第462話 リアは魔法の授業の方を好んでいる
「『ロックアッパー』」
学園の校庭に備え付けられた魔法の的。
いくつかあるそれの一番端に向けて、リアが魔法を放つ。
魔法式は改良され、彼女個人の情報が追加されたものになっていた。
魔法の的を、真下から岩石が勢いよく打ち付ける。
礫の大きさも速さも、以前室内訓練室で見た時よりも優れているのを確認した。
「おー……これ、本当に魔法式を改良するだけで魔法の威力が上がるんだ」
「劇的にってわけじゃねえけどな」
自分の右手を持ち上げて驚いているリアに、俺は声をかけて近づく。
魔法式改良に関する説明は慣れたもので、最初に生徒が実行して驚くのも見慣れた。
そして万能ではなく、あくまでも実力を伸ばすきっかけに過ぎないことも説明する。
「魔法式を弄くり回すにはもう一段階あって、魔法式そのものをそいつに適したようにまるっと変えちまうことだ。俺らは魔法式の改造って呼んでる。今思うと改良と改造で名前が似てるからややこしいが……ただこいつはかなり難しくて、準勇者クラスの人でも下級のランクのものしかできていねえ」
「まだまだ上には上があるってことだねぇ」
「もちろん魔法式を今みたいに改良するだけで威力は向上するし、いくつかの魔法は特定の文言を入れることで発生場所が変化することが分かってる」
ちなみにそれらを見つけたのはムゥやシエラ、イヴなどの学園の教師だ。
他にも魔塔教授のスイードさんやシエルエイラ魔法軍のシルヴィさん辺りも見つけてくれたらしい。
かくいう俺も、魔塔の長ヴァンディさんとの文通の中で見つけたものがいくつかある。
魔法には火属性や風属性など様々な種類があるが、どの属性の特定の文言を誰が見つけたか、というのは結構面白い。
ムゥなら火や闇、イヴなら水、シエラなら氷といった具合に、得意属性で綺麗に分かれている。
最初に魔法式を改良できると見つけたのはヴァンディさんや俺かもしれないが、魔法式改良は今や多くの人の手によって異なるステージへと移ったわけだ。
「例えば『ダークバインド』なんかは……」
手本を見せようと、魔法式をちょっと改良して発動。
すると手のひらに魔法陣が展開し、そこから黒い鎖が伸びて、魔法の的を拘束した。
普通の『ダークバインド』は対象の真下から鎖が伸びるが、発生場所を変えた形になる。
「とまあこんな感じで、発生場所を他の魔法みたいに手のひらからにする、みたいな簡単な変更ならできるってわけだ。その分魔法式が伸びるから、詠唱に時間かかるけどな」
元々使用者によって魔法の大きさや射程をある程度は変更できたが、発生する場所を変えることはできなかった。
そのため発生場所を変える改良は画期的な発見だ。
とはいえ、発生場所を変える文言は魔法ごとに違うし、見つけるヒントもない。
言ってしまえば砂漠の中から砂金を見つけるようなもので、まだまだ奥が深い。
「なるほど……発生場所を変えられるなら、別の魔法とも捉えられるねー」
「改造はもっとすげえぞ。前にムゥに『ダークバインド』を見せてもらったが、そもそも鎖がでけえ。あれ、相当大型の魔物じゃねえと千切れねえんじゃねえかな」
「やっぱり魔法……いいなぁ」
俺の説明に、リアは目を輝かせる。
授業の際はこのようにちょくちょくムゥやイヴ、シエラの魔法の凄さを語るようにしている。
リアは魔法に関してかなり興味があるらしく、彼女のモチベーションを維持するのに有効だからだ。
「ねえ先輩、もう一回言って?」
「あ? 『ダークバインド』の魔法式か?」
「そそ」
「いいぞ」
もう一度魔法式を伝え、具体的にどの部分が発生場所を地面から手のひらに変えるところなのかを説明。
何回か繰り返し説明すると、リアは複数回頷いた。
「分かった。こういうことだね?」
そう言った後で、魔法式の詠唱を始めるリア。
彼女のそんな姿に、かつてのムゥの姿が過ぎる。
まさか、見せてくれるってのか。あの時の熱をもたらしてくれた光景を。
「『ダークバインド』」
そう思うと同時、リアが魔法を発動。
彼女の手のひらに魔法式が展開し、そこから黒い鎖が伸びる。
やや難易度が高い改良でさえ、この僅かな時間でモノにしてくれた。
「はは……やっぱお前、最高だよ」
「ふふ、そうでしょ? リアちゃんは天才だからさー」
「調子に乗るな」
「あ、痛っ! また殴ったね?」
「ちょっと叩いただけだろ」
「暴力はんたーい!」
かなりお調子者で、ときにめんどくさがりや。
けれどそれを加味しても輝いて見えるほどの才能。
指導すればするほどに、俺の胸の熱は強くなっていく。
こいつは、どんな風に成長するだろうか?
ムゥみたいに広範囲に魔法を放てるようになるだろうか。
それともシエラみたいに、とても繊細で、針に糸を通すような魔法を使うだろうか。
あるいはイヴのように、戦技も魔法も両立した超人になるだろうか。
リアの成長の限界が、全く見えない。
逆に言えば、リアは何者にもなれる気がした。だからこそ、ワクワクする。
「ほら、次だ次。まだまだ改良すべき魔法は多いし、天才なリアさんには改造だって着手してもらいてえからな」
「うげっ……調子良いこと言って、全部やらせるつもりじゃん。その手には乗らないよぉ?」
「とか言いつつ、真面目に授業に取り組むリアなのであった」
「なにその語り」
くすくす笑うリアはこの後も、やる気を削ぐことなく、魔法の授業を受けていた。
「ねえー、短剣じゃなくて、魔法の方をやろうよー」
「魔法は進み過ぎてんだよ。ちょっとは戦技の方もやっておきてえだろ」
また別の日。俺とリアは学園にいた。
魔法の授業の時とは打って変わって、リアの表情にやる気は1ミリも感じられない。
「かっこいい戦技に憧れるんだろ?」
「憧れるけどさぁ……イヴ先生とかサナ先生は、なんかもう別格じゃん? それに詳しく話を聞くと、めちゃくちゃ動くらしいし、それを習得するまでも大変らしいし。その道のりを想定するだけでうんざりしちゃうよー」
「……そうか」
イヴとサナのSランク戦技を例に出すことでやる気向上を図ってはいたのだが、ここに来て効果が薄くなってきたらしい。
憧れは、自分が届かないという思いが裏に僅かにある。そこにリアは気づいてしまったらしい。
魔法と違ってその憧れの道を進むときに、リアの重視するおしゃれと衝突する、というのも理由の一つだろう。
「でもよぉ。低ランクの戦技の再現くらいは身につけねえか? 身を守るのにも繋がるし」
「うーん。でも今の所、再現しなくても自分の身は守れてるよ?」
「今はそうかもしれねえが……これからは分からねえじゃねえか。それに天才のリアならそんなに苦労せずに覚えられるだろ?」
どこかでやる気が起きないかと思い、毎度恒例の持ち上げる言い方をする。
事実リアは短剣に関しても魔法と同じくらいの才能があるので、低ランクの再現ならすぐに成功すると見ている。
「ほら、『破牙』を続けてくれ。俺もちゃんと記録に残して、確認するからよ」
「……先輩は家でそれ、見てくれてるんだよね?」
おや? 今回は少しリアの反応が変わったように思える。
なので手に持つ記録水晶を持ち上げてみた。
「おうよ。バッチリ確認して、天才のリアさんに貢献させてもらいますぜ。へへへ」
「ぷっ、なにそれ、誰の真似?」
ちょっとふざけてみれば、リアはくすくすと笑う。
その後で、じゃあ、と言ってくれた。
「……先輩が、そこまで言うなら」
この日、リアは『破牙』の再現の授業に少しだけやる気を出してくれた。
最初はクソガキかと思ったが、ちゃんと分かってくれるじゃねえか、と思ったのはここだけの話だ。
結局『破牙』の再現はある程度形になったので、やはり戦技に関してもリアが才能があることは確定。
本人は、『アタシ、優秀だからねー』と調子づいて言っていたものの、それでも魔法の時と比べてどこか乗り気じゃないのは、なんとなく感じ取れた。




