第463話 リアは現状に満足はしている
長年同じ家で一緒に住んでいると、自然と決まりができてくる。
別に絶対の掟とか破ってはいけないとかじゃないけれど、流れみたいなものだ。
例えばうちだと、夕食を食べた後にイヴ達と団欒をするのがそれに当たるだろう。
「それでその子、ムゥさんのクラスの子と結構いい感じなんです。お互いを思い合っているというか……あれ、絶対お互いに慕っていると思います」
「そう……かも?」
話すのは学園のことがほとんどで、今はサナが学生の恋バナ的なことをしている。
今の学年度は前回と違い、クラス間での合同授業があるが、そこで目にしたんだろう。
「なんかこう……目を合わせただけで伝わっているかのようで……ああいうの、いいですよね。ムゥさんもそう思いませんか?」
「そう……かも」
「甘酸っぱい恋心……これがお父様の言っていた、『青春』というやつなのですね。見ているだけでわたくしは胸がキュンキュンしてしまいます」
「……そう」
ロマンチックなことに興味があるサナとは対照的に、あまり興味がないムゥは返事がワンパターンだ。
ムゥとしては、生徒同士でそういう関係になるなら別にいいのでは? というスタンスだろうし、俺だって同じだ。
年頃の男女が集まれば、好き合う連中だって出てくるものだろう。多分、今までもいたとは思うし。
「次の合同授業さ、私のところとイヴのところじゃない? クラスを数人のグループに分けて模擬戦しようよ。あ、もちろんやる前に、いつも通り私とイヴが戦うのを見せてから」
「いいんじゃない? 良い経験になると思うわ。……でも先に私とシエラの戦いを見せるのはどうかしらね? 戦績が52戦27勝25敗になっちゃうと、クラスの子達にも失望されちゃうかもしれないわよ?」
「えー、でもそれって逆も然りでしょ? ひょっとしたら52戦26勝26敗かもしれないよ? それに来週にイヴが負け越しちゃうとクラスの子達が驚いちゃうんじゃない? あの完璧なイヴ先生がーって」
「面白いこと言うわね」
「えー、イヴには負けるわよ」
そして相変わらずイヴとシエラは仲が良いのか悪いのか分からない。
というか、授業に関する相談をするのか互いに煽るのかどちらかにしろ。
「……ふぅ、茶が美味いのじゃ」
そして宙に浮くロードは空中正座を決めて、サナが入れたお茶を味わってほっこりとしていた。
お婆ちゃんかよ。いや、マリアの時代が大昔だから、実際はそうなんだろうけど。
ただツッコミを入れるとめんどくさくなりそうなので、ゆっくりと視線を外した。
「……あのさぁ」
声を出したのは、少し前にこの家に入ってきた新参者、リアだった。
赤髪の少女の声に、居間のざわつきが収まって、全員が彼女の方を向く。
「前々から思ってたんだけど、ここの人達っておしゃれしないの?」
『…………』
投げ入れられた一石に、互いに顔を見合わせるイヴ達。
何を言っているのか、という顔を全員がしていて、その様子を眺めながら、あー、と思った。
(イヴは記憶喪失で、ムゥはそういうのに興味なし。サナは元が良いのもあるが、クジャクミヤ家でもここでも習ってない。シエラもどちらかというと野生的なタイプだし、ロードは論外)
全員を順に見て、誰一人として該当しないことを悟る。
ちょっと困っている様子のイヴ達を見て、俺は助け舟を出した。
「元が良いから、必要ねえってことなんじゃねえの?」
「そういうことじゃないの! 元が良いから、飾ればもっとキラキラできるでしょ!」
「お、おう……」
普通に失敗。おしゃれガチ勢のリアさんに怒られてしまった。
「皆もそう思うでしょ!? キラキラしたいって、思わない?」
「……正直、『元が良い』から、そこまで興味はないけど。でも、ちょっとだけなら」
「うん。『元、良い』。でも、さらに良い、素晴らしい」
「ええはい。『元が良い』ですが、女性は美しくありたいと思うものです」
イヴ、ムゥ、サナが口々に同意する。
っていうかどいつもこいつも『元が良い』を強調していた。
他人が言うのは良いけど、自分で言うのはちょっと違う気がする。
けど、こいつらなら言っても嫌味には聞こえない。事実だし。
「私は……まあ本当にちょっとだけど、興味はあるかな」
「我も……うーん? ……んや、別に我はどっちでも良いのじゃ。我、最強の魔界貴族じゃし!」
シエラもシエラで興味はあるようで、ロードは通常運転。
好感触を得られてうんうん、と満足げに頷いていたリアはしかし、あ、と声を出した。
「あー、でもアタシがおすすめする仕立て屋さんはアーネンベルクにあるんだよねぇ。流石に遠いなぁ」
「え、お前そういう伝手もあんのかよ」
「一人では限界があるでしょ? だからそこの……お姉さんに色々教えてもらったの。家からも近かったし」
話を聞いていて、気になるフレーズがあったので、聞き返す。
「お前、アーネンベルク領出身なのか?」
「言ってなかったっけ? アーネンベルク領の中にある街出身で、お父さんは冒険者の剣士、お母さんは魔法軍の兵士だよー」
「あー、それなりに裕福ってことか」
共働きでリアの両親の歳なら、冒険者も熟練、兵士もベテランだろう。
ムゥやサナのかつての実家ほどじゃないけれど、こいつ家にも恵まれてんのか。
「家族仲は良いのか?」
「うん。よく手紙とか出したりするよー」
リアの返事に、サナが反応した。
「それは良いことです。お父様とは仲良くしましょう。……もちろん『本当の』お父様と」
「? うん、別にお父さんと仲悪くないよ」
リアには聞こえていないようだが、俺にはサナの最後の小声が聞き取れた。
血が繋がっていなくても俺を『本物』の父親とみなしてくれるのは嬉しいが、やや思想が強くなっているような気もした。
若干、黒い笑みを浮かべているし。いつも穏やかだから忘れそうになるけど、結構暗い過去背負ってるからな、サナ。
「お父さん、どんな人なの?」
「んー」
イヴの質問に、リアは考え込む。
「基本的には真面目で、ちょっと厳しいかな? でもお酒飲むと優しいというか、構ってくれるようになる感じ。そういった意味では先輩に似てるかも」
「おう。俺も真面目だからな……にしても、その真面目な父親からお前みたいな不真面目が生まれるとはな」
「あ、お父さんと先輩が似ているのは一部だけだね。お父さんは先輩みたいに不真面目なところはないから」
ふっ、と鼻で笑うリア……もといクソガキ2号を見て、その額を指で打つ。
「言いやがったな、クソガキ」
「暴力はんたーい!」
「言うほど痛くねえだろうが」
俺とリアのやり取りを見てサナがくすくすと笑い、それが他のメンバーにも伝播していく。
明るくキラキラしたリアは、俺の家の新たなメンバーとして、確かに受け入れられていた。




