次第です。被害がでないよう充分、配慮いたしました!!』』
クリストファーは私はしっかりやりました!悪いのはアリシアです!とアピールするように、にかっと白い歯を見せながらパパに笑いかけていた。
「……パパ……助け……て下さい……反省しています。……足が痺れて……もう限界なんです……」
アリシアは助けを求めてパパに必死に訴えてみるが……
『また、アリシアが勝手をして皆を困らせたのか……だから床に座らせられているんだね。アリシア……明るくて活発なのは君の長所なのだが、時には自身の行動を客観的にみなければならない。兄のような冷静さを持ちなさい。此度のアリシアの行いに関して口は出さないと決めた。しっかりクリストファーの叱りを受けなさい。わかったね。』
「……そんなーパパ……」
クリストファーは『はい。お任せください。』と言っていた。後ろに控えるマリーも何度も頷いていた。
その後も、お怒りは納まることはなくアリシアが行くところには魔王様の監視が付いてくる。街へ行くときもぴったりと寄り添っているのだとか。
あの時の魔王様の罰に怯えながら街の男性たちは過ごしていた。
それから、魔王様の存在を知らない若者が暴走しないように、必要以上に近付かず遠くから見守る ““リア協定””成るものを魔王様と結んだのだと風の噂で聞いたのだった。
アリシアの中で、クリストファーは怒らせてはならない人No.1に位置付けして、魔王様が二度と現れないことを日々願うのだった。




