家族と仲間
シディア連邦の主要都市『ケーバル』を制圧して一年程が過ぎた。ケーバルより北にあったシディアの主要都市は全てオレたちミッドガルドの支配下に置かれている。今は各都市において内政を進めているところだ。
「あれから一年… 、シディアに全く動きがないのが不気味だな…
どう思う、リサ? 」
オレはリサに意見を求めた。
「私にも全く理解ができません。
ただ、あの時、七聖者が言っていた事は本当だったいう事ですね。 」
「……… 、
軍備も整いつつあるし、首都『ハイドラッド』へ侵攻するべきか? 」
「その判断は風牙様にお任せ致します… 」
シディアの首都ハイドラッドには七聖者がいて、その強さは一年前に目の当たりにしている。正直勝てるかどうかわからない状態だ。この一年程、何か対策はないか? と情報収集したものの、有力な情報は手に入れる事ができなかった。
元々シディアの支配下に置かれていた街の人々は今でも七聖者に怯え、何も話そうとしない。一種のマインドコントロールのようなものであるとオレたちは結論付けた。この影響でジルオーダを含め、元々シディアの支配下に置かれていた都市の内政が思ったように進んでいないのが現状である。
七聖者について何かを知ってそうな海斗にも聞いてみたが、詳しい事は知らないようだ。それに、オレの中にいるゼロとアルファでさえも、七聖者に関しては何もわからないという状況だ。
今後どうすべきか? 悩んでいたオレはケーバルの南にある大きな河を城壁の上から眺めていた。この大きな河の先にはシディアの首都ハイドラッドがあるのだ。
「風ちゃん、悩みごと? 」
そう声を掛けてきたのは優奈であった。いつも見ているだけで心が和むような雰囲気には何度も救われている気がする。
「ああ。
ハイドラッドを攻めるべきかどうか? 迷っているところだ。 」
「そっか。
でも、風ちゃんだったら大丈夫だよ、きっと!
それに、風ちゃんが七聖者を倒さないと、
大勢の人たちが、これから先もずっと七聖者に怯えて暮らす事になるんだよ。」
オレが悩んでいると、オレを励まそうとしてか? 相変わらず根拠がない事を思いつきで言ってくる優奈だが、意外といつも的を射ている。確かにミッドガルドを本当に平和な国にする為には七聖者は倒しておかないといけない存在である。この優奈の一言で、オレはハイドラッドを攻める覚悟を決めた。
それから一週間後、ユリアナを除く主要メンバーをケーバルに集めた。ユリアナだけは普通の人間だから戦闘には不向きである。それに彼女にはミッドガルドを守ってもらわなければならない。
「みんなも感づいているだろうけど、これからハイドラッドを攻めようと考えている。
今回の相手はシディア七聖者だ。
相手が何者なのか? 勝てるかどうか? も正直わからない。
だから無理にとは言わない。
付いて来てくれる人だけでいいからオレに協力をして欲しい… 」
オレがそう言うと会議室は静けさに包まれた。誰も何も喋らない… 。さすがに酷な頼みだったか… とオレは一人で戦う覚悟を決めようとしていた。
「真剣な顔をして、何を言い出すかと思えば… フフフ… 」
皆の沈黙を破りヨーコが笑った。それを引き金にして全員が笑い出した。オレは何がおかしいのか? さっぱり理解できなかった。
「妾はお主の妻じゃぞ。
お主一人だけに辛い思いをさせるわけなかろう。 」 ヨーコが笑いながら言う。
「私もフーガ様の妻ですよ。
夫を支えるのが妻の役目です。 」 エカチェリーナが笑顔で言う。
「ミウは風牙くんの娘なのだ!
だから協力するに決まっているのだ! 」 ミウがいつもの明るい調子で言う。
「あの… 、私も風牙様の妻です。
戦闘力では皆さんに劣るかもしれませんが
協力するに決まってるじゃないですか。 」 リサが微笑みながら言う。
「そうだよ、風ちゃん!
優奈だって風ちゃんのお嫁さんなんだからね! 」 優奈が屈託のない笑顔で言う。
「私はあなたに忠誠を誓った身です。
私の命、あなたに捧げると決めています。
それに…
ファーストキスも捧げましたし… 」 シャーロットが顔を赤くして言う。
一瞬だが、四人の嫁たちから冷たい視線を感じ、悪寒が走った… 。
「もっちろーん!
私も協力するよ~! 」
カレンがいつもの感じで元気いっぱいに言う。
気持ちはとても嬉しいのだが、少しアホっぽいのが残念だ… 。
「… 、
私も協力させて頂きます… 。
足を引っ張ってしまうかもしれませんが… 。
でも、精一杯頑張ります!
だって風牙様は…
私たち姉妹にとって父親のような存在ですから! 」
普段は大人し過ぎるカノンが彼女なりに精一杯頑張りながら大きな声を出して言う。
「我ら闇の四天王、エカチェリーナ様のご意思のままに。
微力ながら協力させて頂きます。 」
彼らはオレにではなく、エカチェリーナに対して言う。
相変わらず彼らには慣れないが、名前の割に、思ってた程悪い奴らではなさそうだ。
「ボクたち十二人はヨーコ様の運命と共にあります。
風牙様にお力添えをするのは当然の役目です。 」
彼女は笑顔でオレとヨーコに言う。
ちなみに、この発言をしたのは「ボクっ娘」だ。彼女ら十二人は昔からヨーコに仕えている式神らしい。ダンホーン侵攻の際に連れてきたようだ。
オレはこれから命を落とすかもしれない戦いにみんなが躊躇わず協力してくれるのが嬉しかった。この戦いは絶対に勝たなければならないと心の中で改めて誓ったその時、会議室のドアが大きな音と共に乱暴に開かれた。
「ちょっと!
どういう事ですか!!! 」
怒りながらドアを開けてきたのはユリアナであった。
「ユリアナ、どうした?
何でここにいる? 」
「なんで? じゃありません!!
私だけ呼んでくれないなんて酷いじゃないですか!! 」
オレは冷静に尋ねたが、ユリアナは興奮しているようだ。
「いや… 、だって… 」
「だって… じゃありません!!
七聖者と戦うのでしょ!!
確かに私は普通の人間かもしれませんけど、少しくらい協力させて下さい!! 」
「でも、相手は七聖者なんだぞ。 」
「わかっています!
でも、軍を率いれば、私たちでもハイドラッドまでの道は作る事ができるかもしれません!
相手は七聖者の七人だけではないんですよ!!
シディアの軍隊の相手は私たちがします!! 」
ユリアナは涙目でオレにそう訴える。ユリアナを呼ばなかったのは、彼女の身を案じての事だったのだが、どうやら正しい判断ではなかったようだ。彼女のその強い意志を感じ、オレは折れた。
「わかった… 。
ユリアナにも協力してもらう。
ありがとう。 」
「ユリアナ、絶対に死んではいけませんよ。 」
リサがユリアナに穏やかに語り掛ける。
「もちろんです。
私はルーシアン帝国の参謀総長ですよ。 」
全員が揃い、それぞれの意志を確認する事ができた。オレたちはこれからシディア七聖者と戦う事が決まったのだ。
その日の夜、みんなで戦いの前の宴を行うことにした。兵は兵で宴を行わせた。戦いの前に士気を上げる為だ。彼らの宴の経費は全て国が負担した。税金の無駄遣いはしない方針なのだが、今回の戦争は今までとは異質だから特例だ。その日の夜、ケーバルは街全体が賑やかだった。
酒も入り、少し酔ったオレは風に当たるため、城壁の上にいた。特に何かを考えている訳ではなく、ハイドラッドとの境界線とも言える大きな河を眺めていた。
「こんな所にいらっしゃったのですか… 」
後ろから声を掛けてきたのはエカチェリーナだった。
「ああ… 。
二日酔いだと困るから、明日はゆっくり休んで、戦闘開始は明後日だな… 」
「フーガ様… 」
彼女はそう言うと口づけをしてきた。
「相変わらずオレの嫁たちは突然キスをしてくるな… 」
オレは冗談っぽく言ってみた。
「あの日の夜もこんな感じでした… 」
「あの日の夜??? 」
「ええ。
フーガ様と四百年近く別れる事になった最後の夜です…
その日、フーガ様は私のワガママを聞いてくれて、ミウを授かったのです… 」
「悪いけど覚えてないんだ… 」
「わかっています… 。
ただ……… 」
「ただ? 」
「またあの日と同じように、フーガ様が遠くへ行ってしまう様な気がして… 」
エカチェリーナはそう言うとオレに抱きついてきた。
「……… 、
今度はそうならないように頑張ってみるさ… 」
その日の夜は雲一つ無い晴天だった。たくさんの星の下で、しばらくオレたちは抱き合っていた。




