第485話 イヴは先生を支え続ける
その日、私はスカイグラス学園三階の校長室を訪れていました。
いつものように授業報告書の取り合いに勝利した……というのも一つの理由ですが、先生にお聞きしたいことがあったからです。
扉をノックすると、すぐに『いいぞ』という言葉が返ってきます。扉を開けて中に入れば、そこにはいつものように先生の姿。
「先生、お疲れさまです。授業報告書です」
「昨日はシエラだったが、今日はイヴか」
「はい、勝ちました」
得意げ……ムゥ曰くドヤ顔と言うらしいですが、それを披露し、先生に書類を渡します。
先生が確認しつつ、私が補足説明。いつものやり取りの中で、ここだと思ったタイミングを迎えました。
「……先生、リアの件ですが、引き続き私が家では注意深く見ますか?」
「え……あ……あー」
「現在はサナがしっかりと見ている……というよりあれは世話のようなものですが」
「……その」
目が泳ぎ、言葉に詰まる先生。
少し意地悪をしましたが、微笑ましいと感じてしまいました。
決してチラチラ私を見てくるサナに思うところがあるとかではありません。
あの子、隠すの下手すぎだし、それがちょっと癪に……いえ、触っていません。
「見つけたんですね。リアの変わった理由を」
「……見つけたというか、まあ、そうだな」
観念したように話した先生に、私は微笑みかけます。
ここ最近の変化を総合的に考えれば、その答えに自然に行き着きます。
そしておそらく、私ではなくサナを頼ったのは。
「大丈夫です。サナもしっかりとしていて、包み込んでくれる子です。やってくれるはずです」
「イヴ……」
「私ではダメな理由がなにかあるのですよね? 分かっています。それを話せないのも。ですが私は先生の第一生徒ですし、先生を支える存在です。頼るも頼らないも、それは先生の決定。私はどんなときでもどんな形でも、先生の助けに、力になります」
「お前は本当に……マジで敵わねえな」
苦笑いをして息を吐く先生に、上体を前に倒して覗き込むようにします。
「頼りになる生徒でしょう?」
「ずっとそう思ってるよ。本当にマジでな」
「ふふっ、嬉しいです」
姿勢を元に戻し、思い返します。
私はいつだって、先生とこうして話をしてきました。
互いが受け持った生徒について話をすることは、学園では私だけの特権と言えるでしょう。
「先生、頑張ってください。リアが何を抱えているのかは分かりません。ですが先生なら、なんとかできるはずです」
「ああ、もちろんだ。やってやるさ」
私を見上げた先生の瞳には火が灯っていて、これまでリアについて悩んでいた先生とは状況が異なっていることを伝えてくれます。
大丈夫、こうなった先生は本当に強い。それを私は、よく知っています。
視線を、先生の執務机の上の書類に戻したとき。
「なあ、イヴ」
「?」
不意に声をかけられ、私は再び視線を先生に向けます。
そこには、じっと私を見つつ、どこか迷った様子の先生。
「どうかなさいましたか?」
「仮にの話だ……仮に……あー……」
「?」
うーん、と悩んでいる先生を見て、私は黙って言葉を待ちました。
「んや、そうだな……お前、俺のこと結構大事に思ってくれてるじゃねえか」
「はい。むしろ支えることが使命ですが」
「そいつはありがたいんだが、ムゥ達や生徒達だって大事だろ?」
「? はい、それはもちろん」
「そうだよな……昔ならともかく、今のお前はそうだよな……うんうん、良いことだ」
「?」
先生の言いたいことが分からなくて、ちょっと混乱します。
いえ、純粋に褒めてくださっているし、それが言いたいことなのだと思いますが、どこか……。
「せ、先生? 一体どういう……」
「んや、イヴも変わったなって。好ましい変化だなと思ってよ」
「は、はぁ……」
言っていることは嬉しいし、本心だと思うのですが、なんというか……。
とはいえ先生は話は終わったという雰囲気で書類に視線を戻しています。
(うーん?)
ちょっと不思議に思いましたが、それは本当にちょっとだけのこと。
気にし続けることではないので、しばらくするとその不思議さは消えてしまったのでした。




