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転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
第5生徒 閉ざされた少女

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第101話 スカイグラス学園寮

「ところで先生……よければ僕たちも先生の家にお世話になりたいのですが、ダメでしょうか?」


 その言葉で、部屋に沈黙が落ちた。

 少ししてから俺は口を開く。


「無理だろ。部屋がねえよ。四人も一気になんて」


 現在余っている部屋はかつてサナが使っていた客室のみ。

 そこにまさか『星の牙』の四人を入れる訳にもいかない。

 至極当然のことを言ったのだが、ルイは譲らなかった。


「な、ならイッテツさんに家の増築を頼むのはいかがでしょうか? 僕たちもお金を出しますし……」

「あ?」


 念のために『星の牙』の面々を見てみると、苦笑いを浮かべている。

 どうやらパーティメンバーには事前に話を通していたらしい。

 金を払うと言うなら、受け入れてもいいのでは、といつもなら思うだろう。しかし。


「わりい、今回は無理だ。お前たちにはやって欲しいことがあるからな」

「……え? やって欲しいこと……ですか?」


 最初は悲しそうに目を伏せたものの、すぐに首を傾げるルイ。

 俺は頷いて、アガートさんの方を見た。

 少しして俺の言いたいことが分かったのか、アガートさんは頷く。


「そういうことか。では、前向きに考えてくれたんだね?」

「ああ、イヴから話を聞いて、断る理由もなかったしな」

「え……っと……?」


 事態が飲み込めていないルイに、説明をする。


「なあ、ルイ。お前たちはここで授業を受けているとき、宿の金がかかるな、って思わなかったか?」

「え? いや、まあそれは……」

「思ったはずだ。そのために冒険者依頼もしていたしな。それはイヴも……あー……まあ、同じだ」


 ムゥも、と言おうと思ったが、こいつは最初から居候だった。

 まあ後ほど大量に金を入れてくれたから、それで良しとしてやろう。


「実際、それも課題の一つでな。イヴとアガートさんの間で、一つの案を出してもらってたんだ」


 魔塔から訪れたシンシアなどは家が裕福なために余裕があるものの、皆が皆そうではない。

 金銭的な問題で授業に身が入らないのは、こちらとしても望ましくない事態だった。


「それが、寮を作るってことだ」


 寮。それは俺がかつていた世界にもあった施設。

 この寮に生徒は入ってもらい、安い寮賃で過ごしてもらう。

 俺としても、宿に入る金を寮に入る金で回収できるのでウハウハ、というわけである。


「お前たちの居るときからやりたいとは思ってたんだが、費用の面から難しくてな。でもそれも、アガートさんが支援してくれるってことで出来るようになった」

「イヴくんとの間で色々と計画を立てて、エステルの街に建てる予定だ。既に敷地は取ってあって、男子寮、女子寮で作る事になっている。予算も降りた」


 アガートさんが引き継いで説明をしてくれた後で、向かいに座るイッテツさんがジト目を向けてくる。


「お前さん……まさかと思うが」

「もちろん、イッテツさんに頼むつもりだったって。当たり前だろ?」

「おう、分かってるじゃねえか」


 実際イヴにもそのつもりでアガートさんと交渉してくれって頼んでいた。

 大きな仕事が入ることが分かったようで、イッテツさんは満足げに頷いている。

 流石の俺も建築関連でイッテツさん以外に依頼しようとは思わない。

 イッテツさんから不満の気持ちは向けられたくねえんだ。へへへ。


「じゃあ僕らに頼みたい事というのは……」

「寮の管理をして欲しい。男子寮はお前が、女子寮はアンナ達だ」

「え……えぇ……で、ですが……」

「色々考えたんだ。アガートさんも人を派遣してくれるとは言ってくれていたんだが……正直、お前がいるなら心強い。生徒だって安心して眠れるだろうさ」

「ぼ、僕がいるなら心強いって……へ、へへ……そ、そんな……」


 正直、俺の知り合いの男女比はかなり女性に寄っている。

 男性寮、女性寮を作るとき、寮の管理者を誰にするかは一番の悩みだった。

 まずムゥは論外。なのでイヴが最有力候補になる。

 ただ彼女も忙しい身で、これ以上負担をかけたくなかった。


 さらに、それを解決したところで男子寮は解決しない。

 俺は流石に無理だし、アガートさんが派遣してくれた人しかないか、と思っていたところのルイ達だ。

 これなら男女で寮の管理ができるし、管理者同士仲が良いから意思の疎通もしやすいだろう。


『星の牙』が帰ってきたことは予想外ではあったが、この寮という問題を考えると、嬉しい誤算と言ったところか。


「まあ、そういうわけだ。どうだ? これならお前たちが頑張って貯めた金をわざわざ使うことも無いだろ? あぁ、もちろん寮の中に四人の部屋は作ってもらう予定だ。……そのうち生徒の中から寮長とかも作れるくらいには大きくしてえな」

「……正直お金に関してはあまり気にしていなかったのですが……で、ですが……先生としては僕らがそれをすると嬉しいということですよね?」

「ああ、そうだ」

「他の人より、僕がってことですよね?」

「ああ、お前の方が良いに決まってんだろ」


 アガートさんの派遣した人とルイを比べれば、付き合いがあったルイの方がやりやすい。

 そう思って肯定すると、ルイは激しく首を縦に振った。


「へ、へへ……分かりました! お任せください。僕らが責任を持って、生徒の皆を守ります」

「な、なんだか急に話が大きくなったけど……学校でも寮でも先生? ってこと?」

「そんな感じだと思いますよ。ふふっ、楽しみですね」

「んー、まあお金かからないならそれはそれでいいんじゃない?」


 ルイのみならず、他の三人も乗り気なようだ。

 こうして、校舎の拡充と寮の設立。そして寮長の赴任という3つの大きな出来事が決まったのだった。














 イッテツさんの工房で話をつけた後、俺たちは校舎へと戻ってきていた。

 アガートさんはこの後予定があるということで、エステルの街で別れた。

 その際にムゥが魔馬車に魔法をかけていて、確かにちょっと速くなっていたりした。


「さて、まあ規模は結構あるな」


 そしてイッテツさんは、一人俺たちについてきていた。

 どうやら今から校舎の下見をしてくれるようだ。その後は改築に取り組んでくれるとか。

 彼は歩き出し、玄関口をぐるっと回って、広場の方へと足を進めた。


「ふむ……辺りの木を伐採して広くするとして……問題はなさそうだな」


 色々な事を考えているイッテツさん。

 これ以上は邪魔になるかと思い、皆を引き連れて帰ろうとしたところで。


「……あ?」


 イッテツさんの地を這うような低い声が聞こえた。

 ゆっくりと振り返ると、イッテツさんは動きを止めてじっと遠くを見ていた。

 いや、その視線の先には魔法の的がある。


 てくてくと歩いていくイッテツさん。

 それはやや小走りになり、その途中でムゥが逃げ出そうとして。


「おい」


 声を聞いて、ムゥは動きを止めた。


「小娘、ちょっとこい」

「は、はい!」


 大きく返事をして、ムゥはイッテツさんの元へ。


「お前さん、また的を壊したのか……」

「ご、ごめんなさい……」

「しかも適当に直しやがって……こんど壊れたら言え」

「……お、怒らない?」

「あぁ?」

「ひぃっ!?」


 眉を寄せたイッテツさんは、ため息を吐いて首を横に振った。


「的は壊れるのも仕事の内だ。その仕事が果たされることはあんまねえけどな。

 ……むしろ悪かったな。お前さんの魔法に耐えられるように作ったつもりだったが……まだ脆かったか」

「う、ううん……そんな……こと」

「ふーむ……校舎の増築をするついでだ。お前さん用に耐久力を極限まで上げた的を作ってやる」

「ほ、本当? Sランク、撃っても、壊れない?」

「お前さん……そんなのも使えるのか……んー、頑張ってはみるが……」


 珍しくイッテツさんとムゥの間の空気がピリピリしてない。

 いやむしろ、イッテツさんがピリピリしてないからかムゥも安堵しているようだ。

 どうやら取り越し苦労だったらしく、的が壊れたことに関してはイッテツさんは全く怒ってなかったらしい。


(……まあ、よかったじゃねえか)


 遠くでイッテツさんと会話をするムゥを見て、俺は少しだけ口角を上げた。

 何かを忘れている気がしたけど、それが何なのかは思い出せなかった。

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