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   ““ バタン! ””



 『誰だ!!』



 セルカークが厳しい声で扉から突如現れた女を睨み付けている。公子達はレオナルドを守るように女の行き先を塞ぐ。レオナルドはアリシアを抱き締めて後方へ下がった。


 

 『『あら!ごめんなさ~い!間違えちゃったみたい★てへぺろ!』』



 アモーレは悪びれた様子もなく頭に自分の手を持っていきコツンと軽く叩く。どうすれば可愛い仕草になるかを研究された動き。アリシアはアモーレから見えないようにレオナルドを盾にして、隠れながら遠巻きに観察していた。



 《ん?……てへぺろ?……??》



 『お前は何者だ。この場は限られた者しか立ち入ることのできぬ場である。なぜお前のような者がここに入れたのだ。説明しろ。』 

 


 さらに厳しくセルカークが問う。肝心のアモーレはなんだか余裕そう。



 『『えー説明しろって言われても……扉にいた騎士さんがどうぞって入れてくれたんだよ~!アモちゃん悪くないのに~お兄さん超こわたん!!アモちゃん泣いちゃうよ……ぴえん……』』



 アモちゃんって……言葉使いも行動もヤバいよキミ……なんだか聞き覚えのある言葉使いだなっと感じる。現代の女の子の口調のような……?



 (『なんかゲームと違うんだけど~とりまやばたん。おねえのはまってた七髪のなかっしょ。ここ。アモはみんなからちやほやされる陽キャっておねえ言ってたじゃん。スパダリゲットするつもりで今日は量産型メイクでかわたんアモちゃんにしてきたのに……これ無理ゲーじゃね。あの人、アモに激おこぷんぷん丸!こっちのママから貰った石役立たなくない?でも入り口の人にはいけたっしょ。なんでこの陽キャたちに通じない?おねえからもっと攻略聞いとくんだったわー。やばたーん。あせあせ……!まじメンディー……』)


 

 ぶつぶつと独り事をいい続ける彼女。レオナルド含め攻略対象者達が訳のわからないことを呟き続けるアモーレを警戒するように様子をうかがっている。



 要約すると、アモーレの中に入っている人は私と一緒で七色の髪を持つ君に……のゲームを知ってる転生してきた女の子。女子高生ぐらいかな。スパダリ(スーパーダーリン)とりまやばたん(とりあえずまじやばい)あせあせ(焦る)まじメンディー(ほんとめんどくさい)激おこぷんぷん丸等の言葉は現代語だから転生確定だ……しかも若い子でないとわからない……



 《彼女のお姉さんがはまっていたゲームで、多少のゲームの流れ、内容はある程度知っている感じかな。こちらの母親から貰った魅力の力……魔石の効力も理解している感じだし。ただ使い方を知らない?》


 《……っていうか私も知らないけど……ゲームの中だと身に付けているだけで周りの人を虜にしていたよね。使い方なんてあったっけ?ゲーム内のアモーレはどうやって使っていたんだっけ……思い出せ私!》



 『何を訳のわからぬことを言ってるんだ。この場から早く立ち去れ。でないと処罰の対象にするぞ。』



 『『やだーお兄さんまじこわたん。アモちゃんまだこっち来たばっかでマナーとか知らないし~イベントの為にガンダしてきてあげたのにマジがんなえだわー。アモちゃんもう帰る。じゃあねー!』』



 嵐のようにアモーレは去っていった。新しい情報……アモーレは最近転生してばかりだからこちらのマナーは知らないらしい。イベントの為にめちゃくちゃダッシュしてきてあげたのにすごく萎えるわー。と言っていた。翻訳ないとアモーレの言っていること全くわからないかも。現に、レオナルドもセルカークもクリスお兄様を含む公子たちも開いた口が塞がらない……化け物でもみたような顔をしている。



 いち早く動きだしたのはセルカークだった。裏組織らしき黒い服をきた影たちに『あの女の素性を調べろ』と指示を出していた。あれがセルカークの暗殺組織か……こわいこわいこわい……



 『……あの者は一体何を話していたのかわかりますか……』とアクアジークが口を開く。



 『いや……わかりませんでした……この国の言葉ではないのでしょうか。』リカルドが言うと周りの公子達もコクコク頷き呆気にとられている。



 『エリックは他国の言語が幾つか話せたよな。あの女はなんと言っていたのかわからないのか?』イシードがエリックに尋ねる。



 『いいえ。あのような言葉は初めて聞きました。申し訳ありませんが何を言っていたのか理解できませんでした。ですが、あの女の言語は頭の中に全て入っておりますので、お調らべして近日中に皆様にご報告させていただきます。』



 『あぁ。エリック頼むぞ。流石、文部長官の息子だな。一度聞いたことが一言一句違えることなく頭に入っているとは驚きだ。期待しているぞ!』



 レオナルドに誉められたエリックは『ありがとうございます!』と嬉しそうにしていた。この中で一番年下のエリックは末っ子ポジションなのかも。エリックはデビュー前だから本当ならここには居れないはずなのだが、レオナルドが挨拶のためだけにエリックを呼び出し出席させたようだ。エリックもレオナルド達にとって弟のような可愛い存在である。みんなに可愛がられている。


 でもエリックであってもあのアモーレの言葉は難しいだろう。調べてわかるものじゃないし……あとでエリックに翻訳してあげた方がいいだろう。手紙をしたため送ってあげればいいかな。あの現代語翻訳に時間を使うのは勿体ないというか……残念というか……理解できず苦しむエリックが可哀想で……彼の心の安定の為にもこのアリシアさまが一肌脱いであげましょう。



 『アリシア?大丈夫か。驚いただろう。あの者は怪しいやつのようだ。リアに近付けないようにするから安心していい。さぁ座って。震えているよ。』 



 《えっ……震えてる……?アモーレが強烈キャラ過ぎたことによる驚きの震えだな。いやー凄い娘だったな。帰るって言ってたけど、このまま下の会場に降りたら、ご令嬢たちから非難されちゃうのでは?誰かが助けに入っちゃうんじゃないの?》



 アリシアは一番有力な攻略対象者の公子達の顔色を確認してみた。だがアモーレの魅力にはかかっていないようだった。アモーレを目で追っている者もいないようだし……未だに先程のアモーレの言語についてみんなで議論していた。



 アリシアが会場下に目をやるとざわざわと騒がしくなっている。令嬢達がアモーレに非常識だと口々に言っていたのだ。一方で、子息たちがアモーレを守るように令嬢達と対峙している。



 『あなた非常識ではなくて!あちらの場は、王族か許可の得た高位貴族のみが入れる所なのよ。そんなことも知らず立ち入るとはどこの家のご令嬢なのかしら。』


 『そうよ!そうよ!!あなたは一体誰なのよ!』



 『『えっ……なんなの。それ、アモちゃんに言ってるの~?あー、イベント始まった感じ?やったね!それならちゃんと挨拶しないとねー♪私はアモーレ・ピアニッシモよ!ビアニッシモ男爵の娘なの。皆さん、よろしく~!』』



 『まぁ!聞きまして!!ピアニッシモ男爵様は最近再婚されたのは知っていましたけど……平民の女性を妻にしたそうですわよ!まさか、最近まで平民暮らしをしていた養女にマナーも教えず、この場に連れてきたのかしら!考えられませんわ!!』



 『やめろよ!寄って集って非難するなどアモーレ嬢が可哀想だろう!つい最近まで平民だったとしても今は男爵家のご令嬢なんだ!デビュタントに参加する義務はあり、わからないながらも懸命にされているのだから責めるべきではないのではないか?教えてあげる優しさを持ち合わせていないとは……』



 『アモーレ嬢はあの可愛らしい容姿で子息たちを虜にしているという噂は本当だったのですわね。卑しい身分の方はそちらの方がお得意なのではないかしら!ねぇ、皆さん!』



 『『『おほほほほほ!!そのようですわね!』』』



 『アモーレ嬢、お気になさらずに。我々がお守りしますからね!!哀しむ顔はあなたには似合いませんよ。』



 ご令嬢 VS アモーレ・ご子息のにらみ合い、罵り合いが収まることなく盛り上がってきている。

 大人たちは子供同士の争いには見て見ぬふりをしている。関わりたくはないのだろう。国王陛下も王妃陛下も面白そうなことが起こっていると興味深そうに、ニヤニヤしているように見えるのはアリシアだけだろうか……



 《このままだとまずいんじゃないかな……誰かが間に入らないと……》

 レオナルドを見ると困ったように苦笑いしていた。



 「ねぇ、レオ……この状態は余りよくないような気がするの誰かが止めないとせっかくのこの舞踏会が台無しになってしまうわ。アモーレ嬢は少し変わった方のようですし、ご子息方の様子もおかしいように感じます。そうだわ!私が行って来ますわ!お許しくださいますか?」



 そうです。アリシアはこの騒動を収める振りをしてアモーレの魅力の石を無効化しに行こうかとたくらんでいたのだ。



 『駄目だ!!それは認められない。わかった……私が行こう。アリシアはここにいなさい。皆、行くぞ!』



 『『『『『『はっ!!』』』』』』



 《えー!!行っちゃったよ……みんなで行ったら……イベント道り進んでしまうよ……まずいなー……あーどうしよう……》



 レオナルドはみんなを引き連れて騒動の場に行ってしまったのである。アリシアは慌ててみんなを追いかけた。バレないようにそーっと付いて行くことにした。紛れ込んで隙を見てアモーレに近付き、魅力の石を無効化を試みようと考えていた。




 『皆の者いい加減にしないか。このような祝いの場で騒ぎを起こすなど何事だ。成人として各々の立場を考えて行動すべきだ!』



 『『『お……王太子殿下………』』』


 『『『なぜこちらに……』』』


 『『『まぁ!!王太子殿下よ!それにセルカーク殿下と公子様方もいらっしゃるわ!』』』


 『『『キャー!素敵だわ!』』』



 レオナルドの先程の笑った顔を見てからというもの、令嬢達の反応が変化していた。


 今までの怖さ100倍、冷徹王太子殿下から誰もが憧れる素敵な王子様!国内最高の優良物件にみえるのだろう。

 そして、レオナルドの後ろに立つセルカーク殿下、公子様方のお相手となれれば、自分の地位をあげてくれるかもしれない存在なのである。なんとしても気に入られたいとご令嬢の瞳がギラギラしている……


 王族、それに連なる公爵家の婚姻相手は高位貴族のご令嬢からしか選ばれることはない。下位貴族の男爵家の娘のことなどどうでもいい。今はこのなかなか近付くことの出来ないレオナルド達にアピールする絶好のチャンスである。

 だからもう、アモーレのことは眼中にないのだ。



 一方、アモーレは……


 (『『あーー!!やっぱイベント通りじゃん!!さっきはなんか変だなって思ったんだけど……ゲームと同じ!陽キャきたー!アモちゃんを助けに来てくれたん?わーい♡アモ、ヒロイン決定!アリなんとかって言う悪役令嬢が登場すれば、アモ、王妃?女王?になれる!超リッチ、お姫様生活確定~イエーイ!

 ん?んん??……!?わーお♡♡銀髪のスッゴイケメンみ~っけ!ゲームに登場してなくない?初めて見るんだけどー……あのイケメンは……もしかしておねぇが言ってた隠キャじゃね?!アモちゃんを助けに来たレアキャラ~!!あの攻略対象たちの中で一番好みかもしんない!!レア隠キャ登場なんてアモ、マジエモい。マジ運サイコ~!おねぇに自慢したい(笑)悔しがるだろうな♪アモちゃんあの人にきーめーた♪』』)



 アリシアはアモーレの背後をしっかりキープして様子を伺う。アモーレは相変わらず独り言を言っていた。

 まさか……レオナルドルートに行く気なのだろうか……

 レオナルドルートをアモーレが目指すのなら、どのようにこれから進んでいくのか……何が起こるのか……流れがさっぱりわからない……もちろん、死亡フラグの立ち方さえも予想がつかないのだ。



 《もう……どうしたらいいの………誰か教えてー!!!》


 アリシアは心の中で叫んでいたのだった。


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