第461話 リアは家事をしたくない
事前に学園で紹介していたこともあり、リアは比較的早く家でもイヴ達と打ち解けることができた。
「リア、闇魔法、得意、良いこと。『ホロウ』、対象、消える。かっこいい」
「闇魔法って、ランクが上がっても規模が小さい魔法がいくつかあって使い勝手が良いのよね。それでも威力は高いんだけど……あ、でもSランクのは超広範囲なんだっけ?」
「そうじゃのぉ。我も一度ムゥのを見たが、あれはたまげたのじゃ」
「そ、そんなにすごいんだ。やっぱり魔法ってかっこいいなぁ……」
中でも打ち解けているのが、魔法に対して高い適性を持ち、かつ闇魔法が得意なムゥ。
そして性格的にちょっと近いところを感じるシエラ。
後はムゥとシエラと仲が良いロードである。
リアは真面目というよりどちらかというと問題児側なので、こうなるのも納得といったところか。
ただ、別にイヴとサナが苦手というわけでもなさそうで。
「イヴ先生は剣のSランクが、サナ先生は刀のSランクが使えるんでしょ? すごいなぁ」
「あら……誰から聞いたの?」
「先輩が言ってたよ。すごくかっこよかったって」
「うふふ、ええ、先生の自慢の第一生徒ですもの」
「お父様にそう評価して頂けるのは、わたくしとしても嬉しいことです」
元々明るい性格であるリアはコミュニケーションに問題があるわけではない。
短剣に思うところはありそうだが、それでもイヴやサナといったSランクの戦技を使う超人には憧れがある。
おしゃれと強さを天秤にかけて、イヴ達ほどの強さになれば天秤が傾くのか、あるいは強さがかっこよさというおしゃれに近いものに結びつくからか定かではないが、そこはリアなりの価値観があるんだろう。
「エンデー、リア、魔法、才能ある?」
「ああ、今日確認してみたが、めっちゃ優秀だ。特に使いこなしている魔法が応用が効くものなあたり、勘が良い。『ダークバインド』や『シャドウミスト』みたいな変則的なやつを好みつつも、普通の攻撃魔法も威力が高いし、『ナイトスフィア』も使えるらしいしな」
「えへへ……先輩褒めすぎだってぇ……」
今日の指導で思ったことをそのまま述べると、照れくさそうにするリア。
一方で、イヴ達は少し驚いているようだった。
「どうやら、リアさんはお父様をかなり刺激なされているようですね。こんなに意気揚々と話すお父様は久しぶりです」
「そうか?」
自覚はないので聞き返すと、その隣に座るイヴが頷いた。
「最近は退屈……というより、何かを求めていらしたようでしたので、その穴をリアが埋めてくれたのは良いことでしょう。ありがとうね、リア」
「え? ……えっと……どういたしまして?」
急にお礼を言われて戸惑うリア。
その後で、彼女は俺に耳打ちしてきた。
「……学園の時から思ってたけど、先輩、好かれてるんだね」
「ありがたいことにな。学園の教師になってくれて助かってるぜ」
「いや、そういうことじゃないんだけど……」
正直、イヴやサナがいないと学園や家の色々なことが回らない。
こいつらが生徒を教え、さらにそいつらの金が入ってくる。
最初に思い描いた構図とは違うものの、概ね目標は達成しているし、結果オーライってやつだ。
「さて、それじゃあ話はここら辺にして、リアに家事全般を教えましょうか」
「そうですね。掃除洗濯料理の手伝いと、伝えることは多いですから」
話がひと段落したからか、イヴとサナが家事についての話を始める。
彼女達の言葉に、リアが反応した。
「んん? 家事?」
「あー、そういや話してなかったな。この家に住む以上は家事をやってもらう」
「えー」
露骨に嫌そうな顔をするリアを見て、そういやムゥも初めはこんな感じだったな、と思い出し、彼女の額をデコピンする。
「タダで住めるわけねえだろ。働かざるもの食うべからずだ」
「うー、乙女の額を打つなんて、最低ー」
「そういうのはもっと成長して美人な女性になってから言うんだな、クソガキ」
リアはキラキラしているものの、まだ少女だからか、あるいはそういう体質なのか身体の凹凸は少ない。
身長は低くないのでスレンダー美少女、という印象だ。
まあそれでもムゥよりは大きいんだ--。
「エンデー」
「エンデー、失礼、考えてない」
意図的にムゥと視線を合わせないようにすると、たまたま逃げた先にサナが座っていた。
「ええ、そうですね。わたくしやイヴさんくらい成長してから言うようにしましょう。……お父様もそう思いますよね?」
「……ノーコメントで」
これ以上この話題を続けると肩身が狭くなりそうなので、強引に話を戻すことにした。
「いずれにせよ、掃除洗濯料理……は流石にイヴとサナの手伝いになるだろうが、それらをやってもらう予定だ」
「うーん……家事かぁ。でも料理は手伝いで良かったかも。なんか作れって言われても作れないし」
おしゃれに目がないリアではあるが、家庭的なスキルは得意ではないらしい。
だが大丈夫だ。この家に住めば掃除洗濯料理の手伝いは完璧になる。
何せ指導役の二人がこの世界でも屈指の家事力を有しているからな。
家事力ってなんだと思うが、きっとイヴとサナの家事力はAくらいある。知らんけど。
「エンデー、私、リアの代わり、手伝う」
なんて考えていると、クソガキはとんでもないことを言いやがった。
「ダメだ。お前は厨房に出入り禁止だろ。一歩でも入ったら掟違反で厳罰に処するからな」
「具体的には、ご飯抜きですね」
「不服。私、そろそろ、料理できる」
俺とイヴの言葉にも反論をしてくるクソガキ。
そうは言うが、料理は時間経過でできるようになるものじゃないので説得力は皆無。
ちなみにこのやりとりは結構頻繁に起こるので、サナやシエラ、ロードもいつも通りに過ごしている。
けれどリアは今日来たばかりだからか、ムゥが料理できないことを知るはずもなく。
「? なんでムゥ先生は厨房に出入り禁止なの?」
「こいつ、料理が壊滅的にできねえんだよ」
「失礼。食べれる」
「料理を食べれるか食べれないかで判断してる段階でアウトだし、そもそも食えるのはお前……とシエラだけだわ」
ムゥにいつものようにツッコミを入れていると、リアの表情が明るくなる。
まるで何かを思いついたような、豆電球が灯ったような感じだった。
「アタシもムゥ先生と同じがいい! 料理担当、外してよ!」
「ダメに決まってんだろ。あ、言っとくがわざと料理の手伝いを失敗したら、マジでぶん殴るからな」
「えー! 暴力はんたーい!」
拳を作って見せてみれば、きゃー、とふざけて椅子を飛び降りるリア。
そんなクソガキ2号に呆れ返っていたところ、逃げた先でリアの背後に二人が一瞬で回り込んだ。
「大丈夫よリア、私が手取り足取り、丁寧に教えてあげるわ」
「ええ、それはもう。お父様の依頼は絶対遵守。わたくし達が一流の家事できる人に育ててあげますからね」
「え、はっや……そして力つっよ……」
「じゃあまずは皿洗いからね」
「それは良いですね。汚れを完璧に取り除くスカイグラス家の食器洗い術、伝授いたします」
服の襟を掴まれて、ズルズルとイヴとサナに引きずられていくリア。
残念ながら才能があっても、同じく才能があり、しかもそれを開花し終えた二人には敵わなかったらしい。
「せ、先輩! 助けて! アタシ、真面目になると死んじゃう病気なのー! だからアタシも厨房禁止にして欲しいなー……なんて」
「却下だ。そしてそんな病気はねえ」
「うあー!」
首根っこを掴まれたリアはそのまま厨房の方へと引きずられていった。
ホラーかな? と思ったのは、ここだけの話だ。




