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転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
第4生徒 選ばれた少女

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第75話 クジャクミヤ家の一人娘、サナ

「……なあ、なんで全員で待ってるんだ? これ」


 自分の教室で、椅子に座って人を待つ俺。

 その右隣に座るのはイヴで、左隣に座るのはムゥ。

 俺の教室の先生陣が勢ぞろいする状況だ。


「今回面接する方は先生の指導希望ということですから、それは私達も同席させていただきたく思いまして」

「同意。確認、必要」


 これまで何度もやっている生徒面接なのに、二人の表情は真剣そのもの。

 このためだけに面接の時間を夕暮れ時にして、授業も早く終わらせた徹底ぶりだ。

 自分の受け持つ生徒じゃないから、そこまで気にすることでもないと思うんだが。


 ノックの音が響き、イヴの返事に応えるように扉が開く。

 入ってきたのはタケルさんで、彼は俺たち三人を見て深く頭を下げた。


「今回はお時間を取っていただき、ありがとうございます……サナ様をお連れしました。こちらに招き入れても構いませんか?」

「ああ」


 返事をするとタケルさんは軽く頭を下げ、扉の前から少しだけズレた位置に移動する。

 そしてその姿勢のまま制止した。


 すっと、人影が教室の中へと入ってくる。

 真っ先に目に映ったのは、体の動きで揺れる艶やかな黒髪。

 ムゥよりは高いが、イヴよりは少し低い身長。身にまとっているのは女性ものの着物。


「…………」


 俺が日本という国出身だからかもしれない。

 その姿に思わず見とれた。古き良き時代の日本風美女が、入ってきた。

 もちろんイヴだって美人だし、ムゥも可愛らしい部類に入るだろう。


 けれど今入ってきた彼女は純粋に美しいと感じた。

 容姿はもちろん、纏う雰囲気も、ところどころの所作も洗練されている。


「……初めまして、サナ・クジャクミヤと申します」


 サナと名乗った少女は椅子の横に立ち、流れるような動きで一礼した。

 すごい。なにがすごいかというと、その……彼女は肌の露出がかなり少ない着物を着ているのだが、それで隠しきれないほどのボディラインと……立派なものをお持ちだ。


「……ああ……どうぞ、座ってくれ」

「はい、失礼します」


 椅子に座る姿も優雅で、名家の令嬢というのはこんな雅なものなのかと思ったほどだ。

 あれ? ムゥも名家の令嬢じゃなかったっけ? と思ったけどきっと気のせいだろう。


「サナ様は御年17歳です。こちらでご指導いただきたい内容については事前にお話した通りですが、何か質問等があれば遠慮なくお願いします」

「17歳……」


 と言うことはイヴやムゥよりも年下ということになる。

 その若さでこの凶悪な……。


「先生?」

「……こほんっ。あー、サナと呼ばせてもらうぞ?」


 左右から視線を感じ、邪な気持ちを抱かないように尋ねる。

 教師として、生徒の事は純粋な目で見るべきだ。


「はい、構いません。よろしくお願いします……その、えっと」

「エンディだ」

「はい、エンディさん」


 屈託のない笑顔を浮かべるサナ。

 人懐っこい、陽だまりのような笑顔に見えた。


「タケルさんから話は聞いているが、この世界の常識や知識といった座学方面を教えるということで、お前はいいんだな?」

「はい、そちらでお願いします」

「ふむふむ……」


 とりあえずタケルさんとサナの間で意見は一致しているようだ。


「エンディさん……いかがでしょうか?」

「うーん……」


 タケルさんに言われ、じっとサナを見る。

 何かピンとくるものがあるかと言われると、正直何も感じない。

 というよりも、感じたところで指導するのは座学が主なわけで。


(……まあ、別にそれだけならいいか)


 今現在、暇とは言わないが、生徒一人に座学を教えるくらいの余裕はある。

 サナは見た所礼儀正しそうだし、何かを隠している様子もない。

 何よりその瞳からは、教わりたいという強い熱意を感じた。


「よし、受け持とう」


 頷き、そう答えるとタケルさんは満足そうに頷いた。

 サナも少し嬉しそうにしている。


「せ、先生? そんな簡単に……」

「そうは言うが、お前かムゥの教室に入れるわけにはいかないだろ。向こうがサシの指導を望んでるなら、それに応えられるのは俺だけだ」

「……で、ですが」

「もう決めたからな」


 こんな金づる……っと、熱意がありそうな生徒を逃すのは馬鹿のすることだ。

 俺は絶対に譲らないという意志を込めてイヴをまっすぐに見れば、彼女はやがて渋々といった形で受け入れてくれた。


「……先生がそう言うなら」

「異議、なし」


 ムゥからは反対はなし。ただ感づかれているのか、視線が少し厳しい。

 いや別に俺、金に目なんか眩んでねえし。


「サナ様はしばらくエステルの街で滞在してもらう予定です」

「まあ、セイラン国は隣とはいえクジャクミヤの領地とは遠いからな」

「一つお聞きしたいのですが、皆様はエステルの街に家をお持ちですか?」

「……あ?」


 なんでそんなことを聞くんだ、と思ったものの、とりあえず返答する。


「いや、俺たちはこの近くに家を持っていて、そこに住んでいる」

「なるほど……それでは一つ提案なのですが、そちらの家にてサナ様もお世話になることはできないでしょうか? 当主様からの意向で、サナ様には料理や洗濯などの家事の経験もさせたいとのことで。ですが宿を取るとなるとそれも難しく……」

「…………」


 言いたいことは分かるものの、それで急に一緒に住みたいと言われても少し困る。


「無論、手助けをするための侍女も手配します。……いかがでしょうか?」

「う、うーん……」

「もちろん、皆様のお手を煩わせることになるので、お礼も少し……」


 タケルさんは俺の前まで来て、テーブルの上に懐から取り出した袋を置いた。

 中に金貨がびっしりと納められたそれを見て、心が揺れ動く。

 ま、まあ宿に入れる金を俺が受け取るようなもんだし……と思って受け入れようとしたとき。


「良いのではないでしょうか」


 意外なことに、肯定的な声を発したのはイヴだった。


「家事全般でしたら私が教えられますし、ムゥも……ああ、料理はダメですが、それ以外なら指導できます。常識を知るという意味では毎日の生活を共に送るのが手っ取り早いとも思えますし」

「お、じゃあムゥは?」


 念のために、ムゥの方も確認してみる。


「失礼、料理、できる」

「ダメです。先生からムゥは決して厨房に立たせるなと言われています」

「理不尽、異議あり」

「ダメなものはダメです。先生の言うことは絶対です」


 特に問題なさそうだ。というかお前、まだ料理諦めてないのか。


「……まあ、二人とも良さそうだし、俺も構わないが……サナはそれでいいのか?」

「はい、皆様の御迷惑にならないよう、精一杯務めさせていただきます」


 うん、とても礼儀正しくて良い。

 胸の前で拳を作るのはいいが、気合が入りすぎだと思えるくらいだ。


「そうなると侍女は不要かと思います。同じ女性の私達がいますし」

「……ですが」

「サナさんの事を考えても、侍女が居ては甘えてしまう可能性もあります。当主様の御令嬢ということですし」

「……はい」


 イヴの言葉は何一つ間違っていないと思えたが、タケルさんはどこか歯切れの悪い返事をしていた。

 一体何なんだろうかと思ったものの、話はとりあえずまとまったので気にしないことに。


「……ではその代わりに影の護衛を置いても良いでしょうか? クジャクミヤ家としても、サナお嬢様は大事なお方なので……もちろん、皆様の邪魔にならないように言って聞かせます」

「あー、そういうことなら」


 クジャクミヤ家としてもサナ一人をここに置いていくのは流石に不安なのだろう。

 影から見守る護衛を置く、というのも分かる。

 あれだ、昔の日本の忍びみたいなやつだ、きっと。


「また、私も一月に一回程度の間隔で様子を見に来ても構わないでしょうか?」

「ああ、いいぞ」

「ありがとうございます。では早速今日から、よろしくお願いします。家のものを連れてきているので、後ほど家に荷物を運ばせます。とはいえ量はそこまで多くはないので……あ、前金については次回訪問時に持参いたします」

「おお、楽しみにしてる」


 うんうん、と頷く。タケルさんはサナを頼んだ後に教室を去っていった。

 サナの荷物も実家の方から持ってきていたらしいが、俺が断ったらどうするつもりなんだろうと、ちょっと思ったりした。


「ムゥ、良い機会だからサナに家を案内してあげて。私達は校舎を片付けてから行くわ」

「? 分かった。サナ、こっち」

「は、はい」


 イヴに言われ、ムゥもサナを連れて教室から出ていく。

 残ったのは俺とイヴだけ。


「ムゥだけじゃ心配だな。イヴ、時折面倒を見てやってくれ」


 イヴは微笑んで俺の方を向く。


「はい、掃除や洗濯、料理についても一通り私の方で指導しましょう」

「おお、そうか」


 なんというか、イヴの態度が珍しい。

 面倒見が良いというか、なんというか。ムゥの時にはこうじゃなかったはずだ。

 まあムゥは俺の家について詳しかったからだとは思うが。


 そんなことを思っていると、じっと教室の扉を見ていたイヴは何かを確認したようで、俺の方を改めて向いた。


「イヴ?」


 と思ったものの、俺を見て口を噤んでしまった。


「いえ、なんでもありません。片付けてきますね」

「???」


 よく分からなかったものの、結局イヴは何も言わず教室を出ていってしまった。

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