土曜日の夜 7
美織は、驚いて、大きな目をぱちぱちさせた。
「何?」
「どうして、あんな、人気のないとこに、一人でいたの?」
成哉が美織を見つめる。
口元は、笑っているようだったが、目は真剣だった。
「あの日は、仕事のことでむしゃくしゃしてて、一人で飲んだあと、頭を冷やすために、ウロウロしてただけだけど…。」
美織は、訝しんだ。
「それが?」
「あのあと、俺には、ぼんやりした記憶しかないけど、随分、歩いたよね。何で、そこまで歩き回る必要があったの?」
「それは、助けたものの、どうしていいかわからなくて、悩みながら、歩いたせいだわ。」
「随分、長かった。」
「キツい状態のあなたを歩き回らせたことは謝るわ。どうしていいのかわからなかったから…。」
「大通りじゃなくて、裏道ばかり、人通りのないとこばかり、歩いていたね。」
「動転していたのよ。暗いし、道もよくわからなかったし…。」
美織は、何故、成哉がこんな質問を、自分にするのかわからなかった。
恭平と爽の方をチラリと見るが、二人は、静観しているだけで、口を挟む気もなさそうだった。
恭平が怒っているような顔なのが、少し気になった。
「結局、深夜に家に連れて帰って、俺を殺そうとしたけど、エレベーターで住人に見つかって、それも、断念したってこと?」
「!!」
美織が、激しく反応して、立ち上がった。
「成哉くん、何言ってるの?」
唐突に切り込んだ成哉は、じっと、美織を見つめている。
美織が、何を言い出すのかと待っている。
「思い出したの?」
美織の目が大きく見開かれていた。
「そうだと言ったら?」
成哉は、ピクリともせず、美織の表情を見ている。
美織は、真っ青になって、後ずさりした。
椅子がパタンと倒れる。
けれども、美織には、それを見る余裕もない。
その様子を見て、成哉は、哀しそうに、目をふせた。
「美織さん…。俺を、殺すつもりだったんだね。」
美織は、首を振って、どんどん後ずさりしていく。
「俺の鞄が、殺人事件のあった部屋にあったらしいよ。浅野というサラリーマンだ。美織さんが俺を助けてくれた高架下から、目と鼻の距離のアパートだ。美織さんとの間に何があったのかは知らないけど、彼を殺したのは、美織さんだね。」
成哉も立ち上がる。
美織は首を振ったまま答えない。
「俺は、そこで、美織さんに、浅野と間違って、殺されかけた。けれども、まだ、死んでなかった俺は、部屋を飛び出し、記憶を失っていた為に、あんな高架下でうずくまっていた時、血の跡をつけてきた美織さんに、殺されるはずだった。」
「…。」
「俺にとっては、ラッキーなことだったけど、美織さんにとっては、チャンスが何度もつぶされ、マンションでも住人に目撃され、目撃者の俺を、どうやって、殺そうと、一週間、練っていたわけ?」
「違う…。」
違う、違う、違う、違う、違う、違う。
成哉くんは、何を言っているの?
既に、美織の頭は真っ白になっていた。
何も考えることができない。
今の自分にできることは、このとんでもなく嫌な場所から去ることだけ。
吐き気がする。
こんなとこに、一刻もいたくない。
美織は、身を翻すと、いつものゆっくりなペースからは考えられない速さで、喫茶店を出て行った。
ドアのベルがカランカランと激しい音をたてた。




