第99話 嫌じゃない賑やかさ
「い、いやいや……いやいやいや……ぼ、冒険者としてどこまで高みへ行ったんだ?」
まだ現実を受け入れられなくて、なんとか言葉を絞り出す。
そ、そうだ。まだまだお前たちは未熟。もっと力をつけろムーブで……。
「アンナ、ユウリィ、ミルキーは二級……僕はその一つ下の準二級です」
「パーティとしては二級ね」
「ルイさんは弓の熟練度がBなのですが、B+の私達と同じくらい、いえ、それ以上に活躍しているから二級にしてくれって頼んだんですけど……」
「残念ながら、受け入れられませんでしたね」
ルイ、ミルキー、ユウリィ、アンナの言葉を聞いて、俺は乾いた笑みを浮かべる。
送られてくる金額から、『星の牙』が着実に実力を増しているのは分かっていた。
そして彼らはほぼ全員が二級冒険者となった。
俺のようなおまけや情けでの二級じゃなく、本当の二級冒険者だ。
それが四人……うん、もう十分すぎるくらいですね。
「色々な国を訪れて、多くの魔物を倒しました。もちろん、イヴ先生には及びませんが……それでも、先生の教室の教師になるために頑張ってきました」
「……そう……だな」
星の牙が卒業したときにルイと交わした約束はもちろん覚えている。
ただ、その時は絶対冒険者を貫くと思ったんだ。
まさか本当に言葉通りに帰ってくるなんて。
(……星の牙が帰ってくる。サナも将来ここで働きたいって言ってた……これもう破綻してねえか?)
将来的に計画が崩れ去るのが見えている。
いやそもそも、もう崩れきってて塵も残って無くねえか?
まあ、アガートさんの支援もあるし、レヴィさんからもらえる金もある。
教室も教室である程度金を生み出しているし、もう崩壊してもいいのかもしれない。
(……なんだかなぁ)
なんでこうなったと思いつつ、もういいや、と開き直ることにした。
「……誰?」
ふと、向かいの机から成り行きを見守っていたムゥが声をあげる。
そういえばムゥと『星の牙』には接点はなかったなと思い至った。
「お前が魔塔に行っている間に受け持った生徒達だよ。といっても、ほとんどはイヴが担当したんだがな」
「ふーん」
椅子を降りて、ルイの元へ向かうムゥ。
彼女はルイの前で立ち止まり、じっと見上げた。
「え、えっと……?」
「そいつはルイ。星の牙の中では唯一俺が教えた生徒だ」
「そう。私、ムゥ。よろしく」
「は、はい……ルイ・クロードです。よろしくお願いします」
頭を下げるルイを見た後にムゥは頷き、何かを言おうとしたところで。
「ム、ムムム、ムゥさん!? あ、あの噂の、ムゥさんですか!?」
ユウリィが、大きな声をあげた。
「知ってるのか?」
「はい、す、凄い魔法使いがいるって! 私も魔塔所属の友達にマルク・マギカで出会ったときに知ったのですが……」
マルク・マギカに魔塔ならムゥの庭みたいなもんだし、中では噂になっているだろう。
ユウリィは興奮冷めやらぬ様子でムゥに近づき、頭を下げた。
「わ、私、ユウリィ・フレームと言います! よろしくお願いします」
「ん。ユウリィ、イヴの生徒?」
「はい、そうです」
「そう……私、エンデー、第二、生徒」
「エ、エンディさん……」
なんだろうか、キラキラした目でユウリィに見つめられている。
いや、そいつ勝手に育っただけで俺が育てたわけじゃないから。そんなキラキラした目で見られても困るから。
一方で先ほどムゥに声をかけられたルイは、なんだか微妙そうな顔をしていた。
「うーん……先生は本当にすごいんだけど……ムゥさんはなんかやりずらいなぁ……」
やりとりを見ていたミルキーは一歩前に出て、俺に声をかける。
「久しぶりね」
「ああ、元気そうじゃねえか」
「まあね。大きな怪我もなかったし……ね、ねえ? お金、足りた?」
「あ?」
「ほ、ほら……仕送りしたでしょ?」
「ああ、助かったぜ」
「そ、そう……」
実際助かったのでそう告げると、ミルキーは「ふーん」って言って視線を外す。
そしてしばらくした後に、咳払いをした。
「で? 教師として受け入れてくれないかしら?」
「……約束だからな。分かったよ」
「そ、そう……やったわよ皆」
ミルキーの言葉に胸を撫でおろしたり喜びに笑う『星の牙』の面々。
俺の教室で働くことってそんなに良いことなのか?
少なくともそんな喜ぶことじゃないと思うんだが……。
「言っとくが、そんなに給料出せねえぞ?」
教室の金銭周りはイヴが担っている。イヴはこの教室の教師兼サブリーダー兼、事務兼外部連絡役兼金庫番だ。あれ、役職多くね。
ちなみに以前イヴとムゥに支払っている給料を見せてもらったときは、少ないのでは? と思ったくらい低かった。
二人は全然気にしていないどころか、もっと少なくても良いとか言っていたので「今のままで」としたが。
ミルキーは小さくため息を吐き、ルイが大きな声で答える。
「構いません! お金が目的ではないので」
「……お、おう……そうか」
全然理解できない考え方だが、まあ人それぞれということだろう。
いや、金大事だろ。とは強く思うが。イヴ、ムゥと同じく金銭欲がないのか。
ルイの言葉にやや気圧されていると、ミルキーは教室を見渡した後に尋ねてきた。
「前に話に聞いていたんだけど、イヴ様の時は教室を増やす際に、イヴ様がお金を出したのよね?」
「あ? ああ。そうだが」
「だったら、今回も教室を増やすのはどうかしら? これまでの稼ぎにそこまで手を付けていないから、ある程度だったら出せるわ」
「あー」
俺はそう言ってルイ、ミルキー、ユウリィ、アンナを順に見る。
一気に四人も教師が増えるとなると、流石に今の教室数では足りないだろう。
生徒も増えるだろうし、教室の拡充は必要な事か。
(……アガートさんに相談してみるか)
前に話をしたときに、彼もこの教室を大きくしたいというようなことは言っていた。
ひょっとしたら援助してくれるかもしれない。
「そうだな……色々と相談してみるか」
そう言ったところで、部屋の扉が開く。
授業を終えたイヴが、戻ってきたところだった。
「……あら? 久しぶりの子達がいるわね」
「イヴさん!」
「イヴさん、お久しぶりです!」
「イヴ様!」
イヴの登場で、アンナ、ユウリィ、ミルキーの三人はそちらへと駆けよる。
その後ろ姿を見ていると、隣に立ったルイが声をかけてきた。
「やっぱり、実際に教わった先生に会うというのは嬉しいものみたいですね」
「あ? ああ、そうみたいだな」
そりゃあ思い入れの差もあるだろう。
そんなことを、左右をルイとムゥに囲まれながら思ったりした。
「……なんていうか……賑やかだな……」
いつもの控室は、『星の牙』の四人がいることで少し狭さを感じていた。
けどそれが嫌だとは、別に思わなかった。




