612話 道中暇なので経歴書を読む
26-04-05 誤字脱字を修正
十字路都市テントスを発って交易路に沿って上空を三日ほど東進し気が付けば東方南部域に差し掛かっていた。
床に映し出される地上の景色を眺めるのも飽きてきた。空の旅路は暇で仕方ない。
そんなわけで僕らは各々好きなように過ごしていた。
和花は研究資料を持ち込みアルマは太古の文献を読み耽っている。瑞穂はと言えば艦内格納庫の空きスペースで最近覚え始めた速弓の鍛錬を行っている。
ハーンは同行する魔導機器組合の魔導機器技師らと技術談義を行っている。
金竜さんと白竜さんは床面に映る地上を飽きもせずに眺めている。
飽きないのかと聞いたところ眼下の庶民の営みを眺めるのも人を知る勉強になるとの事であった。
僕はと言えば艦内格納庫で日課の鍛錬を終えて着替えて出発前に渡された経歴書を読むことにしたのである。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
四通を読み終えた段階でこれはダメだなという結論が出た。今回求めていた人材は専門性を持った魔術師だ。
経歴書には自分がいかに優秀な魔術師であるか、自分が加わる事で共同体が更にどれほど貢献できるかなど書かれていたのであるが…………。
25歳を過ぎて正魔術師程度に納まっている人材を界隈では優秀とは言わない。ま~確かに正魔術師は魔術師を目指す生徒100人に一人くらいの割合だから優秀と言えば優秀かもしれないが、本当に優秀な魔術師は20歳で導師とかなんだよねぇ…………。
欲しいのはそう言った人材であって彼ら程度はおよびじゃない。創作物にありがちなある日突然覚醒とかありえない。たまに昼行燈な人もいるけどそういう人物でも要所要所で優秀さを表す片鱗を示す。
最後の一通は異邦人との事であった。価値観が合えばいいだけどねぇ。そう思いつつ目を通す。
「凄いなぁ」
最初の感想がそれであった。まず自分が異邦人である事、年齢、性別、元の世界での経歴や社会情勢がどうであったかを分かりやすく書かれていた。こちらが異邦人である事は少し調べれば分かるだろうから価値観の擦り合わせだろうか?
そこは良い。問題は次だ。
現在は何を専攻しておりどの程度の事が出来るかを事細かく記していた。一番驚いたのは僕が年末に魔術師組合に提出した新魔術への朱書きであった。
提出したときは誰もが凄い凄いと褒め称えた呪句であったがその人物に言わせると非効率であるとの事であった。
効率化を極めるとこうなるという回答が添えられており試しに唱えてみると確かに僕が提出した呪句より脳への負荷が遥かに低く使い勝手が良い。この世界の魔術は学術なので術者の想像力とか言うふわっとした雑な知識で威力とか効率が変わることはない。
いちおう精神魔術や幻覚魔術は多少影響があるとは言うけど…………。
彼女、亞厂 佐奈という変わった苗字の18歳の女性だ。最近飛ばされたわけではなく気が付けば10年前に森の中にいたという。この国のはずれにあるデンスケという老魔術師の庵で育てられ15歳になる頃には正魔術師であったとの事だ。老魔術師の死をきっかけに大きな町へと居を移し老魔術師の遺書に同封してあった紹介状で魔術師組合に在籍し直ぐに頭角を現し昨年の夏にテントスの魔術師組合に所属を変更する事になったとの事だ。
記憶力がかなりいいようで第四階梯以下の魔術であれば呪文書は必要ないとの事であった。
多くの魔術師は使用頻度の高いモノだけを記憶しているが大半は呪文書片手に詠唱する。僕や和花も流石に全部の魔術を記憶はしていない。
過去の実績だが水薬の品質を落とさず生産性を上げたとか、魔術の射程距離拡張、新しい生活魔術で【化粧登録】、【化粧再現】、【整髪】、【お茶生成】を開発した事だろう。どれも術者の記憶力に依存する魔術である。改造元の魔術は【念写】だという。
なんでも僕の作った[携帯便座]を見て触発されたという。
「何かいいこと書いてあったの?」
顔に出ていたのだろう。それに気が付いた和花がそう言って隣に腰を下ろす。
「この娘使えるね」
そう言って経歴書を渡す。和花はそれを一読し「私のところに欲しいな」と密着してきて耳元でおねだりしてきた。
別におねだりしなくても和花に預けるつもりである。僕の下に着けるとしたら戦闘向きの魔術師になるだろうし、医療向きならキーン先生のところだ。
和花も採用には前向きなようなので戻ったら返事を…………いや、[遠話器]で共同体に連絡していつでも来てくれと返事を出すことにした。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
――――あれは?
赤の帝国の見に身側の国境にあたるルクド川のやや南に差し掛かったところであった。声を上げたのはアルマであり彼女が指し示すものを見ると――――。
床に映し出された映像には統率がとれていないみすぼらしい集団を赤で統一された装備の竜騎兵と金属の塊が追いかけていた。
無限軌道による走行をする金属の塊は恐らくカトゴリー的には短砲身の自走砲だろうか? いよいよ赤の帝国は見境がなくなってきたなぁ。
魔導機器組合は戦闘での極端な死亡数の増加や素人が安易に人を殺せる武器を抑える意図で火薬兵器などの発展を意図的に止めていたりしていたがこれじゃ意味がない。最近になってあれこれ検証依頼が来るようになった理由がこれだろうなぁ…………。
赤の帝国の事だから使い潰せる奴隷兵確保の為だろう。彼らにかかれば奴隷法すら無視である。 客人はこの件に関しては無関心だ。アルマは何とかできないかと目が訴えかけている。和花は珍しくアルマと同じようで何とかできないかと訴えかけている。
いまはウィンダリア王国の国旗を掲げているので迂闊な事は国際問題になるのだが…………。
バレなければいいのか。
「ハーン! 準備してくれ!」
ちょうどいい感じの検証依頼があったのだ。ハーンそれに気が付いたようで艦内格納庫へと走っていく。
とうとう今年も花粉症が発症した。なんか年々辛くなっている気がする。




