第475話 リアとの授業は、順風満帆
心を入れ替えたリアとの授業は、順調を通り越して恐るべきスピードで進んでいた。
授業時間は二倍で、集中力も以前より上。
正直以前のリアでも十分な上達スピードだったが、今はそれを遥かに凌駕している。
それこそかつて教えたムゥを彷彿とさせるほどの成長曲線だ。
「『ガイアウォール』」
リアが校庭の地面に手を置き、魔法を発動させる。
地属性のCランク魔法『ガイアウォール』。
シュウヤ達との模範試合で俺も用いた、前方に巨大な岩盤を作り出すものだ。
『おー!』
「こらこら、リアさんが凄いのは分かりますが、自分に集中して」
校庭でやっているからか、他の生徒がこうして授業の合間に見ていることも多い。
今回のユウリィのように、担任が注意をするのも恒例となりつつある。
戦技も魔法もどちらも使えるからこそ、ほぼ全てのクラスから注目されているんじゃなかろうか。
「どうだ? 改良のパターンを色々考えてみたが、今回はしっくり来そうか?」
「ほぼ完璧に近いのですが、まだちょっと違和感があります。使い慣れていけば変わるかもしれませんが……」
「んー……なるべく早い段階でその違和感を消した方がいいけどな」
「そう……なのですか?」
岩の壁をじっと見ていたリアは、俺の言葉に少し首を傾げた。
「ああ、体が慣れるってのもあるが、無理やり慣れさせてもって感じなんだよ。どうしてもそうなる場合はあるが、時間があるなら最初からしっくり来るように調整するといいぞ」
「なるほど……」
成長チート能力のおかげで、戦技の再現や魔法式の改良なども超スピードで進んだからこその経験者談だが、理想を語るくらいは良いだろう。
リアは別に切羽詰まってるわけじゃない。クラス対抗戦に参加するわけでもなく、何か期限があるわけでもないんだから。
(それにしても……やっぱなんか気になるんだよなぁ……なんなんだろうな、この感じ)
ふと気になって、リアをじっと見た後に『ガイアウォール』に視線を向ける。
もう崩れかけの岩の壁を見ていると、ここ最近ずっと感じている違和感をどうしても覚える。
戦技も魔法も、なにか……言葉にはできないけど、なにかがある。
「……なあリア、真面目になった後になんか変わったところはねえか? 魔法も戦技も、なんか変だなー、みたいな」
「いえ、ありません。いつも通りかと……あ、ですが真面目になったことで取り組み方が変わったから、でしょうか?」
「あー、そういう……ことか?」
リアの言葉に納得しかけたものの、心のどこかにある引っ掛かりは消えない。
単純にこの世界で、ここまで急に切り替わったやつを今まで見たことがないからだろうか。
「まあいい……『ガイアウォール』をもう少し調整しようぜ」
「はい、よろしくお願いします」
リアを引き連れて、校舎側に取り付けられたテーブル付きベンチへ。
今のリアの『ガイアウォール』の魔法式を、一緒になって覗き込んだ。
「にしても、マジで順風満帆だな。気づけばCランクの改良まで来たか」
「じゅん……? あ、はい、ありがとうございます。先生が共に考えてくれるからです」
「おう、感謝しろ。闇魔法についても、ムゥと一緒に研究した蓄積があるから、Bランクも一応はできるぜ。お手本は見せられねえがな」
ややふざけつつ言うと、リアの固かった雰囲気が柔らかくなった。
「大丈夫です。実際に使うのは私ですし、先生の案を私が形にしますから」
「お、流石は天才リアちゃん。頼もしいじゃねえか」
「大袈裟ですよ」
口角が上がり、微笑んでいるような形になる。
真面目にはなったものの、本質は変わっていないようで、褒められると嬉しいのは共通のようだ。
「にしても、魔法に関しては本当に好きなんだな。成長速度もかつてのムゥを彷彿とさせるぜ。ああいや、短剣の方もちゃんとやっていて好印象だぜ?」
「ありがとうございます。ですが、あのし……ムゥ先生ほどは言い過ぎですよ」
「近いものはあるってことだ。ギルドで声かけてマジで良かったわ。逃さなかったあのときの俺を褒めてやりてえよ」
「いや、そんな……」
少し小恥ずかしそうにしているリアを横目に、俺は紙にペンで記入を始める。
「この変更案はどうだ? ちょいと長くなるが、よりお前の情報を記載する方向だ」
「うーん、どうでしょう? ちょっと待ってくださいね」
俺の言葉にリアは返事をして、目を瞑った。
恐らくは自分の中にある魔力の情報を読み取っているのだろう。
「それなら、こっちの方が良い……かも?」
ペンを手に、俺の書いた修正案を直すリア。
魔法式の改良は場の情報と個人の情報を追加で入力する。
けれどこの個人の情報というのがなかなかに難しい。
俺がリアの情報を読み取って、形にすることはできるが、それは完璧じゃない。
またリアが自分で情報を読み取っても、そもそも慣れていないから完璧じゃない。
結果として、こうして二人で弄り回す感じになるのである。
これが魔法式『改造』になるとさらに複雑になるので、より時間がかかる。
ただそれでも、『改良』『改造』どちらもできるという意味で、リアはやはり天才だった。
「んー、だがこの細かい部分はこっちの方がいいんじゃねえか?」
大まかな方向性は良さそうなので、最後にとても細かい部分を指摘する。
すると、リアの体が一瞬だけ跳ねた気がした。
「あ……そっか、ここが……確かに……完璧かも」
思わず呟いたであろうその声色は、かつてのリアに近いものだった。
「どうだ? 目から鱗だろ? ……ああいや、すげえだろ?」
「う、うん、すごい! 相変わらずたまに変な言葉使うけど……あ」
言葉を発してからやってしまったと気づいたのか、動きが止まるリア。
その様子が少しおかしくて、ちょっとだけ笑ってしまった。
「やっぱ無理してたか」
「…………」
「少しは肩の力を抜いてもいいんじゃねえか? 真面目なのも大事だが、息抜きも大事だぜ?」
「……いえ、失礼しました。もっと励みます」
「……おいおい」
どうやら、さらに気合を入れる結果になってしまったようだ。
けれど気持ちを切り替えるために息を吐いているし、こうして時折発散させるのは良いかもしれない。
それをするのも教師の仕事だろう。
「ま、あんまり気負い過ぎずにな……ああそうだ。そろそろ魔物狩りをしつつ、実戦形式を取っていこうと思ってる。お前ならここら辺の魔物は余裕だろうが、それでも戦技再現の練習にはなるだろうよ」
「分かりました。すべて狩り尽くします」
「頼もしいこって。それこそこんだけできるなら、より強い魔物が出る地域に一緒に行って、そこで魔物狩りでも良いかもな」
「……いえ、しばらくはこの周辺で戦技や魔法の試しをさせてもらえればと」
リアを思っての提案だったのだが、神妙な面持ちでそう言われてしまった。
よくよく考えれば彼女は元々『流れ』なので、強い魔物とも戦っているだろう。
とりあえず学園周辺で実戦しつつ戦技の再現や改良した魔法式に慣れてから、ということか。
「そうか? じゃあそうするか」
「ありがとうございます」
「そんじゃまあ、とりあえずはこの『ガイアウォール』を撃ってみるか」
「はい」
相変わらず固い返事をして魔法を撃つために離れていく彼女の背中を見て、俺は苦笑いした。




