謎の強者
ジルオーダ南方の都市『ケーバル』が壊滅しているとの報告をヨーコとエカチェリーナから受け、オレは我が軍の頭脳であるリサと、今後どうすべきか相談をしていた。
「ケーバルが壊滅しているのであれば、
早めにミッドガルドの領地にしてしまうのが得策であると思います。 」
「理由もわからずに壊滅している都市だぞ。
シディアの罠かもしれないし、少し様子を見た方が良いんじゃないのか? 」
「風牙様の仰る事はわかります。
確かにその可能性も高いので… 」
「ならなぜ? 」
「ジルオーダ、ダンホーン、バルアドの三都市をほぼ同時期に制圧してしまいました。
つまり、この三都市はまだ統制が執れていなく脆い状態です。
それに加え、我が軍の兵力はジルオーダ攻略の際に大半を失っております。
制圧して間もない三都市の統制を同時に執りながら、
かつ、兵力を分散して街を守るといのは危険かと… 。
ですので、この三都市と繋がっているケーバルを抑え、
最前線都市とすれば、三都市の内政に力を注ぐ事ができます。 」
「なるほど… 。
ケーバルを制圧してしまえば、シディアと隣接する都市はケーバルだけになるという事か… 。 」
「はい。
逆に言えば、シディアにケーバルを奪還されると、我が軍は不利な状態に陥ってしまいます。 」
リサの意見を受け、アスティナとジルオーダはユリアナに任せ、全軍を率いてケーバルへ侵攻を開始した。街は壊滅していて、城塞都市の機能は完全に失われた状態である。街の中心部まで進むと何者かがこちらへ歩み寄ってきた。
「何者だ? 」
「お久しぶりでございます、陛下。
お待ちしておりました。 」
「おまえはエリス!!! 」
彼女の顔を知らないシャーロット以外は戦闘態勢に入った。
「私は陛下と争う気はございません。
むしろ、陛下の為にこの街を献上するつもりです。 」
「どういう事だ? 」
「前にも言いましたが、私は陛下にこの世界を支配して頂く事を望んでおりますので。 」
「じゃあ、この街はおまえが壊滅させたって事か? 」
「ここまで街を破壊するつもりは無かったのですが、
七聖者の一人が邪魔をしてきたので、このような状態になってしまいました。 」
「七聖者だと!! 」
「はい。
陛下へ七聖者の首でも差し上げようと考えていたのですが、
残念ながら逃げられてしまいました。 」
「……… 」
「どうかされましたか、陛下? 」
「おまえは七聖者より強いのか? 」
「同時に七人の相手をするなら苦戦するかもしれませんね。 」
って! どんだけ強いんだよ! おまえは!!! 七人同時に相手して互角って事かよ!! まぁ、そんな風に思っている事はエリスに悟られないよう冷静に振る舞ってみることにした。
「それはそうと…
おまえはジオランス十勇者のジークムントって奴の仲間だよな?
そいつらは今、どこで何をしている? 」
「彼らなら七聖者に殺されました。 」
仲間が殺されているというのにエリスは淡々と話をしている。
「ジークムントって、おまえの仲間じゃなかったのか?
なぜ、そんなに冷静でいられる? 」
「弱い者は死ぬ。
ただ、それだけの事です。 」
「……… 、
じゃあ、なぜ彼らの仲間になったんだ? 」
「仲間??
ああ…… 、
それは私にとって都合が良かったから、そういう体にしていただけです。 」
「都合が良かった? 」
「はい。
アレスに目を付けられると厄介でしたので。
隠れ蓑と言ったところでしょうか。 」
アレス? 海斗の事か!
「おまえはアレスとどういう関係だ? 」
「……… 、
お喋りが過ぎたようですね。
では、私はこれで失礼します。 」
そう言うとエリスは目の前から消えてしまった。
「おい、待て! 」
オレは彼女を止めようと叫んだが、答えは返って来なかった。
「奴は一体、何者なのだ!! 」
エカチェリーナは、苛立ちながらそう言った。みんな思っている事は同じなのであろう。
「あの小娘… 、もしかすると… 」
ただ、ヨーコだけは思い当たる節があるようであった。小さく呟いた独り言をオレは聞き逃さなかったのだが、先日の一件があるのでオレは敢えて聞かないことにした。
「で、どうする?? 」
オレはボロボロになった街を見渡しながらリサに尋ねた。
「そうですね。
エリスも何処かへ行ったようですし、この街を制圧します。 」
そう言ってリサは各部隊に指示を出し始めた。
各部隊が街の復旧作業をしている間、オレたちは拠点として、まだ使えそうな建物を探しながら歩いていた。
「マスター… 、何か来ます… 」
(アルファ、『何か』ってなんだ? )
「はっきりとはわかりませんが… 、
おそらく七聖者だと思います… 」
(何だとーー!!! )
オレとアルファが会話していると声が聞こえてきた。
「なるほど、エリスの目的はそういう事ですか… 」
その声の主は空中に浮いていた。全身が白いマントに覆われていて顔は見えない。そのマントには金色の大きい十字架が刺繍されていた。
「おまえは誰なのだ?! 」
ミウが謎の人物に問う。
「これはこれは、カワイイお嬢ちゃん。
初めまして。
私はシディア七聖者の一人。
名前は捨てたのですが『第一の使い』とでも名乗っておきしょうか。 」
オレたちは全員戦闘態勢に入った。
「これだから人間は… 。
今日はあなた方に挨拶に来ただけです。
戦うつもりはありません。 」
「何を言っているのだ、貴様は!
自分の領土が奪われているのだぞ!
そんな言葉は信用できん! 」
そう言うとシャーロットは剣を構えた。それに釣られてか? ミウとリサも魔法詠唱を始めた。
「ほう… 。
お嬢ちゃんは、第八階位魔法。
ブロンドのお姉さんは、第七階位魔法ですか… 。
なかなかやりますね。 」
どうやら七聖者はミウとリサが何の魔法を詠唱しているのかわかっているようだ。
「私たちが何の魔法を詠唱しているのかを理解しているあれば
早く逃げた方がよろしいのでは? 」
リサが珍しく強気な発言で挑発している。いや… 、ミネルヴァか??
「笑止… 」
七聖者がその言葉を呟くとすぐに彼女たちの魔法は発動された。何の魔法なのか? はゼロとアルファが頭の中で教えてくれた。ミウの発動した魔法は、相手の防御結界を破る魔法、リサの発動した魔法は身体能力を倍増させる補助魔法だ。リサはシャーロットに魔法をかけていた。その魔法がかかった瞬間、シャーロットは凄い跳躍力で七聖者に向かって斬撃を浴びせたのだが… 。
「今、戦う気はないと言っているではありませんか… 」
七聖者は片手でシャーロットの斬撃を受け流した。手のひらが盾になっているような感じだ。まるで相手になっていない… 。
「そんな事って… 。
ミウちゃんの防御結界を破る魔法は効いているはずなのに… 」
「少しは冷静になって頂けましたか? 」
七聖者は何事も無かったかのように彼女たちに言い放った。何か対策を練らなければこちらの被害も大きくなると考えたオレは、七聖者に対し戦う意思はない事を伝え会話をする方向に持っていった。
「で、戦う気がないのであれば、オレたちに何の用だ? 」
「先程も言ったように挨拶に来ただけですよ。
それと、あなたに警告をしに来ました。 」
「警告?? 」
「ええ。
シディアの首都『ハイドラッド』には手を出さない事です。
首都以外のシディア領に関しては、あなたに差し上げましょう。
と、言っても人間たちは抵抗するでしょうけどね。 」
「どういう事だ?
おまえの言っている事が全く理解できないんだが。 」
「そうですね。
分かりやすく言えば… 、
あなた方が『ハイドラッド』以外に侵攻しても我々七聖者は手を出さないという事です。 」
「じゃあ、オレたちがハイドラッドに侵攻した場合は? 」
「あなた方の命が無くなるかもしれませんね。
とにかく、警告はしましたので。
それでは、失礼します… 、一条風牙。 」
そう言うと七聖者は凄いスピードで南の空へ消えて行った。この世界でオレのフルネームを知っているなんて… 。七聖者とは、本当に何者なんだ?? オレは凄く嫌な予感がした。




