第464話 リアとの、とある休日
リアとの授業を始めてからしばらく経ったある休日のこと。
担当しているリアの闇の魔法式を確認していた俺は、ひと段落ついたので自室を出た。
居間に向かおうとすると、裏庭に続く扉が開いているのを確認。
そちらに向かい、裏庭へと出てみると、困った顔をしているイヴと洗濯物を干している……いや、干し直しているサナを見つけた。
「どうかしたのか?」
「あ、先生。それが、リアの家事なのですが……彼女、ああいった性格なので、結構適当でして……」
イヴの言葉に、干された衣服を確認する。
確かにきっちりと干されているわけじゃないようだ。
「他にも掃除や料理手伝いなども……」
「サボってるのか?」
「いえ、そうではないのですが、絶妙な力加減と言いますか、なんと言いますか。一応、注意は時折しているのですが……」
イヴの言葉を聞いて、なるほどと納得する。
流石に家事が嫌だからといってサボるわけではないものの、やり方が雑ということだろう。
つまりは。
「イヴ、考えすぎ」
このクソガキのようなタイプということだ。
いつの間にか横に来ていたムゥが、リアを援護する発言をする。
「仕事、する。だらだら、問題ない」
「……こいつみたいに誇るのは違うと思うが、まあちょっとは多めに見てやってくれや。引き続き注意するって形でよ」
イヴの言いたいことも分かるが、俺もどちらかというとムゥ側の意見だ。
俺自身が適当だから、というのもあるが、そもそもリアくらいの年頃ならそうなるのも分からなくない。
加えてリアはリアで、興味があることにとことんのめり込むタイプなので、家事に身が入らないんだろう。
今までサナやリースといった絵に描いたような模範的なやつらを指導してきたイヴからすると気になるのかもしれない。
だが、ムゥという前例を知っている俺からすると、そこまで目くじらを立てることでもないと思える。
むしろ勝手に料理をしようとしたり、『昨日、やった』という嘘までついて俺に押し付けようとしたクソガキ1号よりマシだ。
なお、そのクソガキ1号が俺から拳骨を食らったのは言うまでもない。
「一応俺の方からも話はしてみる。ただまあ、やり方まではリア次第だから、な?」
「先生がそこまでおっしゃるなら……というより」
「あん?」
じーっと見つめてくるイヴ。
そして彼女は俺の隣に立つムゥに視線を向けて、そして俺に視線を戻した。
「以前から思っていましたが、先生はムゥのような問題児を好むといいますか……いや、私やサナのように真面目な生徒も好んでくださるのですが……」
「そうか? 兄みたいなもんだけどな。クソガキ共はクソガキ共。仕方ないから大人の俺が面倒を見てやるか、ってやつだ」
「……なるほど、兄ですか」
視線を感じて隣を見ると、ムゥが俺のことをじーっと見ていた。
「どっちかというと、エンデー、同レベル」
「んー? なんか言ったかー? ムゥちゃん?」
「何も、言ってない」
俺大人だから、こんなクソガキの煽りじゃ反応しないんだ。
だからムゥ、余計なこと言うのやめような。俺がお前に拳骨する前に。
「そうですよイヴさん。私がリアさんの不足分は補いますから。家事は好きですし。そんな家事好きなわたくしがやるから良いのです」
「……分かったわ。サナまでそう言うなら、厳しくは言わずに引き続き注意する方向にする。そのうち慣れてきて変わるかもしれないし」
戻ってきたサナの言葉に、イヴはため息をついて答える。
その様子を見て、俺はこの後エステルの街へ向かう買い物にリアを連れて行こう、と決めた。
「おいリア、いるか?」
家の二階に上がり、廊下の最奥にある客室の扉をノックしてリアの名前を呼ぶ。
少し待ってみれば、扉がゆっくりと開いた。
「んー? 先輩ー?」
出てきたのは、やや眠そうな顔をしたリア。昼寝をしていたのだろう。
「エステルの街に食材を買いに行くから、ちょい付き合えよ」
「えー、アタシがー?」
「便利な荷物持ちを探しててな。ここにちょうど良いやつがいるな、と」
「人使い荒いなぁ……ちょっと準備するから、中で待ってて」
ため息を吐きつつも、家主でもある俺には逆らえないのか受け入れるリア。
外ではなく中で待たせるのか、珍しいな、と思い、部屋の中に足を踏み入れた。
「中で待ってろって……」
「んー? いや、廊下寒いじゃん。別にちょっと外出の準備するだけだし、着替えるわけでもなく、装備を身につけるだけだしね。……あー、先輩は何を考えたのかなー?」
「ガキが色気づくなって言っただろ」
「はーい」
相変わらず軽い返事を返し、リアは外出のために装備をつける。
短剣使いではありつつも、どちらかというと見栄えを意識した服装。
以前もっと動きやすい服や装備を買えと言ったが、やはりおしゃれに関して譲る気はないらしい。
「…………」
特にすることもないので、部屋を観察する。
客室ではあるものの、私物を持ち込んだり配置することを当然禁止はしていない。
今の客室には可愛らしい服や美しさを保つ化粧品のようなものがいくつかあり、実に彼女の部屋らしいな、と感じた。
一方で、服なんかは結構乱雑に置かれていたりするので、リアの性格がよく表された部屋だと思える。
好きなものがあるのは良いことだし、そのために金を稼ぐなら世間にも貢献する。
やっぱ金は必要。あればあるだけ良い。リアとは気が合いそうだ。
「……ねえ、先輩は怒らないの?」
「あ?」
適当に部屋を見ていると、急に声をかけられた。
椅子に座り、ブーツを履いているために、リアの表情は窺い知れない。
けれど何を聞かれているのかはなんとなく感じ取り、返事をする。
「家事についてか? やってくれるなら、多少の裁量は本人に任せるべきだしな。もちろん全くやらないとか、逆効果になるようなことをするなら話は別だが」
「さい……りょ?」
「やり方はお前に任せるってことだ。分かりにくかったな」
というよりも、俺が今となっては家事をほとんどやっていないから、そこまで強く言えないというのもある。
やることと言ったら、買い出しに行くくらいだし。
万能イヴとパワフルサナにより、うちの家事は全て解決しているのである。
「お前に家事をやらせるってのも、ここで住むときの決まりみたいなもんで、言ってしまえば家事の教育ってやつだ。特にお前はマイペースなやつだからな。ただ慣れてきたらちょっと気をつけるとかしてくれや」
「……うん、分かった」
「ただ、あんまりサボりすぎてるとイヴが怒るからな。イヴは怒るとこえーぞ」
俺はイヴに激怒されたことがないのでどのくらい怖いかは知らないが、きっとものすごく怖いだろう。
「おっけー」
そんなことを思っていると、そう答えたリアは、よしっ、と言って立ち上がる。
振り返ったリアは、俺を見て微笑んだ。
「じゃあ行くぞ。荷物持ち」
「荷物持ちじゃありませーん。アタシにはリアっていう素敵な名前があるの」
「はいはい」
「はぁ、相変わらず先輩はレディの扱いがなってないなぁ……」
いつものようにブーブーと文句を言うリアを連れて、俺は彼女の部屋を後にした。




