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転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
繋章1  教室を訪れる者達

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第66話 天才魔法少女の帰還

 とりあえず嵐は去った。

 あの様子では完全に解決したわけじゃないが、ひとまずは終わりと思っていいだろう。

 もし教室に手を出すなら、その時は容赦しない。


 ……まあ、俺よりも先にイヴにみじん切りにされて、ムゥに消滅させられそうだが。


「久しぶりだな、ムゥ」


 隣に立つ小柄の少女に声をかける。

 短めの黒髪は記憶のままだが、身なりが少し変わっていた。

 漆黒に白銀の装飾が入った魔導服はかなり似合っていて、ミステリアスさを演出している。


 ムゥはその顔に満面の笑みを浮かべ、しっかりと頷いた。


「ただいま、エンデー」

「最近はどうだ? 魔塔の教授になったってのは聞いたが……」

「うん、指導、たまに」

「そうか」


 ただ、なんだろうか。なぜか少し嫌な予感がしていた。

 つい最近感じたもののはずだが、それがどの時と同じ予感なのかが思い至らない。

 なんか、ギルドでこんな感じを覚えたような気が……。


「ははっ、すげえじゃねえか。魔法の使えなかったクソガキが大出世だな。俺も鼻が高いぜ」


 その嫌な感覚から目を逸らして、ムゥを褒める。

 いやまさか、そんな筈はない。まさかイヴに続いてなんて、そんな。


 ムゥはもう一度頷き、そして俺をまっすぐに見て。


「あ、訂正。私、元教授」

「…………」

「魔塔、辞めた」

「…………」


 瞬きを数度、繰り返す。

 魔塔、辞めた。魔塔、辞めた。……お金、入らない。


「はぁ!?」

「っ!?」


 俺の大声にムゥがびくっと体を揺らしたが、それを無視して彼女の肩を掴む。


「や、ややや、辞めた!?」

「う、うん……」

「魔塔を!? 魔塔の教授を!?」

「うん」

「いや、いやいやいやいや、なんでだよ!?」

「……私、ここでエンデー、助ける」

「いや、助けるって……」


 イヴに続いてのムゥの凶行に頭を抱えた。

 するとムゥは一歩前に出て、俺に正面から抱きつく形になる。

 とはいえ彼女はあまりにも小柄で、妹が兄にじゃれているような構図だ。


「私、この教室が好き。だから魔塔じゃなくて、ここに居たい。ここでエンデーと同じように先生になりたい」


 普段とは違う口調と、その声に籠った気持ちに何も言えなくなる。

 それを察したからか、ムゥは畳みかけるように続けた。


「私とエンデーは盟友。一緒に魔法を作り上げた相棒。だから、いいでしょ?」


 盟友や相棒、そういった言葉に、かつて共に魔法を作り上げた時の光景が思い浮かぶ。

 実際、あの日々は俺にとっても楽しくて、中々に価値がある時間だった。


「……ま、まあ」


 だからこそ、そんな曖昧な返事をしてしまうわけで。


「えい」


 すっと視界の外から出てきた白魚のような手がムゥのローブの襟を掴み、俺から引き剥がす。

 動きはゆったりとしていたのに、掴んだ時の力の入りようは見ているだけで強く、ローブは皺になっているし、ムゥは成すすべなく後ろへ引っ張られていた。


「こんにちはムゥちゃん、初めまして。私、先生の『第一の』生徒のイヴって言うの。よろしくね」

「…………」


 俺をじっと見ていたムゥはイヴからの言葉に、ゆっくりと顔を動かす。

 ムゥを見下ろすイヴと、イヴを見上げるムゥは数秒間じっと目線を絡ませ合い。


「ああ、そう。よろしく。私、エンデー、『相棒』、ムゥ」


 なんでイヴは「第一の」をめっちゃ強調して、ムゥもムゥで「相棒」を強調するのだろうか。

 二人の目線の間に火花が散っている気がしたが、努めて見ないようにしてムゥに声をかけた。


「あー、その……ここで先生をしたいって話だったな? でもいいのか? 魔塔の方が良いと思うが……」


 俺自身、教室に思い入れはあるものの、流石に魔塔とは比べられない。

 そういった意味で言ったものの、ムゥは首を傾げてしまった。


「ここ、一番。それに、教える、どっちも、同じ」

「あー……まあ教えるのがお前ってのは同じだからか。ただ、教室がなぁ……」


 現状、俺の教室とイヴの教室しかない。

 イヴの教室を二人で使うというのも考えたが、流石に不自由だろう。

 そんなことを考えていると、ムゥは手足をちょこちょこと動かした。


 前に進み出たいようだったが、襟をイヴにホールドされているので動けない。

 やがて諦めたようで、だらんと手を落とした。


「そうだよムゥちゃん。ムゥちゃんの気持ちはわかるけど、今この校舎には先生と私の教室しかないの」

「…………」


 すっと右手を前に出し、ムゥが何かを唱える。

 すると空間に亀裂が走り、穴が開く。その穴の中には紫色の闇が広がっていて。

 その中から、大量の金貨が落ちてきた。


 魅惑的でずっと聴いていたい金属音を響かせながら床に落ちる金貨。

 釘付けになってしまうのも無理はない。だって、輝いてるし。


「お金、ある」

「お、おう」

「イッテツ様、頼む」

「……おう」

「エンデー」


 俺の名を呼んだ時。


「っ!?」


 イヴが反射的にムゥの襟から手を離した。

 弾かれるような仕草を見るに、何かをムゥがしたのだろう。

 ムゥはそのまままっすぐ歩き、俺にぶつかるギリギリの距離に。


「いっぱいお金稼いである。これからも稼ぐから……ダメ?」


 左手を取られて、指先で撫でられながら、上目遣いで懇願。


「…………」


 少し上を向いて思案して、俺は答えを出した。


「お前が金出すなら、構わねえぞ」


 俺の出費がないなら問題ない。

 ムゥからの仕送りがなくなるのは痛いが、今はイヴの働きもあって少しだけ余裕がある。

 それにムゥの所持している金銭もかなりの量だろう。


 パトロンの言葉は絶対なのだ。結局金持ってる奴が強いんすねえ。


「……もっと照れるかと思った」

「あ? 今更お前相手にそうなるわけないだろ」


 何を言っているんだと思って返すと、唇を尖らせるムゥ。


「……離れなさい」


 低い声が響き、またムゥが俺から引き剥がされる。

 作り笑顔で青筋を立てるイヴのことは見ないようにした。


「さっきから先生にべたべたと……うらや――はしたない。先生が認めた以上、ここで教師になるのは認めるわ。でも、それなりの慎みを持ちなさい」

「うらやましい、言った」

「言ってないわ」

「言った」

「…………」


 イヴがさらに作り笑顔を深める。あれは怒りが爆発する数秒前だ。


「さっきから、先輩に対する態度がなっていないんじゃない?」

「先輩? 歴が長い、大事じゃない」


 ふっ、と鼻で笑って、ムゥは挑発するようにイヴに言った。


「大事、エンデー。絆、深さ。長さ? はんっ」

「ああそうですか。ああ、そうですか。ふふ、ふふふ……ムゥちゃん、調子に乗らないで」

「…………」


 ムゥはニッコリ笑顔(目は全然笑っていない)のままでイヴから再び離れる。

 そして俺がさっきまで座っていた椅子に腰掛けた。

 椅子をトントンと手で叩く。何をするつもりなのか、そう思った時。


「これ、調子」


 手と足をあげて、そこに「乗っている」ことを表現した。

「調子に乗っている」という言葉を最大限使っての煽り。

 少し面白くて、ちょっと吹き出しそうになった。


「クソガキ」


 あ、いえ、全然面白くないです。そうですよね、そういう態度はダメですよね。

 俺もイヴさんの気持ちと全く同じだぜ。もちろん。


「表に出なさい。先生の教え子同士どちらが優れているか、はっきりさせてあげる」

「賛成、戦いたい、私も、同じ」


 もう二人は笑顔を作ることをやめ、睨み合っている。

 二人の間で飛び散る火花が見えるほどだ。

 これはもう、ぶつかり合わないと終わらないな、と感じ。


「……頼むから校舎を壊すなよ。イッテツさんに怒られるぞ」


 とだけ言うことにした。

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