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転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
真・第8生徒 使命を果たす少女

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第471話 少し賑やかになった食卓

 少し遅くなったものの、エステルの街から自宅へと帰ってきた。

 部屋に入り、荷物を置いた後で、俺は居間へと向かう。

 時間的には夕食前ギリギリ。おそらくもうイヴ達は集まっているだろうと思って、居間に続く扉を開けた。


「たでーま」

「あ、エンディおかえりー」


 真っ先に近くの席に座っていたシエラが返事をしてくれる。

 それに続いて椅子に座っていたムゥや、少しだけ浮いていたロードも俺を見て言葉を返してくれた。

 ただ次の瞬間には、彼女達の視線は厨房の方へと向かってしまったが。


 その視線を追いつつ、俺も自分の席に腰をかける。

 厨房の方では、イヴ、サナ、そしてそんな彼女達の手伝いをするリア。

 これまでは少しやる気のなさそうなリアだったが、今は機敏に動いていた。


 シエラが身を乗り出して、俺に耳打ちしてくる。


「ちょっとエンディ、一体何をしたわけ? リアがものすごく真面目になってるじゃない」

「色々あって、ちょっと強く注意したんだよ。その結果、改心したというか、真面目に取り組もうと思ってくれたっつうか……」

「にしても、あの姿はちょっと驚いたわよ。いやまあ、短剣使いならむしろあれが普通なんだけどさ」

「授業を受けている間はおしゃれを封印するそうだ。強くなってから楽しむって言ってたぞ」


 授業中にリアから聞いたことをシエラに共有すれば、彼女はふーん、と呟いた。


「でも変わりすぎじゃない? さっき居間に入ってきて家事を真面目にやるって言ったときはイヴとサナも驚いて固まってたわよ。特にサナなんて『な、何かありましたか? わたくし、何かしてしまいましたか?』ってあわあわしてたくらいだし。今は落ち着いているけどね」

「一応無理をしていないか注意深く見るつもりだ。気合いを入れ過ぎると大失敗をするのはよくある話だからな」


向いに座るクソガキを一瞥したあとにそう告げると、同じように厨房に視線を向けていたロードが呟いた。


「それにしても、生徒をあんなにもやる気にさせてしまうとはのお……契約者様は流石と言うか……」

「……んや、元々リアはやる気はあったんだと思うぞ。そのスイッチが入ったのがここ数日ってことなのかもな」

「ふむ……確かに言われてみればエリューの変化に近いものを感じるかもしれんの」


 ロードと会話をしていると、リアが皿を持って居間の方へやってくる。

 文句一つ言わず、キビキビとした動きで並べていく。

 それに続くのはサナやイヴ。彼女達もいつも通りの動きだが、リアが積極的に手伝ってくれることで、やりやすさを感じているようだった。


 少し待ってみれば大きなテーブルに並べられる料理達。

 イヴ達が厨房から戻ってきて席に着くのを見届けた後で、俺達は夕食を食べ始めた。


「それにしても、リアが手伝ってくれたことで助かったわ。これまでとは違って機敏に動いてくれたから、こっちとしてもやりやすかったし」

「ええ、ありがとうございますリアさん。とてもありがたかったです」


 いつものように美味い食事に舌鼓を打っていると、イヴとサナから言葉が飛んだ。

 リアは手にしていたスプーンを皿に置き、口を開く。


「どういたしまして……と言うのが正しいのかは分かりませんが、これからは積極的に色々なことをやっていこうと思います。今までもご迷惑をおかけしましたし」

「そんなことはないのですが……けれど一緒に家事を頑張れるのはわたくし、嬉しいです。最初こそ戸惑いましたが……」

「人手は多い方がいいからね。特に料理は、そこの三人組があんまりだから助かるわ」


 リアの言葉に、サナとイヴが微笑みながら返す。

 シエラ達はやや不満そうではあったが、料理に関してはイヴ達の方が明らかに上。

 この家の食事周りを支配する二人には強く意見できないようだ。


「この様子では、授業もとても真面目に取り組んでいるのではないですか?」

「ああ、今日はすごかったぞ。授業時間を越えて短剣の戦技の再現をやってくれたからな。あんまりにも真面目すぎて、俺の方が音を上げそうになったぜ」


 イヴの言葉に軽い調子で返すと、彼女は、あら、と言ってリアを穏やかな目で見た。


「リア、今日は頑張ったみたいね。いっぱい食べて、いっぱい休みなさい。あと、何か食べたいものがあれば作るわよ」

「……あ、ありがとうございます。……ではそのうちにでも、伝えますね」

「ええ。その調子で頑張りなさい。応援してるわ」


 うんうん、と何度も頷くイヴ。どうやらリアの変化を好ましく見ているようだ。

 一方でリアは褒められ慣れていないのか、あるいはあのイヴから褒められたからか、ちょっと困惑している様子で苦笑いを浮かべていた。

 その言動にかつてのリアを、少しだけ見たような気もした。


「リアのやる気はすごくてな。これまでの授業は二日に一回だったのに、毎日にしてくれって言ってきたんだぜ?」

「え、エンディ先生……今、その話は……」

「いやぁ、嬉しかったなぁ……あ、イヴ、だからリアに毎日授業する場合の金額を共有してやってくれ。……ここだけの話だが、ちょっと安くしてやってもいい」


 ニヤリと笑ってイヴを見れば、彼女は苦笑いして、分かりました、と呟いた。


「エンディ、もう酔ってるわね」

「お酒を飲むとちょっと緩くなるのは、契約者様の悪い癖なのじゃ」

「……ロード、シエラ、それ、利用しようとした。言えない、思う」

「「うぐっ」」


 また愉快なコンビ……いやトリオが漫才っぽいことをしている、と思いつつ、酒を一口。

 仕事した後の酒ってマジで美味いんだよな。

 食事のお供に、食事後に、どこでも俺に幸せをくれる。

 これに並ぶのは金の輝きや、それが出す金属音くらいか。


「ということは、リアさんは魔法のみならず短剣も極める、ということですね」

「はい、どちらも一流を目指す予定です」

「素晴らしいわリア。才能はあるから勿体ないなと常々思っていたの。先生の下で、それを存分に開花させなさい」

「……ありがとうございます。……そうする予定です」

「戦技を極めるなら、お父様だけでなく、色々な人と戦うのも良い経験になると思います」

「そうね。私やサナ、シエラも協力するわ。むしろシエラは協力させるわ」

「……ありがたいことです」


 リアはリアで、イヴやサナと話をしている。内容はもっぱら授業に関すること。

 彼女達はこれまで戦技の話をしなかったが、今はそういった話ができる。

 イヴもサナも嬉しそうだ。リアはリアで、まだ戸惑っているようだが。


(自分が変わると周りも変わる。でもそれを知らないから、色んなものが急に変わったように見えてんのかもな)


 リアは元々魔法に興味があって、ムゥ達とは仲が良い。そして今回、イヴ達とも打ち解けた。

 リアがこの家で、さらに受け入れられているのを感じた。もちろんこれまでも受け入れられていたが。


「でもせっかく短剣を極めるなら、どうせなら卒業後もここの教師になってくれたら、わたくしは嬉しいなーって……」


 不意に、サナがわざとらしく声を出して、チラチラとリアを見た。

 色々心境の変化があって、自分の意見を出すようになったサナだが、こうしたときの彼女はちょっと棒読みだ。

 俺やイヴが学園の短剣の教師のことを気にしていたから聞いてくれたのだと思うが、流石に話が急すぎやしないだろうか。


「そうですね。ここでの生活は気に入っていますし」

「え? ほ、本当ですか?」

「リア、そうなの?」


 サナやイヴに続いて、俺も驚いた。

 これまでは『教師なんて真面目なのは向いてないよー』と言っていたが、そちらも心変わりしていたのか。


「……もちろん、卒業後に冒険者としてそれなりに名を上げたら、ですよ? そしたら学園の教師も、悪くないかなーって」

「でも、以前は遠慮していたじゃない」

「……エンディ先生の熱意や気にかけてくれるところに、感化されたと言いますか。前向きに考えてはみます」


 おお、とても嬉しいことを言ってくれる。

 思わず、隣に座るリアの頭に手を置いた。


「マジかお前!」

「わっ……ちょ、ちょっとせんぱっ……先生、止めてください!」

「ぜひ考えてくれや!」


 ワシワシとリアの頭をしてると、リアに両手で腕を持ち上げられ、無理やり離されてしまった。

 仕方ないのでワシワシするのは諦めて、酒を流し込むことにする。


「エンディ先生、酔ってますね……」

「嬉しいのよ。先生、結構リアのことを気にかけていたから」

「……それは、よく分かっています……って、気づけばもう飲んでますし……」


 リアの言葉に、俺はニヤリと不敵に笑って答えた。


「気分が良いときは飲むに限るんだぜ? そうするとさらに気分が良くなる。そして酒が進む。これが最強の循環だ」

「先生、そこらへんで。飲みすぎは体に毒です。これ以上は」

「あ、はい」


 酒の管理神イヴ様によるストップが入ったので、今日はここまで。

 まあ十分楽しめたから良いだろう。


 酒は呑まれる寸前まで行っていいけど、呑まれるな。ライン引きはイヴに任せろ。

 俺はこの格言を、常に守っているのである。


(……とはいえ、学園の短剣教師についても考えてくれる、ねぇ)


 高揚しつつも、冷静に頭を回して考える。

 リアの言うおしゃれの封印は、『授業が終わるまで』ということで納得はできる。

 けれど学園の教師になるのは授業後のことだ。つまりおしゃれ解放後の話である。


 もちろん、俺に感化されたという言葉はめちゃくちゃ嬉しいし、リアの本心に思えるが。

 酒を一口呷り、俺はイヴに視線を向けた。


「…………」


黄緑色の瞳は、リアの姿を捉えている。

長年連れ添ったことで、あの目が観察する目だというのは知っていた。

つまりイヴも、リアの急激な変化に何かしらの理由があると考えているということ。


(もう少し待ってから、リアの変化についてイヴにも意見を聞いてみるか)

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