開戦
その日、オレたちミッドガルドの全軍は『ケーバル』の南に位置する大きな河の北側に集結していた。対岸には相当数のシディア軍が陣を構えている。おそらくオレたちの兵力の三倍はあろうかという数だ。
「ユリアナ… 、勝算はあるのか? 」
「さすがに… 、思っていたほど簡単には行きそうにありませんね。
まさか、これほどの戦力だったとは… 。
ですが、私たちが全力で『ハイドラッド』までの道を開いてみせます。 」
そう言ったユリアナの顔は、固い決意に満ちた表情であった。
「頼んだぞ… 」
オレはそう一言だけ彼女に言った。他の仲間たちも互いに多くは語ろうとせず、全軍に緊張が張りつめていた。しばらく間を置くと、オレは意を決し、戦闘開始の合図として左手を天に向けた。この手が振り下ろせば戦闘が始まる。そして、まさにその手を振り下ろそうとした瞬間に奴は上空に現れた。
「愚かな事を… 。」
声の方を向くと、見覚えのある白いマントの男の姿があった。
「七聖者!!! 」
オレたちは全員戦闘態勢に入り一触即発の状態になる。
「これが本当に最後の警告です。
まだ間に合います。
今引き返すのであれば、その愚行、許してあげても構わないですよ。 」
オレたち全員が戦闘態勢に入っている中、たった一人で乗り込んできた男は冷静にそう言った。
「悪いが、お断りだ。」
オレは睨み付けるように答えた。
「神に背くとは愚かな… 」
「神だと?
何様のつもりだ? 」
「我々は『神の代行者』
そして、この河は『ゴッドバリア』と呼ばれているのですよ。
この河を超えれば、あなた方は聖域を犯すことになります。
そうなれば容赦はしませんよ。」
「あいにく、引き返すという選択肢はオレにはない。
それに、だいぶ前に全世界に対して宣戦布告しているしな。」
オレはそう言うと、左手を振り下ろした。
「それは残念です。」
七聖者はそう言うと両手から火を放ってきた。アルファの防御結界で食い止める。オレと七聖者が衝突している脇では、巨大な板がゴーレムたちによって河の対岸に向けて倒された。その板を橋の代わりとしてオレたちの軍は一斉に対岸に攻め込んで行く。
「風ちゃん!
みんなも早く前線へ!
この七聖者は優奈が相手します! 」
「優奈一人でなんて無茶だ! 」
「きっと大丈夫だよ。
戻ったら風ちゃんに思いっきり甘えるんだから。」
「……… 、
わかった、絶対に死ぬなよ! 」
オレを安心させようとして、いつもの様に根拠のない「大丈夫」という言葉と冗談を言った彼女だったが、その稀に見る真剣な表情にオレはそう言う事しかできなかった。
~優奈Side~
「私を相手にたった一人で立ち向かってくるとは… 。
お嬢さん、私は『神の代行者』ですよ。 」
「私だって神に仕える巫女です。
あなたの信じている神なんて認めません! 」
「どうやら話にならないようですね。
それではどちらが正しい神に仕える者なのか?
私の力で示してみせましょう。」
「ええ、望むところです! 」
優奈と七聖者の戦闘が始まった。
橋を渡り、対岸についたオレたちだったが、前線の兵は苦戦しているようで、なかなか前に進めないでいた。
さすがに兵力に差があり過ぎるか… 。仕方ない… 。オレは最前線の先頭に立った。
「エクスプロージョン! 」
巨大な爆発と共に相手の兵力をかなり削ぐことができた。オレたちの軍は一気に奥地へなだれ込んで行く。
「何をしているのですか! フーガ様!! 」
「お主のマギアウラも無限ではないのじゃぞ!! 」
エカチェリーナとヨーコは敵を倒しながらオレにそう言ってきたが、相当怒っているようだ。
「いや、このままだと奥に進めないかと思って… 」
「ハイドラッドまでの道を作るのは私たちの役目です!
フーガ様たちは力を温存しておいて下さい! 」
前方で指揮を執っているユリアナが必死にそう叫んでいた。
「そうそう!
私たち、みんなみたいに強くないからねぇ~ 。
って言っても普通の人間よりは全然強いんだけど!
カノン、そろそろ本気出すよ! 」
「うん、わかった! 」
カレン・カノンの姉妹は背中からコウモリの様な羽を生やした。ミウと契約した際に得た魔族の力だ。彼女たちが本気で戦闘モードに入った証拠である。彼女らは宙を舞いながらシディア軍を次々と倒していく。
「我らもフーガ様の為、絶対にハイドラッドまでの道を作ってみせるのだ!
シディアに怯えて暮らす生活を終わらせるためにも! 」
シャーロットの言葉に鼓舞された女性騎士団は、士気が上がったようでシディア軍を押していく。
「ここは私たちに任せて早く行って! 」
最前線までオレたちがたどり着くとカレンがそう言う。その横でカノンも頷いた。
「絶対にまた三人で遊ぶのだ!
約束するのだ! 」
ミウは双子の姉妹に向かって叫んだ。彼女らは戦闘中だったが、ミウに向かって笑顔で応えた。
オレたちはシディア軍の最終防衛ラインを突破した。街道を突き進んでいくと大きな城塞都市が見えてきた。その街の姿には見覚えがある。オレがよく知っている街と瓜二つだ… 。
「まさか本当に、ここまでたどり着くとは思ってもみませんでしたよ。
『第一の使い』だけで十分だと思っていましたが… 。」
城門の前にいたのは三人の七聖者であろう。金の十字架の刺繍がある白いマントを身につけている。そのうちの一人が話しかけきた。
「ずいぶんと舐められたもんだな… 」
オレは強がって言ってみた。だが、三人相手にどう戦う… 。こっちの戦力はヨーコと十二人の式神、エカチェリーナと闇の四天王、リサ、ミウか… 。こいつらを倒したとしてもまだ残り三人も七聖者はいる。オレがどのように戦力を分散させようかを考えていると突然聞き覚えのある声がした。
「陛下、お待ちしておりました。」
「エリス!! 」
突然現れたエリスの姿に驚いたのだが、それはオレたちだけではなかったようだ。
「エリス! なぜ貴様がここにいる! 」
七聖者の一人はかなり慌てた様子で彼女に問う。
「なぜ??
それは愚問なのでは? 」
エリスは冷たい表情を全く変えずに七聖者に問い直す。
なんとか『ハイドラッド』にたどり着いたが、エリスの突然の登場に、オレたちだけではなく七聖者たちも動揺していた。




