620話 正体不明の都市④
解説回になってしまった。
【転移】で無事に飛行魔導輸送騎に戻ってきた僕らを和花らが出迎えてくれる。
瑞穂、アルマ、和花と順に「おかえりなさい」「ただいま」と軽く抱擁を交わしていく。
この世界だと人を使う立場の者は当人同士に序列がなかろうと顎で使われる立場の使用人にとっては序列は重要なので人前ではそれを守らなくてはならない。ぶっちゃけ面倒くさい。
そして人前でこれは結構照れるんだよなぁ…………。
「大丈夫だった?」
「問題ないかったよ。そっちこそ乱暴に取り押さえられたとか?」
「魔法禁止なら最初から言ってよとか思ったわ」
そう言って和花は頬を膨らます。時々子供っぽい仕草をする。
僕の方も戦闘はあったけど特に問題なかったし報告しなくてもいいかな。
「すまないが私は部屋で休ませてもらうよ」
この世界ではよくある定番の儀式を興味深げに眺めていた文官さんはそう言って足早に与えられた私室へと戻っていく。
さて、名残惜しいけど現状を確認しなければ。
僕は近くの伝声菅へと移動し艦橋にいま現在分かっている事を問う。
「坊ちゃん。副長です。現在われわれは案内された屋内船渠に入渠しております。連中曰く自動工場で代用品を用意できるとの事でしたので代用品にて外殻の穴を塞ぎ破壊された気嚢の穴を塞ぎ浮揚ガスを注入が終わっております。いつでも出渠できます」
どの文明か不明な豆腐建築の町にこの超大型の飛行魔導輸送騎を入渠させることが出来る屋内船渠を備えた町…………。気になるなぁ。
基本的に自動工場で複製および生産できるものは製造された文明の一段階上までである。この飛行魔導輸送騎の技術は基幹部分は前々々史文明のモノだが他は前史文明レベルであり今ではそこそこ復元されており工房で修理できるように設計してある。
領主館に関しては外観は豆腐建築であったが内装もシンプルで年代を測れる情報がない。
取りあえずいつでも出航できるようにと伝えて伝声菅を閉じる。
さて、まずは情報が欲しい。ここは烏型偵察騎を出すべきか、それとも…………。迷った末に僕は。
「周囲の調査に出る。何人か――――」
言い終わらないうちに既に瑞穂が手を上げていた。見回すと和花、アルマ、ハーンが手を上げていた。
念のために防衛の人手でも欲しいしので金竜さん、白竜さんと上位森霊族のエルトシャンさんにはこのまま残ってもらおう。
軽く打合せを行い装備を整えて非常口から出る。
屋内船渠には人の気配がない。人造人間も警備用の多脚戦車すらいないのが不気味だ。
出来る限り音を立てずに内部施設へと入っていく。
「思ったのだけど、これは太古の時空魔術による産物って事はないかな?」
周囲を物珍しげに見ていたアルマが唐突にそんな事を口にした。皆の視線がアルマに集まる。僕は話を進めてくれと目で訴えかけると軽く頷いて自分の考えを語り始めた。
時空魔術は現在こそ時空操作や空間干渉に特化しているが本来は時間という神にすら操作できなかった領域に挑んだ系統である。
まず目指したのは時間操作であった。
結論から言えば上手くいかなかった。一応特定範囲の時間の流れを変えることには成功した。しかし解除した際に世界が整合性を取るために該当空域を消滅させた。のちの【空間消去】である。
秘儀と定めた【時間停止】は失敗した。
大昔に権威ある魔術師イブラヒムがこう語ったそうだ。
『人間如き矮小の存在が世界を止められるわけがない』
そこで彼は研究の方向性を変更した。大魔術である【時間遡航】を開発したのである。
ひとりで無理なら大勢で、莫大な万能素子が必要なら増幅能力をと言って脳の処理能力を上げるために奴隷たちの脳を魔術的に繋げ並列処理させる術式を開発した。
次に莫大な万能素子を得るために[豊穣の剣]を作り出した。研究時間を稼ぐために自らに【不死なる王転生】を施し超越者となった。
超越者となり霊格が上がった事で人の時には気が付かない事に気が付いた。
現在では[時空樹世界]と呼ばれる世界の構造についてだ。
世界は歴史の転換点の際に枝葉の世界が分岐される。【時間遡航】はそれを人為的に興そうという大魔術であった。
更に年月は過ぎついに術式が完成した。嬉々として詠唱を始め連動した五千人の奴隷に膨大な術式を処理させる。万能素子は[豊穣の剣]で生み出しものでも足りなかったので新たな魔術【万能素子増幅】を以ってさらに増幅させた。巨大な魔法陣と高価な触媒を用いて三日三晩の儀式の末に男は姿を消した。過度の脳の処理で死に絶えた奴隷だけを残して。
その後高弟たちが研究結果を再現するために奔走した。
ある高弟は師と同様に姿を消しある高弟は奴隷だけが死に絶えた。
研究は続いたが終末のモノの来襲によって研究は打ち切られてしまい戦後の混乱期のどさくさに研究結果を紛失してしまう。
長い年月を経て一人の天才が失われてしまった大魔術を復元した。
後にこの天才も姿を消した。
魔術師たちは研究する方向を変更した。偉大な大魔術を解体して【転移門】や【次元門】【次元門】などである。
更に月日が過ぎ去りある老魔術師が歴史に登場する。
その者は自分は未来から来たと言った。偉大なる大魔導師イブラヒムの高弟であると。
狂言使いと言われつつも二冊の書を残した。[【時間遡航】の書]と[【時間停止】の書]である。
この二つは禁呪とされた。特に[【時間停止】の書]に関しては証明しようがない事もあり封印された。
[【時間遡航】の書]の方は現在でも伝わっているが効果のほどは確かこうだった。
任意の過去へに魔術的な楔を打ち込み強制的に枝葉の世界を分岐させる。結果だけ見れば過去という名の別の世界に移動するだけの魔術であった。その後の歴史は術者という異物が入り込んだ時点で全てが狂い自分の都合のいい展開は期待できない。
異物が混ざった時点で僕らが居るこの世界も新たに生み出された世界なのかと思ったのだけどそれは違うそうだ。
イブラヒムの高弟は【次元門】で渡ってきたのである。そこで分かったことは枝葉の世界毎に時間の流れが異なっているという事だ。イブラヒムが消えてから高弟がこっちの世界に来るまでに二百年ほど経過しているが実際には数千年経過した後であった。
「前振りが長くてすみません。この箱庭建築の世界ですが恐らくですが枝葉の世界が滅んだのでは…………」
意味が解らなかったのだけどアルマが話を続ける。
時空樹世界の幾重にもある世界で太い枝に相当する世界を進化の世界と呼ぶ。
そしてその世界から派生した世界は何らかの要因で滅んだ際にオリジナルの世界に一部が吸収されるのだという。
時折経験のない記憶が突然湧きあがったりなかった筈の場所に唐突に構造物が出現したりなどといったケースが結構ある。
僕らが調べた遺跡も裏取りしていくと謎そこにあるのかが分からない場所もあった。
この豆腐建築の町だが僕らと言語体系がほぼ同じで食文化や固有名詞もかなり近い。正解に近いのではというのがアルマに意見であった。
「なるほどねぇ…………」
「そう考えるとこの町がいつの時代だったかを推察する事も出来そうね」
和花がそう漏らす。もっともその為には情報が足りない。ただ思うのはここをこのまま残していいのだろうか?
赤の帝国や神聖プロレタリア帝国が接収したら? ウィンダリア王国が接収したら妙な野心があの王太子に芽生えないだろうか?
一介の冒険者が頭を悩ます事でもない気がするが…………。
ちなみに世界が止まった世界線というのもありその世界は全てが動かない死の世界である。




