第474話 ある休日。変わったリアと過ごす日
自宅の階段を登り、二階へ。
そのまま廊下を歩き、客室……今はリアが使用している部屋にたどり着く。
ノックをすれば、すぐに扉が開いた。
「あ、先生……」
「ようリア。これからムゥと一緒にエステルの街に買い出しに行くんだが、よかったら一緒にどうだ?」
リアは買い出しの当番ではないので尋ねると、彼女はすぐに頷いた。
「行きます。準備をするので、中で待っていてもらえますか?」
「おう、分かった」
前回と変わらねえな、と思いつつ、部屋の中へ入ったのだが。
「あ、そこに椅子を置いたので、座ってください」
「あ、ああ……サンキュー。……つうか、本当におしゃれは封印って感じなんだな……」
視線が、部屋の奥にある机や棚から離れない。
以前は服や装備、おしゃれをする道具が置かれていたが、それらは綺麗になくなっていた。
探してみると、部屋の隅にある箱の中に無造作に入れられている。
「視界に入ると、気になってしまうので。今は強くなることに集中です」
「……そうか」
あれだけおしゃれに興味があったリアの変化。これも変化が大きいから俺が戸惑っているだけなのだろうか。
「……うーん」
ポツリと呟くと同時、準備を終えたリアが椅子から立ち上がる。
「先生、お待たせしました。行きましょうか。久しぶりに街に行くので、楽しみです」
「……ああ、そうだな」
全く気にした様子のないリアの姿を、じっと見る。
やはりおしゃれなど全く取り入れていない、実用性のみに特化した装備だった。
ムゥとリアを連れてやってきたエステルの街。
実は数日前に来たばかりなので新鮮ではないのだが、いつもの場所で買い出しを行い、次に俺達は酒場へ向かった。
「へい、いらっしゃい……お? エンディさんじゃないか」
「ようおっちゃん。久しぶりに買いに来たぜ」
「最近は配達するばっかりだったのに、直接来るなんて珍しい……あ、さては新商品の入荷をイヴさんから聞いたね?」
「へへっ、まあな。やっぱ新商品は自分の目で確認したいなと思ってよ」
顔見知りである酒屋のおっちゃんに笑いかけると、おっちゃんは立ち上がってカウンターから出てくる。
新商品を紹介してくれるようで、彼についていくことにした。
「ここにあるのが、新商品だよ。今回はマルク・マギカとアーセラスからだね」
「おお、二種類か」
棚に並んでいるのは、全部で二種類の酒瓶。
それぞれ本数はあるので、数は仕入れているらしい。
「……アーセラスのお酒は、見た目が綺麗ですね」
「ああ、こいつはパッケージにも力を入れているみたいだな……ちょいと失礼して」
リアの言葉に返事をしつつ、棚の酒を手に取る。
アーセラスらしく、透明な瓶に黄色い装飾が僅かについている。
ラベルにも模様が入っていて、デザインというものを感じさせた。
「最近は酒の味も美味しくなったけれど、各国の味が出てきた感じもするね。魔法国はシンプルに、聖国はちょっとした主張がある酒瓶を使ってることが多いよ」
「個人的にはうまけりゃなんでもいいんだが、でも見ていて楽しいってのはあるな」
「あー、エンディさんは質よりも量だからね」
「お、流石おっちゃんはよく分かってるな」
互いに笑い合いながら酒場のおっちゃんと話をした後で、ふとあることを思い出してリアを見た。
「そういやリア、お前は酒飲めるのか?」
「ギルドで付き合いで飲むことはありました。ですが最近は飲みません。自主練に差し障るので」
「……真面目なこって」
「エンデー、お酒、不真面目」
酒の味を楽しまないなんて勿体無いと思ってそう言ったのだが、すぐにムゥにツッコまれてしまった。
こいつ、初対面やその後の対応をミスったから、俺が不真面目だったり酒好きなのあんまよく思ってねえんだよなぁ。
ムゥの前で酒に関する失敗を何度かやらかしている俺が悪いっちゃ悪いんだが。
「ですが、全部が終わった後に飲むのは良いかもしれません」
「お、そうだぞ。一仕事終えた後の酒は最高だからな。今頑張ってるリアが将来飲む酒は、きっと極上の味だろうよ」
「そうですね。楽しみにしています」
リアは口角を僅かに上げて、そう返してくれた。
「……ディ、エンディ、起きて」
「……んあ?」
体を揺すられて、目を覚ます。
目の前にはシエラの顔があって、視界の隅には呆れたようなムゥの表情。
体を起こすと、居間のソファーの上だった。どうやら買い出しから帰ってきた後に、疲れて寝てたらしい。
「エンデー、ソファー、占拠。許されない」
「そうは言うけど、ムゥはムゥで一緒に寝ようとしてたじゃない」
「……私、許されなかった」
「当たり前でしょ」
何やら話をしているシエラとムゥを無視して腕を天井に伸ばす。
身体の筋が小さな音を立てて、凝りが消えていくのを感じた。
「じゃが、このソファーが魔性のソファーであるのは言うまでもないのじゃ。時折サナとか寝ておるし」
「サナ、大きい。ソファー、占拠、許されない」
「サナは色々大きいからねぇ。あの大きさが無防備にソファーに寝てるの、ある意味犯罪よ」
「あのっ! 耳が良いので聞こえるから、わたくしに関することを話すのはやめてもらえますかっ!」
居間に厨房から、サナの恥ずかしそうな声が飛ぶ。
ムゥ達三人は厨房のサナを見て、そしてある部分を見て、ムゥとシエラは、けっ、という反応を見せる。
ちなみに、それなりに恵まれた身体をしているロードは不貞腐れたような反応は見せていなかった。
……反応の差って、性格が似たやつらの間にもあるんだな。深いな。
「ん。っていうかもう夕飯か……少し寝過ぎたみてえだな」
「先生、もう夕食を並べますよ」
ソファーから立ち上がると同時、テーブルに皿を並べにきたリアが答えてくれる。
自分で適当に飲み物を用意してから自分の席に向かうと、テーブルにはさらに皿が並べられていて、他の席にはムゥ達がついていた。
意外と機敏な奴らだな、と再認識しつつ、俺も席に腰掛けて飲み物を一口。
まだ眠りからは完全に醒めていないようで、首を回したり腕を回したりして身体を覚醒させる。
こりゃあ変な時間に昼寝したから、夜はなかなか寝付けないかもなぁ、と考えた。
「それじゃあ、食べましょうか」
そんなことをしていると、いつの間にか夕食の準備は終わっていたらしい。
イヴ達も、それぞれ自分の席に座っていた。
「…………」
ふと隣を見る。それと同時に、昼間にイヴが言っていたことを思い出した。
『ただまあ、私は彼女に苦手意識を持たれているようですが』
リアの椅子は、イヴから少し離れた位置にあった。




