告白
――― …この世界でも、本当の幸せを見つける事ができるのだろうか… ―――
オレたちはジオランスのトップがどんな人物なのか? を一目見る為、野次馬の中に紛れ込んでいた。野次馬達の視線を追うと、道の遠くの方からこちらの方に向かって歩いてくる二人組の姿が見えた。一人は仮面をつけた男。そして、もう一人は、さっきオレたちに声をかけてきたメイド美女であった。てか! 仮面つけてるのかよ! と思っている間に、男はオレたちの前を通過し、そのまま道の先へと歩いて行った。結局、どんな人物か全くわからなかったなぁ… などと考えていると、仮面の男と一緒にいたメイドがオレたちの前にやって来た。
「先程はどうも… 。
まさか、あなたがミッドガルドの皇帝『フーガ』だったとは… 。
アレス様が、あなたとお話しがしたいそうなので、わざわざ出向いて来ました。」
「いきなりだな… 。
それにしても、なぜオレがミッドガルドの皇帝だとわかった? 」
「アレス様がそう仰っていただけです。
なぜかはわかりません。」
「そっか…
でも、せっかく来てもらって悪いんだけど… 、
オレたちは海斗ってやつと待ち合わせをしてるところだ… 」
「我がジオランスの元首の誘いを断るとでも… 」
メイド美女は凄まじい殺気を放ちながらオレたちにそう言った。
「『断る』という選択肢は無さそうだな…
で、話というのは? 」
「この先に話をする場所を設けておりますので、そちらまで来て頂けますでしょうか? 」
メイド美女がそう言ったので、オレたちは彼女の後を付いて行くことにした。程なく歩くと、一見普通の家のような建物に入り、その一室に通された。そこには一人の男がいた。
「!!! 」
「げっ!!!
優奈っ!!! 」
オレと優奈は、そこにいた男が海斗であったことに対して驚き、海斗は優奈がいることに驚いているようだ。
「『げっ!!!』ってどういう事かなぁ~?
久々に会った超カワイイ幼馴染に対して失礼だと思うんだけど??
それとも海斗くんは、優奈に喧嘩売ってるのかなぁ?? 」
優奈はいつもの笑顔で、ほんわかした優しい口調でそう言った… 。
「いえ、そんな事はありません!
ごめんなさい! 優奈さん! 」
一方で、オレたちミッドガルドの部隊の大半を一撃で壊滅させたとはとても思えない男の姿がそこにはあった。
そう言えば、昔から周囲まで和むような雰囲気を出している優奈だが、小さい頃から海斗に対してだけは毒を吐くし、よく殴ってたな… 。三つ子の魂、百までってやつか… 。物心つく頃には、海斗は優奈に頭が上がらなくなっていた。
優奈と海斗のやり取りを見ていたユリアナとメイド美女は、何が何だかさっぱりわからないといった表情で困惑しているようであった。
「クウ、とりあえず助かった。
ありがとう。
下がっていていいぞ。 」
「かしこまりました。
何かあればすぐに参上致しますので、お呼び下さい。
それでは、失礼致します。」
そう言ってメイド美女は部屋の外に出て行った。どうやら『クウ』というのが、彼女の名前らしい。
「あ、そうそう!
こいつが『海斗』だ。」
オレはユリアナに海斗を紹介した。そしてお互いの軽い自己紹介が終わった後、ふとオレは思った。
「てか!!
何でおまえが、ジオランスの国家元首で、しかも仮面なんて付けて歩いてんだよ!! 」
「別に好きでジオランスのトップやってる訳じゃなくて、
何か色々あって、気付いたらそうなってたんだよなぁ… 。
てか!
仮面付けてたのは、おまえが何の連絡も無しにいきなり来るからだろ!
こっちだって段取りってもんがあるんだよ! 」
「風ちゃんは悪くないもん! 」
「ですよね~ 」
優奈の一言に即答する海斗を見ていて、なんだか切なくなってきた。
「それはそうと、何で『アレス』って名乗ってるんだ? 」
「まぁ、なんとなくだ。」
「なんとなくかよ! 」
「それよりも、ユリアナちゃんを連れて来てくれてありがとう!
なぜ優奈がいるのかはわからないけど… 」
「いきなりユリアナと海斗の二人でデートってのもなぁ… 。
ユリアナは海斗の事知らないし…
それにお前がいきなり女の子とデートしたい って言い出した事にも不安を感じてな… 」
「そこで優奈が『ダブルデート』を思いついたの!
それだったら、ユリアナさんの不安も減るからね。
しかも、海斗は女の子の扱い超下手だしね。 」
どこか何か納得していない様な感じの海斗だったが、時間も勿体無いので早速デートをすることになった。海斗は普段、仮面を付けて行動しているようで素顔だと街を歩いていても誰にもバレないとの事だった。
とりあえずオレたちは街に出て、服や小物の買い物、カフェでケーキを食べるなど無難なデートプランを実行してみた。オレと優奈はいつも通り楽しむ事ができたのだが、てか、優奈は大はしゃぎだったのだが… 、海斗とユリアナはたまに、ぽつりぽつりと話をしているだけで、傍から見ていて、とても楽しそうな雰囲気ではなかった。
そもそも、オレと優奈の知っている海斗は超が付くほどの面食いだ。海斗の理想である絶世の美女など、そこら辺にいるわけもなく、いつしか彼は現実世界から離れて二次元の女の子しか愛せない男になっていたはずなのだ。当然、現実の女の子と話をするなどオレたちには考えられなかった。
しかし、そんな海斗が、メイド美女のエルフを従えていたので、これはもしかしたら! などと少し期待してしまった。更に言えば、ユリアナはかなり美人の部類に入るからだ。だが、どうやらそういう問題ではなさそうだ。
しばらくデートを続けていると、海斗が街から少し離れたところに湖があるから、そこでバーベキューがしたいと言い出した。ま、海斗の気が済む様にしてやろう… 、もうユリアナとの結果は見えているのだし… 、お互いに結果もわかっているだろう… 。オレと優奈はそう思いつつバーベキューに付き合うことにした。
食材とかどうするんだ?? と思っていたが現地調達だった。湖に至るまでの森にはミッドガルドでは見た事がない魔物が多数いたのだが、海斗は大きな槍を取り出しそれらを簡単に倒していった。
「見た目は悪いけど、こいつの肉は旨いんだぜ! 」
海斗は無邪気な笑顔でオレたちにそう言って、楽しそうに魔物を狩っていった。湖の近くに来ると手慣れた様子で周辺の木などを切り、魔法で火を起こしバーベキューの準備を始めた。道具も召喚魔法のようなもので取り出していた。そういうアウトドアな一面はモテても良さそうには思えるんだが、自分一人で楽しんでいる感が半端ない… 。
食事ができる頃にはもう日は沈んでいた。バーベキューの為の火が、なんだかキャンプファイヤーの様な感じになっていて悪くはない。そしてオレたちが食事が終えて少し時間が経った。
「私、もう我慢できません!
海斗さん!
ちょっとお話しがあります!! 」
少し怒り気味でユリアナは海斗を湖のほとりまで連れて行った。今日一日、一言も文句も言わず、おとなしく海斗に付き合っていたユリアナだったが、さすがに限界が来たようだ。オレたちも同じ気持ちだった。オレはアルファに頼み、二人の会話が聞こえる水晶を取り出した。昼間、街でデートをしていた時にそういうアイテムがあるかどうかを予めアルファに聞いていたのだ。
「ユリアナ… 、うまくやってくれよ… 」
「だね、海斗って本当にバカなんだから… 」
オレと優奈はそう言ってお互いに顔を合わせた。
「じゃ、呼ぶか… 」
オレは森に潜んでいる相手に向けて、こっちに来るよう、テレパシーを送った。そして森から現れたのはメイド美女のクウだ。
「いつから気づいていたのですか? 」
「初めからだな… 」
「さすがは、かつて伝説の魔人と呼ばれていたミッドガルドの皇帝ですね… 。
私の気配を感じる事ができる存在はこの世界には、ほとんどいないと思っていたのですが… 。」
「ま、オレじゃなくても普通の人間のユリアナでも気づいているよ… 。
よっぽど海斗の事が気になってたんでしょ?
全然、尾行になってなかったよ… 」
クウは絶句していた。
「クウさんは海斗の事が大好きなんでしょ? 」
優奈の質問にクウは顔を真っ赤にしながら黙っていた。
「アレス様は… 、
私の事を女性として見てくれません… 。」
そう呟いたクウはとても寂しそうだった。
「ま、どっちもどっちだな… 。
とりあえず、オレたちと一緒にこの水晶見てみようよ。」
オレたち三人は水晶に移りこんでいる海斗とユリアナの会話を聞くことにした。
「海斗さん、なぜ私とデートをしたいと思ったのですか? 」
「……… 、
一目惚れってやつかな… 」
「それが嘘という事くらいわかります。
怒らないですから、本当の理由を教えては頂けませんか? 」
「……… 、
お見通しという訳か… 。
ユリアナさん… 、本当に申し訳なかった… 。
実はオレには大好きな… 、
この世で最も大切にしたい女性がいる。」
「なら、なぜ… 」
「オレはその女性に手を出してはいけない。
オレは彼女の事を娘のように思っているからだ。」
「自由な感じで生きてそうなあなたが、そんな事を思うなんて意外です。」
「だからこそかもな… 。
こんなに自由気ままに生きているオレなんかに、
ずっと付いてきてくれている彼女だからこそ、
オレが手を出してはいけないと思ってる。
彼女には世界で一番幸せになってほしいと願っている。」
「あなたはそう思っているかもしれませんが… 。
彼女が、あなたの事をどう思っているのか知っているのですか? 」
「ああ… 。
五年ほど前に告白された。
……
だが、他に好きな人がいると嘘をついて断った。
そうすれば諦めてくれると思ったからだ。」
「で、その好きな相手が私という事にした、という事ですか? 」
「察しが良いな… 。
さすがはルーシアン帝国の参謀総長だな。
その通りだ。」
「それで、今日一日デートをしてみて何か解決したのですか? 」
「はは… 。
手厳しいな… 。
何も解決していないよ。
告白されて以来、何事もなく振る舞っている様子だった彼女が
今日は一日中、あんな心配そうな顔でオレの後を付けてきていたからな… 。
気になってデートどころじゃなかったよ。」
「それだけ気になるという事は、彼女の事が本当に好きなんですね。」
「そのようだな。」
「彼女は私よりも遥かに長く生きている立派な大人なんですから、
もう娘とか考えなくてもいいんじゃないですか?
それに、あなたのその自由な生き方にずっと付いてきてくれたのでしょう?
あなたが、それに負い目を感じているのであれば
ご褒美ではないですけれど、
今まであなたのワガママに付き合ってきた見返りとして
そろそろ彼女の願いにも応えてあげたらどうでしょうか?
実は、それが彼女にとってもあなたにとっても一番の幸せだと私は思いますよ。」
「……… 。
そういうもんなのか? 」
「そういうものだと思います。」
………
……
…
「今日一日、私とデートをしたお礼として
正直に聞かせて欲しいのですが、
海斗さんはクウさんのことが好きですか? 」
「正直にか… 。
………
オレはクウをこの世で一番愛している。
この世界が再び滅びかけても、クウだけはオレが絶対に守ってみせるつもりだ。」
「じゃあ、選手交代ですね… 」
そう言ってユリアナは、海斗の後ろで無言で涙を流しながら立っているクウの肩を軽く叩き、オレたちの元へ戻ってきた。海斗は気持ちが高ぶっていて、クウが自分の後ろに立っていた事に全く気付いていなかったようだ。
そして湖畔には、月明りに照らされ、男女が抱き合うシルエットが映し出されていた。




