土曜日の夜 3
「何から、話したらいいのか…。」
恭平が、なおも、躊躇していると、隣に座っていた爽が、口を開いた。
「僕から、話しましょうか?」
「?」
成哉が、怪訝げに爽を見る。
「あんたは、俺が厄介になっているマンションの住人なんだろ?」
確認する成哉に、爽は、うなづいた。
その住人が、何を話すと言うのか?
「頼む。爽くん。」
恭平も、爽に匙を投げた。
「?」
よくは、わからないが、面白くないどころか、ややこしい話になりそうだ。
爽は、その物静かな口調で話しはじめた。
「僕が、エレベーターで、乙羽さんに会ったのは、水曜日のことです。」
「水曜日?」
「そうです。その時は、違和感しか感じなかったんですが…。」
「違和感?」
恭平が、成哉を遮った。
「色々質問は、出てくるだろうが、とにかく最後まで、話をきいてくれ。」
成哉は、不審な顔をしたまま、それでも、恭平に従った。
「その次に会ったのが、今日です。」
偶然、恭平の車に乗り合わせていたのだ。
「僕は、あの時、あなたの傍で、あなたに向かって叫んでいるものをみました。」
「は?」
成哉が、呆気に取られて、爽を見て、恭平を見る。
あの場には、成哉と美織と恭平の3人しかいなかったはずだ。
しかし、恭平の表情は硬いままだ。
冗談を言っているわけではないらしい。
「誰のことを言ってるんだ?」
とりあえず、聞いてみると、
「男の人です。多分、殺人事件で殺された被害者です。」
とんでもない答えが帰ってきた。
「はあ?」
成哉のその声には、怒気が混じっている。
「お前の、言いたいことはわかる。けれども、最後まで話を聞いてくれ。頼む。」
隣の恭平が、成哉をなだめる。
その表情は、真剣だった。
「何、あんた、幽霊でもみえるの?」
成哉の咎めるようなキツイ言い方にも、動じるどころか、爽は、
「はい。」
と、あっさり肯定する。
成哉は、ムッとしたものの、恭平の必死な表情を見て、信じてもらうしかないと言った意味を理解したのだろう。
「被害者が、幽霊になって、俺を責めてるとでも言いたいのか?」
と、低い声で、爽を睨む。
「いえ、彼は、あなたを責めていたわけじゃありません。必死で訴えていました。」
答える爽は、あくまで冷静だった。
「?」
「逃げろと。」
「え?」
「その意味を、僕は、あまり理解できませんでした。恭平さんにも伝えましたが、意味がわからなかったので、その時は、対処ができませんでした。」
「…。」
「いろんなことがつながったのは、そのあとの恭平さんの電話からです。警察が、成哉さんを探していると聞いてからです。」
「?」
「そして、今、成哉さんを目の前にして、成哉さんの疑問に対して、もう少し色んなことを、伝えることができる気がします。」
恭平が、チラリと爽を見た。
「人の疑問に答える形で、彼の能力は発動することがある。見えてくるものは、相手の疑問の深さに関係するんだ。」
恭平が、理系らしく分析した言葉を伝えるが、それが、成哉の耳に届いたか、心に届いたかどうかはわからないかった。
「彼は、チャネラーなんだ。情報源は、本人もはっきりとはしないらしいが…。」
「また、胡散臭い事、言いだしたな。」
成哉が唇を歪める。
爽は、軽くため息をついた。
「ここからは、僕が見えた通りのことを話します。それをどうとらえるかは、貴方次第です。」
成哉は、恭平を見た。
この霊能力者が、どんなものを観て、どんなことを感じたのかを聞いたとしても、それを裏付ける記憶が、成哉にはない。
だから、信じろか…。
信じるか、信じないか、そういうことかと成哉は改めて納得した。




