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転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
第4生徒 選ばれた少女

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第93話 間章:動き始める各国

 ~セイラン国 コンゴウ城~


「……緊張するな」


 ふぅーと大きく息を吐き、緊張を少しでも和らげようとしたけど、あまり意味はない。

 これからこのセイラン国の王と会うんだから、緊張もする。

 先生に緊張を制御する術も聞いておけばよかったな、なんてことを思った。


 意を決して、扉をノック。

 心地よい音が響いた後で、中から「入れ」という低い声が聞こえた。

 声に従って扉を開いて中へ。声の通り、一人の男性が椅子に座って待っていた。


「よく来たな……君たちの噂は聞いているぞ」


 このセイラン国の国王、リュウガ・コンゴウ陛下。

 筋骨隆々の大柄な体格に短めの黒髪、そして獰猛な獅子のような顔立ち。

 僕の知る中でもここまで男らしいと感じる人は居ない。


「初めましてリュウガ陛下、『星の牙』の斥候役、ルイ・クロードと申します」

「固いことは良い。さあ、座れ座れ」

「失礼します」


 巷ではその見かけ通りの豪快で活発な王だと聞いたことがある。

 刀の腕は一級品で、武力も駆使してこのセイランを一つにまとめた豪傑。

 そんな人と一対一で話すなんて、流石に緊張して唾を飲み込んだ。


「呼び出してすまないな。ただ……ほら、なんだ? 君のパーティの残りは女性だろ? 君以外を呼んで二人きりになると周りがうるさくてな。訳の分からん邪推をする輩も居るんだ。まったく、手を出すならもっと年上にするというのに」

「は、はぁ……で、ですがこうしてリュウガ陛下と話せること、光栄に思います」


 ため息を吐いたり、はっはっはっ、と笑う姿は王というよりも気楽なおじさん……なんて言ったら怒られるかもしれないけれど、でも思った以上に話しやすい人だった。


「キサキ山の件は聞いたぞ。巣食っていた魔物を倒したそうじゃないか。結果として冒険者が消える事件もぱたりと止まったらしい。改めて礼を言わせてくれ」

「あの魔物が原因かと思っていましたが、そうだったんですね。本当に良かったです」

「以前はキサキ山は冒険者が命を落とすやや危険な場所だったが、ひょっとしたらそれもなくなるかもしれないな。ああ、そうだ。俺としたことが本題を忘れていた。聞けば君はかなり弓に秀でているらしいな。それを学んだ場所があると噂に聞いたが……」

「はい、シエルエイラ国のエステルの街外れに教室がありまして、そこで学びました」


 はっきりと答えると、リュウガ陛下はうんうんと頷いた。


「噂だが話は聞いている。小規模ながらも素晴らしい授業をする教室があると。やはり君はそこの出身だったか……良ければ教えて欲しいのだが、どのようなことを習うんだ?」

「……難しいですが、僕……いえ、私は弓の扱い方や戦技の再現について学びました」

「おお、戦技の再現!」


 既に噂で聞いているのか、リュウガ王が破顔する。


「まだほんの噂でしか聞いていないのだが、戦技の動きをすることで戦技が逆に発動する……それは本当なのか?」

「はい、本当です。現に私も、パーティメンバーのアンナも出来ています」

「なんとなんと……なるほど、君たちが冒険者ランク以上の働きをするのはやはりそのためであったか……」


 感心したように呟いた後で、リュウガ陛下はおそるおそるという形で尋ねてくる。


「それで……その……戦技の再現とやらは難しいのだろう?」

「難易度はかなり高いです。私も日々努力していますが、Cランクでも一部しかできません。教室では先生が私の動きを記録水晶で保存し、それを見つつ私に最適な動きを一緒に考えてくれました」

「記憶水晶を使って動きを保存……? 最適な動き?」

「戦技の再現をする際の動きは、一人一人細かく違うんです。もちろんそれを完成させるのは私たち生徒ですが、先生も一緒になって道を探してくれる。歩んでくれるという形です」


 先生との日々を思い出しながら、誇らしく話す。

 教室の事を話すのはもう数えきれないほどになるけれど、いつ話しても楽しい。

 胸が弾むような気持ちになるとはこのことを言うんだろう。


「なるほど……難しく、時間もかかる……と」

「教室では私が教わった先生は私一人にかなり時間を割いて頂きました。パーティメンバーを指導した別の先生も三人を集中的に指導して頂きましたし。また、手紙で知ったのですが、最近は少人数相手に指導をしているようです」

「ふむ……そこまで時間が掛かるなら一気に大勢に……は流石に無理があるか」


 魔物が溢れるこの世界で、効率よく強くなれる方法は価値が高い。

 そういった点のみで見れば、先生の指導は微妙かもしれない。

 けれどそんなものを吹き飛ばすほど、あの教室はすごいと僕は思う。


「教室で教えている教師も、私を受け持ってくださった先生の元教え子です。だからこそ先生の指導が受け継がれていて、効果を発揮しているのだと思います」


 これを見よう見まねで他の人ができるかと言われると、無理ではないかと思う。

 実際に指導を受けたイヴさんや僕だからこそ、先生の教えを次に引き継げるんじゃないか。


(それに先生は、今もずっと生徒達を見ている)


 僕たちの頃からそうだった。

 先生の担当は僕だけなのに、同時にイヴさん経由でアンナ、ユウリィ、ミルキーの指導も監督していた。

 それはきっと今だってそうだろう。イヴさんと……ムゥ? とかいう人が教えている生徒達を間接的に見ているのは先生だ。


 本当、あの人は生徒を教えることが好きなんだろう。

 それを思うと、自然と口角が上がった。


「……その先生の名前は、もしやエンディ・スカイグラス殿ではないか?」

「…………」


 すっと、意識が切り替わる。急に呼ばれた先生の名前。

 知っていても不思議じゃないけれど、僕たちは先生の名前を出して宣伝していない。

 ただエステルの外れに素晴らしい教室があることだけを宣伝している。


 何が目的なのか、そう警戒したときに。


「違うのか? アガート……ああいや、アガート陛下から秘密裏に力を貸して欲しいと言われた人物の名前だったから、そうだと思ったのだが」

「……へ?」


 アガート陛下? 秘密裏?

 一体何を言っているんだろうと思ったけど、僕のその態度がもう答えだった。


「やはりそうだったか。ツカサからエンディ殿の近くにレンに並ぶかそれ以上の女傑を見た、と聞いていたからもしかしてと思ってな」

「あ、ああ……そうだったのですか……」


 驚いた。まさか既に知り合っていただなんて。

 それにしてもシエルエイラ国のアガート陛下とも顔見知りで、しかもその陛下が秘密裏にリュウガ陛下に協力を依頼するなんて……さすが先生だ。

 そんな偉大なる方に教わった僕は幸せ者だとつくづく思う。


「それにしても、あのレンを越えるほどの女傑とは……本当に女なのかと疑わしいがな」


 がははっ、と笑うリュウガ王を見て苦笑いする。

 なんとなく思っていたことだけど、この人、ちょっと失礼というか、なんというか。


(イヴさんが聞いたら怒り……いや、怒らなさそうかな?)


 なんというか、あの人が自分のことで怒る姿が想像できなかった。

 そこまで考えて、ふと、あれ? と思った。


「あの……リュウガ陛下。ツカサ?さんが先生と会ったのはいつの事なのですか?」

「ん? ついこの間だぞ。今はもうシエルエイラに帰っていると思うがな」

「くっ!? なんてことだ、先生がいらっしゃっていたのに、お会いできなかったなんて!」

「おぉ……そ、そこまで悔しそうにすることか?」


 それにさっきのリュウガ陛下の言葉では、イヴさんとムゥとかいう人も一緒だったんだろう。

 先生と旅行だって? なんて羨ま――いや、羨ましい。


「ふむふむ……それにしてもなるほどなぁ……アガートの奴、隠していたか……」


 こうなったらなるべく早く……いや、もうある程度冒険者として活躍したし、教室も宣伝した。

 帰っていいんじゃないか……いや、でももう少し頑張るべきか……うぅん……。


 僕は少し悩んだ後で、帰ってアンナ達に相談してみようと、そう決めた。






 ◆◆◆





 ~マルク・マギカ国 ミストリア城~


「で? どうだった?」


 玉座に腰かけた妙齢の美女が配下に尋ねる。

 配下は膝をつき、頭を下げて「はっ」と返事をした後で調査結果を報告した。


「かの教室の面接にて落ちた者に話を聞いたところ、確かに……とのことです」

「いたのか……ムゥ魔塔教授が……」

「はい。ただ面接を主導したのは彼女のさらに上の者、とのことでしたが……」

「ふむ……もしかするとその人物こそが、ヴァンディがかつてムゥ魔塔教授から聞いたという『英雄』……分かった。もうよい。ご苦労だった」

「はっ、失礼いたします」


 配下を下げさせて、美女――マルク・マギカ魔法王レヴィミール・ミストルティンは思料する。


「『英雄』……もしかしたら……その者ならば……」


 そこまで呟いたレヴィ女王は口を噤み、息を吐く。

 そしていつも通りの不敵な笑みを浮かべて、遠くの国に居る男を思い浮かべた。


「くっくっくっ……アガートの狸め……隠したな? 馬鹿者め、隠し通せると思うな」


 女王は今から一週間後にある各国王の会談に、狙いを定めた。

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