第100話 その名は、国立スカイグラス学園
アガートさんに手紙を出したところ、すぐに向かうと返事が来た。
あの王様、フットワーク軽すぎじゃないだろうか。
後ろ盾になっている校舎の増築の話だから居てくれるのは助かるものの、ちょっと心配になる。
『アガート、来たら、魔馬車、ちょっと、改良』
『……ああ、ちょっとでも速くできるならな。でも速くしすぎるなよ』
『名前、暴走くん』
『馬鹿か』
名前的にアウトだわ、という話をムゥとしてから数日後。
俺たちは、イッテツさんの工房に集まっていた。
「……なんというかよ……多すぎじゃねえか? お前さん」
正面に座るイッテツさんは眉間に指をあててうんざりするように言った。
今この場にいるのは俺とイッテツさんの他に、イヴ、ムゥ、ルイ、アンナ、ユウリィ、ミルキー、そしてアガートさんだ。
もうギュウギュウな感じがすごい。
さらに外にはアガートさんの兵士が待っているものだから、ちょっとした騒ぎになるレベルだ。
「しかも国王陛下までお見えになるとは……初めまして、イッテツと申します」
「アガート・ルフ・アーネンベルグだ。よろしく頼むよ、イッテツ殿」
「……で? 今日の増築はどっちだ?」
教室か、生活住居かという質問だろう。
少し前から、イッテツさんはこういった煙に巻いた発言をよくしてくれるようになった。
きっと何が原因で空気が重くなるか分からないからだろう。その思いやりがマジで熱い。
本当にありがてえよイッテツさん。よっ! 最強の大工様! 相変わらず思うが、大工に最強って接頭語おかしいだろ。
「教室の方を頼みたくてな。新たに四人の教師を雇うつもりだ。生徒もおのずと増えてくると思う」
「四人か……うーむ……」
顎に手を置いて考えるイッテツさん。
そしてしばらくしてから、「うむ」と頷いた。
「予算はどれくらいあるんだ?」
「これくらいだ」
紙を受け取り、うんうん、と頷いていたイッテツさんは俺を見てニヤリと笑う。
「金にうるさいお前が、だいぶ大きな決心をしたじゃねえか」
「なるべく低く抑えてくれよイッテツさん。それは出せる最大限だ」
金が減るのは嫌だが、校舎の増築に金が必要なのは言うまでもないこと。
背に腹は代えられないものの、なるべく金を失いたくねえ、という気持ちはあった。
「うーん……だがなぁ……」
けれどイッテツさんは少し難しい顔をした後で、おのずと席から立ち上がった。
「少し待ってろ。ちょっくら図面を書いてくる」
「え? 今から?」
「ちょっくらだって言ってるだろ。待ってろ」
そう言ってイッテツさんは部屋の奥へと入っていってしまった。
「……イヴ、以前校舎の図面書いたとき、結構時間かかったよな?」
「は、はい……色々考えることや計算することが多かったので……」
「専門家だとめちゃくちゃ早いってことなのか?」
そう言ったとき、奥の部屋から音が響く。
とても図面を書いているとは思えない不思議な音が、響いていた。
「??? 魔法?」
「分かるのか?」
「ん、でも、音だけ、だから、正確には」
一体あの人は何をやっているんだと思ったところで、イッテツさんが奥の部屋から出てきた。
「おう、こいつでどうだ」
差し出されたのは、図面だった。
「今の敷地を更に広くして、校舎を拡大する方向性を取る。一階を部屋6つ。まあ教室やお前さんの使う部屋、控室とかにしてくれや。んで、外から入れる倉庫も拡充。階段をつけて、二階を作る。二階も同様に6部屋作るって感じだ。
こうすることで、今後さらに増えた場合も3階を作ることができる」
「お……おぉん?」
書いてあることの説明をイッテツさんはしてくれている。
それは理解できる。書かれた図面を見れば、完成が楽しみになるほどの規模の大きさ。
これまでよりも、さらに校舎らしくなるだろうということは分かる。分かるんだが。
(これだけの量を……一瞬で?)
俺はむしろこの図面を一瞬で出してきたイッテツさんに開いた口が塞がらなくなっていた。
いや、きっと考えちゃダメなんだ。きっとイッテツさんだからって思った方が早いんだ。
時止める魔法とか使えるんじゃねえかな……。
「ただやっぱり費用はかかるな。こんくらいだ」
差し出された紙を何も考えずに受け取り、目を通す。
「たっか……」
俺が渡した紙の金額よりも高い。
アガートさんの支援がなければ間違いなく届かない金額だろう。
さっきからアガートさんの方をチラチラ見ているし、それも考慮しての交渉ってことか。
「だがその分、長くは持つし、授業はしやすくなるだろうな」
「う、うーん……」
考える。確かに教室運営は軌道に乗りつつある。
今後生徒は増えるだろうし、回収できる可能性も高い。
けどなぁ……と思ったところで、紙を覗き込んだアガートさんが声をあげた。
「ふむ、ではその8割を私の方で出そう」
「ほ?」
え? 8割? ってことはこの2割で良いってこと?
そ、そんなん……。
「これで頼む、イッテツさん」
「お前さん、相変わらず切り替え早いな」
悩みを吹き飛ばすアガートさんパワー。こーれ最強ですわ。
世の中やっぱり金なんすねぇ。よっ、一国の長様!
「少し悔しいのですが……手持ちを全て解放すれば私の方で払えなくも……」
「同意、私、まだ、お金ある」
左右から声が聞こえるけど、今回のMVPはもう決まったんだ。すまんな。
「ふむ……どうせだからエンディさん、この際、学校名を変えないか? 現在はスカイグラス教室だろう? 国立スカイグラス学園、というのはどうだい?」
「こ、国立かよ……そいつは確かにありがたいんだが……スカイグラスは変えねえか?」
前から思っていたことだ。どうして俺の名前がついているのかと。
もっといい名前あるだろ。それこそシエルエイラ学園とかにしろよ。
国立シエルエイラ学園で良くね? お前らもそう思うよな?
「いえ、ありえません。絶対にスカイグラス学園にするべきです」
「ん、異論、認めない」
「先生、素晴らしい名前だと思います。スカイグラス学園」
「えぇ……」
満場一致で却下だった。本気かよ。
スカイグラスって俺の母方の旧姓の天草から取ってるだけで何の意味もねえんだぞ。
けれどイヴ、ムゥ、ルイは意見を変えるつもりはないらしい。
アンナ達も見てみたが、誰も口を出すつもりはなさそうだ。
まあ、別に俺の本当の苗字や名前ってわけじゃねえし、どうせ母方の旧姓だからいいんだけど。
「あー、じゃあ、それでいくか」
「ありがとうエンディさん。これで私は名実ともに教室の後ろ盾になれたわけだ」
「素晴らしいです、国立スカイグラス学園」
「うん、おっきい。すごい」
「流石です、先生!」
みんな喜んでるから良い……のか?
とは思ったものの、次のルイの発言で、その空気は一変することになる。
「ところで先生……よければ僕たちも先生の家にお世話になりたいのですが、ダメでしょうか?」
瞬間、時が止まったかのように沈黙が辺りを支配した。




