第466話 リアは、自主練をしない
リアとの授業は、魔法八割、短剣二割といった配分になっている。
彼女のやる気や要望に応じる形でこのような形になったのだが、魔法はともかく、短剣には少し課題があった。
「……お前、また戦技の再現、空き時間にやってねえだろ」
「えー……うーん、やってはいるよ? ちょっとだけど……」
リアは、どうも短剣の戦技に関する訓練に力が入らない。
そしてそれは授業中のみならず、授業外でも変わらなかった。
むしろ魔法はしっかりと魔法式を覚えたり、澱みなく口にできるように自主訓練してくるので、より目立つ形になる。
一般的な塾で言うなら、宿題をやってこない生徒のようなものだった。
「やってるって言うが、前回見た時とまるで変わってねえだろ。あれから結構時間経ってんぞ」
「ごめんごめん。でもやっぱりどうしてもやる気にならなくてさ……今やるんじゃダメ?」
「……はぁ、ったく。じゃあ見ててやる……の前に、どこをどうするべきかを共有するから、その後な」
「うーん……ありがとうー」
まただ。どうもリアは、俺が時間をかけて短剣の戦技の最適案を考えることに思うところがあるらしい。
リアからするとメインは魔法で、短剣の戦技はおまけのようなもの。
そのおまけに俺が時間をかけて熱意をもって取り組んでいるのを、申し訳なく思っている。
以前も、何もそこまでやってもらわなくても……、と小さく呟いていたのを聞いたから、間違いないだろう。
「はぁ……なーんか、楽に強くなれる方法ないのかなー」
「あのなぁ……んなもんあるわけ……ねえだろ」
言い切れなかったのは、俺は俺で、Cランクまではなんの苦もなく熟練度を上げられた経験があるから。
色々な生徒を見たからこそ、Cランクまでの成長率なら、間違いなく俺が一番成長が早かったと確信をもって言える。それこそ、イヴやシエラよりもだ。
そこで打ち止めになったものの、授かった能力はチートと呼ぶに相応しかっただろう。
「はぁ……だよねえー。やっぱりこの世は厳しいよー」
「……お前ほどの才能があって、厳しいね」
むしろどこまでも行けるリア達が羨ましいのだが、彼女は彼女で見えているものが違うのだろう。
(おっと、あまりマイナスなことを考えるもんじゃねえな)
気持ちを切り替えて、リアに指示を出す。
「じゃあ前回の続きだ。そのまま『追牙』を使ってくれ。横から指示を出す」
「んー……はーい、やるよぉー」
相変わらず気合のない声を出し、リアはEランクの短剣の戦技『追牙』を発動。
その後で記録水晶を使用し、以前のリアの動きからどのように修正するかを伝えていく。
「『追牙』は二連撃だが、お前の場合は一撃目でジャブを入れて、二撃目で全力で打つのが良いように思える。一度この意識でやってもらえるか? なんなら手本を見せるが」
「んーん。大丈夫。先輩が言いたいことは分かったから、やってみるよー」
短剣を構え、髪を手でサッと直したリアは、呼吸を落ち着かせてから『追牙』を放つ。
俺の指示した通り一撃目は軽く、そして二撃目は鋭く、穿つような軌道。
成功させたのは確かだが、どこかまだリア用になっていないような、そんな気がした。
「ちょっと微妙か?」
「うーん……多分?」
「それなら、一撃目と二撃目で威力を分けずに、同じくらいの力でやってみるか。ちょっと構えが変わるが、一撃目を少し上げて、二撃目を少し下げる形で」
「……こう?」
さっくりと、リアが俺の意見を採用して構えを修正する。
まだ修正点はあるものの、概ね俺が頭でイメージした構えと合致していた。
「おお、相変わらずはええな。流石リア。それでちょっと撃ってみてくれるか?」
「んー、おっけー」
再び短剣を構え、リアは『追牙』を放つ。
先ほどよりも鋭い二連撃が繰り出され、短剣が空気を斬って風が吹いた。
最初の案よりも、成功したように思える。
「ははっ、やったじゃねえか。さっきよりは威力は高そうだ」
「そうだねー」
「なんだよ、あんま嬉しそうじゃねえな」
「いや、嬉しいけど……まあそのうち成功するかな、みたいな?」
短剣片手に、再度髪を気にしているリア。
そんなリアに、俺はため息をつきつつ、声をかける。
「ただ、今のはまだ粗が目立つから、自主練すんだぞ?」
「……はーい」
「本当に分かってんのかね、こいつは……一応他にも『追牙』のパターンは考えてある。全部を試すぞ。ひょっとしたら他にも良い感じの型が見つかるかもしれねえしな」
「うへー……すっごく真面目で、アタシ死んじゃうよー」
「魔法は真面目だろうが。その真面目さを出せ」
ひどーい、と文句を言うリアを無視して、俺は授業を進めた。
「やっぱ、二連撃を同じ力で出すのが一番安定しそうだな」
数時間後、俺は自分が考えた『追牙』の再現のパターンを全てリアに試してもらっていた。
その中で一番しっくりくるものを見出しもした。
「はぁ……疲れたー。もう髪ぐちゃぐちゃだし、汗かくし、服も乱れるし、だから短剣の戦技って嫌」
「こんだけ早く『追牙』の再現の方向性が決まるってだけでもすげえことなんだがな」
ほとんどの生徒は戦技の再現の方向性を見つけるだけでも複数回の授業を行う。
それをたった一回で終わらせるのだから、やはりリアは才能がある。
「それはそれ、これはこれなのー。もう、先輩は女の子の気持ちが分からないなー」
「俺、男だしな……まあいいや、次はしばらく魔法の授業だな」
「そうだよね!? 次は魔法だよね!?」
さっきまでのやる気のない感じから、まるでスイッチが切り替わったように目を輝かせるリア。
その様子に、思わず呆れた声を出した。
「お前のそのやる気が少しでも短剣の方にも向いてくれりゃ、言うことねえんだがな」
「いやいや、魔法はやっぱり短剣とは違うよ。うん」
「はぁ……ったく」
この様子ではリアに将来的に短剣の教師になってもらうことはおろか、そもそも卒業段階で短剣の戦技の再現が使いこなせるようになっているかも怪しいところだ。
俺個人としては、せっかくどっちにも才能があるんだから両方伸ばして欲しいところだが、この様子では難しいだろう。
勿体無い、と思わずにはいられない。
「とはいえ『追牙』の自主練はしとけよ? 宿題ってやつだ」
「えー? 現にできてるんだから、宿題やってこなくても良くない?」
「おうおう、生意気なこって。言いたいことは分からなくもねえが、それならそのできる実力でとっとと宿題を終わらせりゃいいだろ?」
「うぐっ……それは……うぐぅ……」
正論を返せば、言葉に詰まるリア。
残念だったなクソガキ。そういったことを言ってくるやつに対する対処法も、知ってんだよ。
「んじゃあ、今日はもうしまいだ。片付けは任せたぞ。俺は仕事してから帰るからよ」
「あ、うん。ありがとうね、先輩」
「おう」
背中越しに手をあげて、俺はリアの元を去る。
(悪いやつじゃねえし、俺との相性も悪くねえ。……ただ短剣に対してやる気がねえことだけが問題なんだよなぁ。魔法だけに集中させれば解決だが、それもなんか違う気がするし……どうすっかなぁ)
頭の中で色々なことを考えながら、俺は学園の校舎の中へと入っていった。




