土曜日の夜 6
乙羽美織が喫茶店の中に入ってきた。
風呂上りとは思えないほど、綺麗に整えている。
乙羽美織は、小柄で、ミニスカートから見える脚は、形が良く、とても綺麗で、ハイヒールが、よく似合っていた。
けれども、上半身の肉は少し厚めで、小柄な為、上半身が、樽のように丸く見え、全体的なバランスが妙に悪かった。
美織は、ピンクのファンデーション、赤いルージュという、派手な色の化粧を好んでいた。
目は、大きいが若干垂れ気味で、そのせいか、まだ20代だというのに、目じりの皺が目立ち、年より老けて見える。そのため、その派手なメイクが、年甲斐のない品の無さを感じさせた。
美織は、成哉の姿を認めると、ホッとしたように駆け寄った。
「どうしたの?この人達…。一体…。」
成哉をいきなり連れ出した恭平を責める様子を見せた美織は、その隣に座っている大学生然とした男に気が付いた。
「あなたは?」
「こんばんは。」
爽は、軽く会釈をした。
どんな相手に対しても礼儀正しいのは、爽の育ちの良さを感じさせる。
一方の恭平は、厳しい表情で、その相手を見ていた。
「あなた、うちのマンションの…。」
「はい、一緒のマンションでしたね。」
「どうして、あなたが?」
「さっき、道端で恭平さんと成哉さんが話していた時、僕は、恭平さんの車の中にいたんです。」
そう言えば、車の助手席に誰かがいたことを、美織は思い出した。
「マンションでは、僕と会うことはほとんどなかったのですが、僕の兄貴とは、時々会っていたようですね。」
「兄貴?」
そう言えば、面影に心当たりがある。
あの茶髪のイケメンか?
雰囲気は全然違うが、どこか似ている。
「兄貴から、3階に住んでいる女性と、若い男が一緒にいるらしいという話を、聞いていました。」
「ああ、それで、居場所がわかったのね。」
「はい。」
「それで、何故、成哉くんを呼び出したの?」
美織は、少し詰問調になっている。
「女性の部屋に、男が何人も押しかけるわけにはいかないので、配慮したつもりだったんですが。」
爽の言葉は、もっともだった。
美織にしてみれば、いきなり現れた、見も知らない男が成哉をかっさらっていったというイメージだったが、爽から説明されてみれば、どこにもおかしなことのない、普通の行動だとも考えられる。
それなのに、何だろう。
この胸騒ぎは。
成哉の様子はおかしかった。
恭平と路上で会って、いくつかの成哉の情報を伝えられた時でも、成哉の態度は、変わらなかった。
別段、自分の記憶喪失に、何の不安も感じていないようで、恭平の言葉も、恭平から与えられた過去の記憶も、彼は、実に自然に受け止め、大きく揺さぶられることもなかったのに、今の成哉は、どこか、いつもの成哉とは違っていた。
一体、何を吹き込まれたんだろう。
「どうぞ。お座りください。」
爽の隣に座っている恭平が、固い表情のまま、美織に、成哉の隣に座るよう促した。
断る理由もなく、美織は、成哉の隣に腰をかけた。
「美織さん。」
様子のおかしかった成哉が、唐突に口を開いた。
「美織さん、俺を見付けたのは偶然?」




