表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
第5生徒 閉ざされた少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/487

第95話 とある孫娘の独白

 ライアス・ミストルティン。それが私の名前。

 お婆様にマルク・マギカ女王であるレヴィミール・ミストルティンを持ち、次期女王候補者だった。


 お母様とお婆様から魔法の素質を受け継ぎ、幼い頃から様々な学問を一生懸命勉強した。

 魔法はもちろん、国のことや財務の事、政治の事、それらを必死に勉強した。

 それはひとえにお婆様の喜ぶ顔が見たかったから。お母様の喜ぶ顔が見たかったから。


『ライアスは利口な子だな。明るいし太陽みたいだ。これは私の次の女王も決まったようなものか』

『もうお母様……あまりライアスを甘やかさないでください』


 そんな話をお母様とお婆様がするたびに、私は胸を張って堂々と答えた。


『私はまだまだです。もっともっと色々な事を学び、知り、身に着けます』


 私の精一杯の言葉を、お母様とお婆様は微笑んで受け入れてくれた。

 満足そうに笑って、頭を撫でてくれた。


 私はなんでも知ろうとした。なんでも学ぼうとした。

 けれどあんなもの、知りたくもなかった。

 この世にあんな地獄があるなんて知りもしなかったし、知らないでいるべきだった。


 10歳のある日、私は攫われた。


 攫ったのは、邪神教と呼ばれる集団。

 もちろん授業で習った言葉だったし、そういった集団が居ることも知っていた。

 けれどまさか私がそれに攫われるなんて、思っても居なかった。


 地獄を見た。人の邪悪さを見た。人の死を見た。

 あの場所では、私はライアスではなく『613番』だった。

 ライアスとして話せるのは、彼女と話すときだけだった。


 いつもの飾られた部屋ではなく、冷たい石造りの地下牢。

 いつもの温かい食事ではなく、食べれば吐いてしまう食事とも呼べないもの。

 いつものぬくぬくとした寝床ではなく、ただ他の少女達と身を寄り添い合って眠るだけ。


 少しでも歯向かえば、何十倍もの暴力が返ってくる。

 それを、目の前で何度も何度も見せられた。

 泣くことすら許されない。泣き声はうるさいから。うるさい子は罰を受けるから。


 大きな声で話すことも出来ず、できるのはただ祈るだけ。

 祈りの内容はその地獄から解放されることじゃない。

 毎晩訪れる死神の指の先に自分が居ませんように。ただそれだけだった。


 一人、一人と少女は消えていく。消えた少女が帰ってくることはない。

 当然だ。死神に連れていかれたのだから、行く先は一つ、天国か地獄だろう。

 ううん、例え地獄であっても、あの地獄に比べれば天国かもしれない。


 それでも、私は耐えた。耐え続けた。

 一人、また一人と名前を知った少女が死神の指にさされて消えても、耐えられた。

 彼女と一緒なら、それでもまだ、まだ耐えられたんだ。


 耐えられたのに。彼女のおかげで、耐えることができていたのに。

 私は、耐えられなかった。耐えられなかったから。


「ごめんね」


 その言葉だけを残されて、私は生き残った。生き残ってしまった。

 謝らないといけないのは私の方なのに、謝る機会すらなくなってしまった。


『居たぞ! 生存者だ!』

『邪教徒を一人も逃すな! 殺しても構わん!』

『大丈夫っ! もう大丈夫ですからねっ!』


 その日、私の心が壊れた日、マルク・マギカの軍により、邪教徒の拠点は攻め込まれた。

 中に居た邪教徒は皆、殺されたか連れていかれたらしい。

 私たちは助かった。けれど私たち以外は助からなかったし、私たちだって助かってない。


『ライアスっ! あぁ、ライアスっ!!』

『よかったっ! 本当に良かったっ!!』


 お母様やお父様は私を強く強く抱きしめて、そして涙を流して喜んでくれた。

 私も、もう会えないと思っていた両親に会えたことは嬉しかったし、涙も流した。

 でも、それでも。


 ――どうして私は、生き残れたのだろうか


 何を思って泣いているのかは、よく分からなかった。


『本当に間に合って良かった……本当に……無事で……』


 お婆様もそう言って涙を流しながら何度も優しく撫でてくれた。

 人の温かさにまた触れたからか、それとも助かった安堵からか、体は涙を勝手に流した。

 でも、それでも。


 ――どうして私は、生きれているのだろうか


 やっぱり何を思って泣いているのか、よく分かっていない。


 ――どうして私は、死んでいないのか

 ――どうして私は、また元の世界に戻ってこれたのか

 ――どうして私は、あの地獄を抜け出せたのか。


 ――簡単でしょう? お前の代わりに沢山の少年少女が、彼女が死んでくれたからだよ


 ひび割れた心に、また亀裂が入った。


 屋敷に戻ってからというもの、私は部屋に籠った。

 ううん、籠ったんじゃない。出られなくなった。

 部屋から出ることが怖い。もし少しでも出れば、また邪教徒に狙われるのではないか。


 また、私の代わりに誰かが死ぬのではないか。


 そう考えるだけで足が震えて、体が震えて、部屋から出れなくなる。

 夜なんて、布団に入って震える日々だ。


『……お願いします。一人にしてください。一人……に……』


 最初はお母様やお婆様も心配していたけど、私の方から遠ざけた。

 これ以上皆に、迷惑なんてかけられない。


 部屋に閉じこもってから、出来ることだけはした。

 本も読んだし、勉強もした。そうでもしないと、考えてはいけないことを考えてしまうから。


 けれど魔法の勉強には限界があった。

 室内で魔法は使えない。だから先生も、もう教えられないと言って去っていった。

 その後お婆様が手配して新しく来てくれた先生も、打つ手はないと言って去っていった。


 次期女王についても辞退した。

 お婆様はまだそれを受け入れてないみたいだけど、もう私にその資格がない。

 他の子を身代わりにして生き残った私が、女王になる資格があるのだろうか。

 いや、あるわけがない。


 他のみんなが言ってくれた『マルク・マギカの太陽』という言葉も、全く聞かなくなった。

 当たり前だ。ただ閉じこもっているだけの私が、太陽になんてなれる筈がない。

 マルク・マギカの女王になんてなれる筈がない。むしろなるべきは……。


「…………」


 広い、広い部屋。

 隣の洗面室や浴室、別室とも繋がるここが、私の世界。

 窓も閉じて、カーテンで閉じ切って、閉じて閉じて閉じて。


 それが、私の世界。


 ううん、本当は分かってる。これは閉じたんじゃない、閉じられたんだって。

 だから誰でもいい。誰でもいいから。


 私を、ここから出して。


 誰も居ない真っ暗な部屋で、私はいつ現れるかもわからない英雄ヒーローを、ただただ待ち続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ