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国王陛下の祝辞から始まり、その後デビューを迎えた子息、令嬢が家族と共に王族の元へ挨拶に伺う。
トップバッターはグランツ公爵家。カルイドパパに続きクリス、アリシアが挨拶へ行く。
玉座には国王陛下が中央に座り、両サイドに王妃陛下と王太子殿下が座っている。王太子殿下の隣には大公殿下と大公子息殿下が立っていて、挨拶を受ける。
カルイドパパがデビューの二人を紹介しているあいだ、アリシアは目立たぬようにうつ向いていた。
『グランツ公爵家よりこの二名がデビューを迎えましたことご報告申し上げます。こちらが我が嫡男クリストファー・グランツでございます。そして、こちらが我が公爵家の宝、アリシアでございます。以後、お見知りおきの程をよろしくお願い申し上げます。若輩者の二人ではありますが、温かく見守っていただければ幸いでございます。』
《………宝?…………?》
クリスお兄様に続いてアリシアも深々頭を下げる。
爵位のない者は、正式な場でのマナーとして、王族から話しかけられるまで絶対に!何があってもこちらから口を開いてはいけない。黙って頭を下げるしかない。話掛けられなければここでいそいそと下がるだけである。
『クリストファーとアリシアといったね。本日は誠にめでたい!おめでとう!二人とはゆっくり話がしてみたいものだ。後程、私の相手をしてくれないかな。』
『「はい。」』
国王陛下から声が掛かり、二人は声を揃え御応えする。
続いて、王妃陛下も二人に話掛ける。
『まぁ!まぁ!お二人とも、なんて可愛らしいのかしら。お会い出来ることをとても楽しみにしていたのよ。どうぞよろしくね。アリシアちゃんのドレスとても似合っているわ!此度の準備はお母様がいらっしゃらなくて色々と大変だったわよね。私のことは母と思って頼ってちょうだいね!仲良くしましょうね。』
「はい、王妃様。温かいお言葉、お心遣いありがとうございます。そして、本日の為に国王様と王妃様より、ドレス一式を賜りましたこと、大変嬉しく存じます。わたくしの一生の宝であり大切にさせていただきたく存じます。」
アリシアは更に深く、でも上品に見えるようにお辞儀をする。“宝?”と“宝”を掛けて返答する余裕もある。そして、一人でツボって心の中で大爆笑。表情にはだせないが……
『なんてユーモアたっぷりで素敵なお嬢さんなのかしら!!そうだわ!!そうよ!そうしましょう!!』
《そんなつもりで言ったわけではないが…………ん?何……何をおもいついちゃったの王妃さまー!?》
『あちらに座っているのが私達たちの息子、王太子のレオナルドよ。せっかくだから、アリシアちゃんのデビュタントの思い出に、二人でダンスをしてきなさいな!!』
《へ???なっ……なんだって?……王妃様何言っちゃってるのーー!?無理です。やめてー。早く退散したいのに……ほらほら、さっきから王太子に真顔でめっちゃ見られてるし……隣の王太子大好き!なセルカーク大公子息様が恐ろしい顔で睨んでますよー。》
《そりゃそうさ、大好きな大好きな従兄弟の兄ちゃんの婚約者になるかもしれない突如現れた得体の知れない女……警戒するわなー……アホなこと言うんじゃなかった……いやー……何て言うのが正解なの……断りたい……》
「…………………えっ………と……その……」
小さな声で何といったらいいのか、どもってしまう。
『母上、アリシア嬢が困っているではありませんか。しかしながら、私も彼女に興味がありますので挨拶が終了したのち、改めてアリシア嬢に申し込みをさせていただくことと致します。母上、よろしいですね?』
『えぇ!えぇ!!よろしくってよ!アリシアちゃん少しの間お待ちになっていてね。すぐに終わらせるわ!!』
アリシアは呆然……クリスお兄様は複雑そうな表情を浮かべ、国王陛下、王妃陛下、大公殿下、カルイドパパは妖しく微笑んでいる。セルカークは鬼の形相でアリシアを睨みつけている……敵意丸出し。王太子殿下は無表情すぎて何を考えているのかよくわからない……
《あーあ……終わったな………無事帰れるといいな。》
もうため息しか出ない。アリシアは目立たないように、大きなカーテンと巨大な花瓶が置いてあるテーブルに身を潜めていた。ずーーーっと挨拶が終わらなければいいのに……と現実逃避……
カルイドパパもクリスお兄様も貴族からの挨拶対応に忙しく、アリシアを気遣う余裕がない。仕方のないことなのだが、一人でいると不安になる。
《刺繍をして心を落ち着かせたいな……》
ふと花瓶に目をやる。
《……この紫の花を刺繍できたら元気が出るのに……ん?この花は??なんて花?蘭に近いような花……でも香りが違うし、それにラメのようなキラキラの葉っぱ!見たことがない……流石大国……花まで未知数な王国だわ……》
アリシアは数分前まで、いかにしてこのピンチを乗り越えようか考えていたはずなのに……もう謎の紫の花のことしか頭にない。くんくんと匂いを嗅んでみたり、指で触ってみたり、頬にすりすりしたり、花の裏はどうなっているのかとしゃがんで下から眺めてみたり……しまいには辺りを警戒しつつ、花瓶から一輪抜き、自分の髪に差し込んでみる。ふふふ!可愛い!更に、花びらを五枚ほど……葉っぱを二枚ほど失敬して、ハンカチに包みドレスのぽっけの中にしまう。
《泥棒じゃないよ。研究の為……作品の為だよ!!》
と自分に言い聞かせ、ポケットの中をちらりと覗く。
《家にかえったらこの花で図案を描くんだ!この紫の色の刺繍糸を手芸屋さんで見つけて、この葉っぱのキラキラは何で表現しようかな。》とニヤニヤが止まらない……
アリシアが一人ニヤついていると……
『きゃ~♡♡お美しいわ♡』
『嘘だろ!!まさか……』
『どうしてこちらに…』
といったひそひそ声が聞こえてきた。
なんと王太子殿下が徐々にアリシアに近付いて来るではないか。会場にいた誰もが驚き、令嬢は王太子殿下の目に留まろうと必死にアピールしている。子息たちもまた御近づきになりたいと行動している。
まさか王太子殿下が玉座のある場所から、会場広場に降りてくるとは思っていなかった貴族たちも、これはチャンスとばかりに挨拶をし、御近づきになろうと必死である。
しかしながら、王太子殿下の威圧的なオーラに圧倒され誰も近付くことができず、声を掛けようとすれば鋭い目付きで睨まれる。身を潜めていたアリシアのいる所まで変な道が出来ていて……その道を颯爽と歩いてきて、徐々にアリシアとの距離がつまってきているではないか……
逃げようにも右には花瓶……左と後ろは壁とカーテン……前からは王太子殿下……逃げ場がない。絶体絶命である。
『アリシア嬢、お待たせしてしまいました。改めて君に申し込ませていただく……私とファーストダンスを踊ってくれないか。』
《…………““自分より目上の方にお誘いを受けたら必ずお引き受けしなければなりません””エメラドーナ国でのダンスの先生の声が頭の中で反芻している…………これって……絶対断れないやつじゃん。花の刺繍のことで頭いっぱいにしていないで、体調悪いので一足先に帰りまーす☆って会場から出ればよかったんだよ……何してんの……あたしのバカ……アホ……まぬけーー!!》
「………はい、殿下。……喜んで………」
王太子殿下の差し出した手に、そっと手を添えて美しいカーテシーをする。その美しいアリシアのお辞儀に周りからは詠嘆の声がもれている。アリシアの頭上から “クッ……” と笑いを堪えるような声がした。
《はぁ?王太子、今笑ったー!?笑う要素何にもなかったじゃん!!こっちは必死なのにー!》
王太子殿下の顔をバレない程度にちらりと見たが、無表情……アリシアの気のせいだったようだ。なんだったのかと首を傾げていると……
重ねていたアリシアの手を優しく掴み、王太子殿下の方へひきよせられて、いつの間にか腰に手を回して会場中心のダンスホールに連れてこられていた……国王陛下が指揮者に向かって手をあげると華やかな曲に変わりダンスが始まる……
“王太子殿下のファーストダンスの際は、他の方が一緒に踊ることを許されていません。”
ダンスが始まってから、マドラス侯爵夫人の教えてくれたドラゴンレアール国のマナーを思い出す。
王太子殿下とアリシアの二人は会場にいる大勢の人達の視線を浴びながら踊るしかなかった。ダンス中、アリシアのドレスがふわりとなびくたびに『おー!わー!』っと歓声が沸き起こる。
曲が終わり、カーテシーをして下がろうとしたら……何故か再び近寄ってきて……ホールドされて二曲目がスタート……
《???終わりじゃないのー?!うそー!》
二曲目は遠慮しながらも踊り出す貴族がちらほら。アリシアはなぜもう一曲王太子殿下と踊っているのか……と“???”しか頭にない。戸惑いが隠せない状態でいると、王太子殿下が周りには聞こえない声で話しかけてきたのだ。
『君は私と踊りたくはないのか?先程から気がそれているようだね。初めてだよ。ダンスの相手にこれ程まで興味を持たれないのは。一体君はダンス中に何を考えているのか教えてくれないか?そして、君がどこの誰なのかを……。』
「はい?」
《はい??王太子何て言った?》
《《 “キミガダレナノカヲ……?” 》》
《王太子は私がこの国の令嬢じゃないこと知ってるの?それともエメラドーナ国の王女だって知ってる……?いやいやいや!知らないでしょ。パパが王太子には絶対に言うな!って言ってたもん。ないない。かまかけられてる?とか?ならば誤魔化すしかない!》
「王太子殿下……私はグランツ公爵家のアリシアでございます。どこのだれでもございません。そして、このような場でのダンスは初めてのことですし、王太子殿下のお相手をさせていただくという大役に緊張してしまったのでございます。殿下にご不快な思いをお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます。どうかお許し下さいませ……」
『ほう。なるほど……それでは話題を変えよう。』
《まだ何かあるの……??もう解放してほしい……だって、王太子は無口で無表情。今まで公式の場にも一切顔を出さず恐れられていた冷徹王太子じゃなかったっけ……それに私の大切なお兄様たちを殺すかもしれない人で、自身の妻まで処刑する残酷な男……あの……“完璧冷徹最強王太子(国王)殿下”なはずでしょ……》
『私は、城下町で君を見たことがあるよ。』
《………。はい?……町で……私を見た……?!嘘でしょ……絶対ない……。バレないように髪色も瞳の色も変えて……変装していた!殿下のイケメン顔を見逃すわけがない……!なんで……王太子殿下が……知っているの……???》
もうアリシアは動揺し過ぎて、ぶつぶつと心の声が漏れていることに気が付いていない……変な汗はでてくるし、アリシアの目がキョロキョロと泳いでいしまっている……
『ハハハ!ハハハハハ!!!
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。。。』
『ハハっ!!僕を覚えていないなんてひどいなー』
『……ねぇそう思わない?““ リア? ””』
王太子殿下は動揺しているアリシアの耳元で、アリシアにしか聞こえないぐらい小さな声で呟いた……
《なっ???は??……リア?……今リアって言っわなかった?!なんでその名前知ってるの……?うそでしょ……》
アリシアは驚いて王太子殿下の顔をガン見していた。ジーっと見つめること1分弱……
王太子殿下の瞳に照明が反射し、瞳の中に金色の宝石が鏤められているようにキラキラと輝いているのが見えた。
「えっ……そんな……ウソっ!?……まさか……
……………レ…………オ……………………??!!」
次の50話目は、王太子・レオナルド視点で書きたいと思います。
お楽しみに~!




