土曜日の夜 1
電話、した方がいいよな。
恭平からもらった電話番号を見ながら、成哉は考えていた。
思い出すことに、何故か抵抗感がある。
この抵抗感に、引っかかっていた。
何か、のどの奥に魚の骨がひっかかっているような、そんなもどかしい棘のようなものを感じる。
思い出したら、何かまずいことがあるんじゃないか?
漠然と、そう思う。
思い出した先のイメージが、何故かグレーだったからだ。
思い出す内容を、あるいは、思い出さなければならない内容に、色をつけるなら、それがグレーなのだ。
感覚的に、感じるだけで、人に説明はできない。
でも、グレーで、明るい未来ってことはないよな。
不安はないが、まずいことを受け止める覚悟は必要なのかもしれないと考える。
美織が、風呂をすすめ、成哉は、あっさり思考をストップさせて、素直にシャワーを浴びた。
数日、風呂に入らなくても、パンツを替えなくても、平気な自分に気が付いているが、ここは美織の家だ。
美織の言うことには、素直に従うつもりだ。
風呂から出て、部屋のテーブルを何気なく見ると、さっき、こたつの上に置きっぱなしにしていた電話番号のメモが無くなっているのに気が付いた。
一応、回りも見てみるが、美織が、そそくさと風呂に入る様子を見て、彼女が、何かしたことに気が付いた。
何で?
その時、ドアのインターフォンが鳴った。
エントランスからではない、直接、ドアの前で鳴らしている音だ。
「?」
ドアを開けて、驚いた。
昼間、出会った、元ルームメイトだという恭平が、目の前に立っていたからだ。
「何でここが?」
確か、今いる場所についての言及はなかったはずだ。
恭平の隣には、成哉が見たことがない若い男が立っていた。
目を丸くする成哉に、恭平は、早口で告げる。
「ここの主は?」
「あ、今、お風呂だけど…。」
「丁度良かった。お前に話がある。裏の喫茶店で話そう。すぐに出てこれないか?」
「今から?」
「今から。」
恭平の目が何かを訴えていた。
その真剣さに、押されるように、成哉は
「わかった。」
と、答えて、すぐさま、Gパンだけ着替えて、パーカーをはおり、風呂場に繋がるボタンを押す。
『何?』
すぐに、バスルームからの、エコーのかかった美織の声が聞こえてくる。
『昼間に会った元ルームメイトが、話があるって、尋ねてきたんで、ちょっと、裏の喫茶店に行ってくる。』
『え?どういうこと?』
『俺にも、よくわかんないけど、とりあえず行ってくるよ。』
『待って。私も行くわ。』
『風邪ひくよ。ちゃんと、髪とか乾かさないと。』
『じゃあ、あとから、一緒に行きましょう。』
成哉は、美織の申し出に、少し考えたが、何も、のっていない、こたつテーブルの上をチラリと見て、
『先に行ってる。美織さんは、髪、乾かして、あとから来てよ。』
と、伝えて、ボタンを押した。
プツンと音がして、通信が途絶える。
玄関を出る前に、再び、風呂場と台所がつながった音がしたが、成哉は、構わず、外に出た。




