51 【 王太子レオナルドside~No.2~ 】
~王太子レオナルドside★No.2~再会編~
のお話です。
眠っている彼女を見つめ続けていたのだが、彼女の瞼がピクリと微かに動いた。
今更ながら、彼女の許可なく同じ布団に寝ていたことに、焦りを感じる。彼女はどんなふうに思うだろうか……拒絶されてしまったら……嫌がられたりしたら……
リアの反応が怖くなり、私は今一度目を瞑り寝たふりをする。
彼女は恥ずかしそうに顔を赤く染める。布団から抜け出そうと慌てているようだった。繋いでいた手をそっと離そうとしている。
もう、彼女を逃がしてあげることはできない。繋いでいた手を力強く握り、彼女の体を引き寄せ大切な物を扱うように抱きしめていた。
抱き締めながら『『 助けてくれてありがとう 』』 と耳元で囁き感謝を伝える。彼女は驚き美しい瞳が見開かれ、顔が更に赤くなり枕に顔をうずめてしまった。
「「……イケボ……イケメ……ン……ヤバ……スギ……オーマイガーー……ハカイ……リョク……ハンパ……ナイ……マイッタ……ユメ……カナコレ……アブナ……イ……アブ……ナイ……ハナ……ジブーーー……」」
?……イケボ??イケメン?………ハナジブー???
枕に顔をうずめながらぶつぶつと聞こえてくる呪文のような言葉……そんな彼女の姿も声も何もかもが愛しく感じる。
『大丈夫?驚かせてごめん……』
驚かせてしまったことを詫びると、彼女は意識を戻し、私の謝罪の言葉に反応し飛び起きた。
「お兄さんこそもう大丈夫?痛いところない?苦しいところはない?」
彼女は私の顔や体をペタペタと触り出し、大丈夫かどうかを確認してくるのだが……。彼女に触れられたところ全てが熱を帯びて沸騰しそうだ。
大丈夫、問題ないと伝えたのだが、私の顔が赤い……熱があるのかもしれないと心配そうな表情で更に触ってきたのだ。
あの頃の彼女も私の怪我した手を心配してくれていたなと思う。彼女の慈悲深いところも全く変わってはいなかった。
彼女の名前は “ リア ” この雑貨屋の店主である。
不思議な力のことを尋ねたら、目を泳がせていて困った様子であった。
力のことを誤魔化すように……風呂に入るようにと言ってきたのだ。私を警戒しているようだった。
ようやく私の ““ 唯一 ”” を見付けられたのだから、焦らずゆっくりとリアとの距離を縮めていかなくてはならない。
お店の新商品だと言う癒しの入浴剤をバスタブに入れてくれた。お湯の色がエメラルドグリーンに変わっていく。何とも不思議な粉だ……初めて見るものに驚きを隠せない。
こちらの国は香り高い花を湯船に浮かべ入浴することがあっても、粉を入れるなんて見たことも、聞いたこともないのだ。
疲れを和らげる効果があるらしい。リアの作るものは喜んで受け入れよう!
そして、私の為に白のYシャツに黒いズボンを作ってくれていたのだと言う。白いシャツには美しい刺繍が施されていた。その刺繍にそっと触れると力がみなぎってくる気がした。
風呂に入りながらリアのことを考えていた。
あの力は治癒の能力……光魔法に違いない。初めて見る力だ。リアは物にもその力を込めることができるようだ……
かなりの使い手であるといえるだろう……
平民ならば魔法は使えない。魔法が使えるということはリアは貴族なのか……?それも魔力の高さからいって……高位貴族なのでは……?
特殊な光魔法の力を持っている。あの上品な雰囲気に話し方……それに一つ一つの所作が平民とは考えられないほど美しい……
貴族であるのならば一体どこの家の者だろうか。
リアに聞いてもいいだろうか……
風呂から上がり、入浴剤の良さを誉めると上機嫌になったリアは私の方を振り返る。嬉しそうに微笑むリアを見るだけで幸せな気持ちになり、自然と自分の頬が緩んでいるのがわかる。
私の為に朝食を作ってくれていた。
焼きたてのパンに新鮮なサラダ。栄養満点のごろごろ野菜のスープ。ふわふわオムレツにベーコンを添えて。デザートのフルーツヨーグルトとフレッシュジュース。
どれもとても美味しそうだ。それらの料理を説明しながら手際良くテーブルに並べていく。
食事をしていると、「ねぇレオ?聞いてもいい?」と尋ねてきた。
リアの疑問にはしっかり応えてあげたい。
リアにはいずれ全てを打ち明け、私の側にいてもらいたいのだから……嘘はつきたくない。
だが、流石に今のこの状況で、私がこの国の王太子であるということを打ち明けるのはやめておいた方がいいだろう……
病気なのか……昨日は死んでしまうのではないかと思うぐらい辛そうにしていた……胸にある痣をみてしまった……痣は一体なんなのか……私を苦しめている原因なのではないか……痣を見たときに嫌な感じがして怖かったと……
リアは不思議な力で色々な人を元気にさせてきたけど、今までに治せない人はいなかった。しかし、私に対し、何度も何度も力を注いであげても痣は消えることはなかった……苦しめているものは何なのかと聞いてきたのだ。
私のことを思い辛そうな表情を浮かべていた。自分のことのように心を痛めてくれている。
私は白シャツのボタンを外し、胸の辺りにある“ 痣 ”をリアに見せて話し始めた。
『これは呪いのようなものだよ。産まれたときからこの痣があるんだ。先祖帰りって聞いたことない?』
リアははじっと私の痣をみて、真剣にゆっくりとうなずいた。
『僕の家系には、先祖代々引き継がれている不思議な“力”があるんだ。僕の家系の人間は微量ながらその力を受け継いでいて特別な力を持っている。だが……僕には初代が持っていたと云われるほどの、大きな力を受け継いでしまったみたいなんだよ。』
『その印がこの胸の痣。』
『この印は僕の心臓と繋がっていて、成人を迎えた辺りからその力が増幅し、発現が始まるんだ。力をコントロール出来ずに今回みたいなことが繰り返されもう三年もこの状態が続いているんだ。家系の人間は20歳が近付くにつれて力が定着し安定する。しかし、僕には安定するどころか治まる気配が全くないんだ……この力を治める方法を見つけられなければいずれ……僕の体も精神も崩壊し、世界を巻き込み滅びてしまうだろう……と言い伝えられているんだ。』
リアは私の話を聞き、苦悶の表情を浮かべてうつむいてしまった……助かる方法はないのかと……か細い声で問い掛ける。
特別な力は護らなければならない。文献に記されていたただ一つの方法を教えた。
世界に唯一の “者” を見つければいい。そして、その唯一が見つかったかもしれないと……リアに伝える。
「本当に?レオは死なない?」私、は『あぁ。』と笑顔でうなずく。リアは私が助かると知り安堵の表情を浮かべ、私の手を取り自分のことのように喜んでくれた。
きっと……その唯一が……リア自身のことだとは気付いていないのだろうな……
唯一の存在に……彼女に出会えたことは奇跡なのである。この上ない喜びを感じている。私は嬉しさの余りリアを抱き締めていた。
リアの腰の辺りに回した腕にぎっと力を入れていた。もう彼女を絶対に離すものか……大切な宝物を手に入れた子供のように……いつまでもリアのぬくもりを感じていたかった。
リアは私の頭を優しくなでてくれている。なでられたところからリアの魔力が流れてきてとても心地がいい。ずっとこのままいられたらいいのに……
私が落ち着くまで飽きもせず頭をなで続けるリア。リアが私に触れてくれるとなぜだか胸が高鳴り、心臓がトクン・トクンと激しい音を鳴らし響いている。身体中が熱くて堪らない……これは……この症状は一体何なのろうか。リアの力と関係しているのだろうか……?
突然リアはキョロキョロと辺りを見渡し、心ここに在らずといった感じで焦りだした。どうしたのだろうか。私の腕から抜け出そうてしていた。
名残惜しいが嫌われたくはない……嫌がることはしたくない……そっと彼女ことを解放してあげた。
食事を再開させ、次はリアのことを聞かせてもらうとしよう。今この時を逃したら、何もわからず終わってしまうかもしれない。四年間……初めて会ったときのことを後悔し続けていたのだから………あの時、あの場から去らなければ……と………
リアの不思議な力やどこの家紋の娘なのかを質問する。
リアはどこの娘でもない、ただの雑貨屋の店主であると言う。年齢は13でもうすぐ14歳になる……。
『…………は?13?まもなく14だと?私の6つも下なのか?成人前なのか……………ウソだろ………信じられない……』
「まだ成人前よ。まぁ、確かに見た目が派手だから実年齢よりも老けて見られることが多いけどさ……いったいレオは私のこと何歳だと思っていたのよ。」
頬を膨らませて私を睨み付ける。……声に出てしまっていたのか。彼女の怒っている姿は年相応であり、とても可愛らしい。
私と同じぐらいか1~2歳下なのかと思っていた。
まもなく14歳なるのなら、年始めの成人の儀式には参加するのか聞いてみる。その答えで貴族かどうかわかるはずだ!
「 参加はできない。貴族ではない私は参加資格がない。」と言うのだ……。
ならば、その魔力はどう説明するのか………
貴族だけが保持できる魔法は自分が貴族であると証明しているものなのに……もちろんリアもそのことを知っているだろうに……
なぜ話してくれないか……少し近付けたと思っていたリアと距離がまた開いてしまったかのように感じ寂しい……
ハハ!“寂しい”だと…………この私にこんな感情があるとは。初めて感じる寂しいという気持ち。
今まで、諦めと絶望から何をしていても冷めた感情しかなかった。周りからも冷徹王太子といわれ距離をとられていた。公務に関しても自分の感情を入れず淡々とこなしてきた。
世の中の全ての出来事がどこか他人事のように思っていた。いつか傷付けてしまうのではないかと……出来るだけ他人と関わらないように過ごしていたのだ。
しかし、彼女と出会ってから様々な感情が溢れてくる。彼女と接していると私は血の通った普通の人間なのだと思わせてくれる。
リアは、この力のことは誰にも言ってはいけない約束であって知っているのは家族だけだと言う。
昔この力が現れたときに力のことを知った大人や仲の良い友達も小さな子供まで利用しようと近づいてきたそうだ。
だからこの国に逃げてきたのだと……自分はこの国の人間ではないからこの力が知られればこの国から去らねばならないのだと言って……
リアはうつむき、両手で腕を掴みながら、体を小刻みに震わせていた……
鼻をすすり……泣いているのか?!……しまった!!泣かせてしまった……聞きすぎてしまったのか……リアは下唇を噛み、涙をこらえ、うつむき黙ってしまったのである。
『ごめん、リア。泣かせるつもりはなかったんだよ……もう君の力のことは聞かないから。そうだよね。僕も自分の力のことは秘密にしなければならない身だから、君の気持ちはよくわかるよ。ごめんね……だから泣かないで。』
誠心誠意謝り、今度は私がリアの傍に行き頭をなでて落ち着かせる。
これ以上聞くのはやめた方がいい。これ以上問い詰めたら私の前から彼女が居なくなってしまうような気がした……
リアは頭を撫で続ける私に向かって最高の笑みくれた。
爽やかな秋の晴れ空。気持ちの良い風が吹き草花の良い香りに気分が上がる。空に向かって両手を広げて““今日も良い天気になりそう!””と隣にいるリアは気持ち良さそうに深呼吸をしている。
私もリアに習って空を見上げる。雲一つない透き通るような青い空。太陽が燦々と私たちを照らしている。下ばかり向いていていつも自分の中はどんよりとしていた……昨日までは天気など気にしたことはなかったのだ。
しかし、リアと見る空はこんなにも鮮やかな色をしていて、心も体も清々しく気持ちよく感じるものなのだろうか。これからは上を向いて歩いていけそうだ。
太陽も段々と高く昇ってきている。そろそろ帰らなくちゃならない時間になったようだ。年頃の娘が帰らなければ家族が心配するだろう。彼女とずっと一緒いたいが……私も城に帰ったらやらなければならないことができたのだ。
まずはグランツ公爵のご令嬢とは婚約はしないと申し上げなくてはならない。婚約前にリアが現れてくれて本当に良かった。婚約後だったならば色々と難しかっただろう。
そして、リアのことを調べようと思う。彼女のことを知らなければ次に進むことも出来ないのだから……
リアは 「 またね! 」 と店の外まで見送りをしてくれた。
また会いに来てもいいかと尋ねるといつでも遊びに来てもいいし症状改善の為ならば力を貸す。““ 友達 ””なんだから気にせず会いに来て!待ってるね!というではないか……
……友達…………彼女は恋や愛には全く興味がないようだな。こんなにもリアに気持ちがあるとアピールしているのに……鈍感過ぎる……友達……そうか……友達なのか…………
だが、友達として認定されたと言うことは嫌われてはいないようだ!よし!まずは一歩前進と考えようではないか……!
ハハ…………仕方がないか……まずは友達として仲良くなり、ゆっくりとリアの心を攻略していこうではないか。絶対にリアの心を自分に向けてやるという気持ちを込めて微笑んだ。
リアはなぜか私の瞳をじーっと見つめている。どうしたのだろうか。難しい顔をしていると思ったら、何かを考え込んでいる……
……???……
““ くっ! 眩しい…… ””
太陽の光が窓ガラスに反射して私の瞳を照らす。リアは驚き、両手で私の顔を抑え、自分の顔を近付けてくる。
“!!?……一体何が起こっているんだ……”
私とリアの距離は数センチ……突然の出来事に私は固まってしまった。瞳と瞳が重なりあい、目の前にいるリアのことを見つめたまま放心状態になり動くことが出来なかったのだ……
「…………!!あの時のお兄さん………!!?」
「私、隣国のエメラドーナでレオにあったことがある!四年前に柄の悪い男の人たちに絡まれたことがあってその時に私を助けてくれたお兄さんがいたの。そのお兄さんレオだよね!」
『……四年前……?あの時のハンカチをくれた女の子?リアだったの!?』
「うん!あの時は助けてくれてありがとう。いつかまた会ったらお礼をしたいなって思っていたの。レオがあの時のお兄さんだったなんて!!嬉しい!あっ!ちょっと待ってて!!」
そうだった……隣国で出会っていたことを告げるのを忘れていた……リアに合わせて今気付いたかのようにふるまってみたのだが、白々しかっただろうか……
リアはアトリエに慌てた様子で走っていってしまった……そして、息を切らしながら私の元に必死になりながら戻ってきた。
「これ、レオに……渡したくて。」
手元にはガラス玉のついた小物?らしき物を持っている。
変装時の私の髪色と瞳の色の飾りのようだ。太陽の光にかざしながらリアからの贈り物を眺める。とても綺麗だ。
タッセルというもので、服などにつける装飾品なんだとか。装飾品の他にも悪い出来事から身を守ってくれる魔除けのお守りや大切な人の幸せを願うという意味もあるらしい。
「 レオにつけてあげる!」と、着ている服にタッセルを取り付けようとしている。取り付ける場所がなく自分の髪を束ねていた黒色の革ひもを手解きいてその紐に通して私の首にかけた。
そして装飾のガラス玉に自分の癒し魔法を流し込みはじめた。金色のガラス玉の中には七色の小さな粒が輝き始めた。リアのくれたタッセルは私のちょうど痣のある胸のところに当たっていてなんだか体がポカポカとしている。
““ん??今……リアは大切な人……と言っていたよな……!!?””
““大切だと思ってくれているのか……ハハ!!嬉しすぎる!””
嬉しくてリアを軽く抱き締めた。ふわりとしたリアの柔らかい髪を左耳にかけてあげながら、頭上にキスをひとつ落とす。
『『 またね!リア!! 』』と耳元で甘く囁き別れを告げた。
別れ際、リアの顔を目に焼き付けようと見つめる。すると……顔も耳も首筋も真っ赤に染まっているではないか!
ようやく、私に対して意識をしてくれるようになったのかと喜びを隠せない。
歩きながら今一度リアの方を振り返る。
リアは自身の真っ赤な顔を両手で覆っていて動けずいた。もっと私を意識して……そして早く私のことを好きになって……
弾む心を抑えながら……また明日も会いに来よう。明日も明後日も明明後日も……毎日、毎日リアに会いたい……触れていたい……
そして、いつかはリア自身が私の側にずっといたいと思ってくれるような存在になりたい……そんな日が早く訪れるといいのにな……と願いながら帰城の途についた。
レオナルド目線のお話……またまた収まりきりませんでした(笑)
次回““No.3~舞踏会編~”” お楽しみに!




