記憶
――― …この世界は、一体どうなっているのだろうか… ―――
オレたちは今『サーメラ』のとある民家のような建物の中で、目の前でイチャイチャしているカップルを見ながら朝食をとっている。それは構わないのだが… 、オレは、あの海斗が三次元の女の子とイチャついている姿が想像できなかったので戸惑っている… 。
「でも、良かったね、海斗! 」
めずらしく優奈が海斗に向かって棘のない言葉で話しかけた。
「本当に良かったですね、クウさん。 」
ユリアナもクウに対して笑顔でそう言った。
「これも、あなた方のお陰です。
心の底から感謝しております。」
それまで海斗とイチャイチャしていたクウだが、普段の凛々しい表情でそう答えた。
「そうそう!
感謝してるぜ、風牙!
やっぱ、持つべきは友だな! 」
「まぁな… 、でも一度おまえに殺されかけたけどな。 」
オレは少し皮肉を交えて海斗に言ってやった。
「まぁ、そう言うなよ。
こうやって無事に生きてるんだし! 」
余りにも何事も無かったかの様にそう言い放った海斗に対して、オレは少し怒りを覚えた。
「にしてもだ!
おまえの一撃で何人の人間が死んだのかわかってんのか! 」
「そうカリカリするなよ。
おまえだってジルオーダの兵隊たちを殺したんじゃないのか?
それに、オレはおまえと違って、
サーメラに侵攻してきたから、街を守るために相手を討ち取っただけだ。
戦争をしようなんて気は全くない。 」
「どういう事だ?
世界の三大勢力とまで言われている国家元首の言葉とは思えないが。」
「だーかーら~
オレは別に好きでジオランスの国家元首をやってる訳じゃないっつーの。」
「じゃあ、おまえはこの世界で何をしている? 」
「う~ん… 、世界の平和を守るため? かな? 」
「は?
意味わからん!
おまえ、ふざけてんのか!! 」
「別にふざけて言ってるわけじゃねぇよ。」
「海斗!
おまえなぁ!!!
世界の平和を守るためなら、なんで大勢の人を殺す!!
ふざけてんじゃねーぞ!! 」
「やめて!
風ちゃん!! 」
海斗に殴りかかろうとしていたオレを優奈が止めようとした時、凄い剣幕でクウが言い放った。
「ふざけてなどおりません!!! 」
「よせ… 、クウ… 」
「いいえ!!
もう黙っていられません!!
あなた方が、何の脅威も感じずに平和に暮らしているのはアレス様のおかげなのですよ!
何もわかっていないのにアレス様を侮辱するなど許せません!! 」
そう言ったクウの目に涙を見たオレは冷静に話を聞くことにした。
「すまん… 、悪かった… 」
オレはみんなに謝った。そもそも海斗と争いにここに来た訳ではない… 。
「もういいよ… 、ありがとな、クウ… 」
「だって… 、だって… 」
海斗はクウにそう言うと彼女は彼の腕にしがみつき泣いていた。
「海斗、本当に悪かった… 。
人を殺してるのはオレもだ… 。
おまえを責める事ができる立場じゃなかった… 」
「まぁ… 、なんだ… 、
お互い大変だよな… 」
「ああ…
で、改めて聞くけど… おまえはジオランスで何をしている? 」
「モンスター退治と言ったらわかりやすいかな?
ジオランスの西方… 、
もう少し正確に言えば、
西の海を越えた大陸から大量のモンスターがこの大陸に攻め込んできているのを阻止しているのさ。」
「モンスター?? 」
「ああ、今のお前にわかりやすく言えば、
ロールプレイングゲームとかで出てくるドラゴンとかそんな類だな。」
「マジかよ… 」
まぁ、この世界は何でもありだとは思っていたけど、ドラゴンまで存在するのか…
「信じられないかもしれないけど本当の話だ。
モンスターの大陸侵攻を阻止するために戦っているんだが、
年々、あいつら強くなってきていてな… 。
オレ達が押されてしまっているうちに、領土が広がってしまったわけだ。
別に世界を支配する為に人間と争っている訳ではない。」
「じゃあ、シディアと昔から宗教で対立していると聞いたのは何なんだ? 」
「シディア??
ああ、あいつらが勝手にオレ達を目の敵にしているだけさ。
この国は、クウの様に、エルフやドワーフ、そう言った人間ではない種族が共存する国だ。
あのジジイ達はそういう国が存在する事が許せないんだとさ。
こっちはこっちで、攻めてくる相手に好意は抱けないだろう? 」
「なるほど… 。
じゃあ、話は変わるけど、ジオランス十勇者って何者だ?
エリスって女に殺されかけたんだが… 」
「!!!
エリスに会ったのか?! 」
「ああ、マジで殺されかけた。
何者なんだ?? 」
「あいつには気をつけろ、風牙! 」
「おまえがそんな驚くなんて…
それにジオランス十勇者っておまえの部下じゃないのか?? 」
「エリスって十勇者だったのか?? 」
「いやいや、オレが知ってるわけないだろ… 」
「十勇者って、実はオレもあんま良くわかってないんだわ… ははは… 」
「は??? 」
「その件については私から説明させて頂きます。 」
先程までグズって泣いていたクウだが、普段の冷静さを取り戻した様だ。
「先程のアレス様の説明にもあったように、
この国は、アレス様を中心に、大陸にモンスターを侵攻させない為に戦っている国です。
そこで、モンスター退治に競争心を煽るためにギルドを作りました。
ギルドはポイント制で、そのポイントが高い上位十のグループに対して、五年に一度
『ジオランス十勇者』という称号と特権を与えております。
ただ、彼らも強いとは言っても、アレス様の力には到底及びませんし、
エリスという名は聞いたことがありません。」
「そういえば、確か… 、
ジークムントの仲間とか言ってた気がするよ。」
優奈! ナイス記憶力!!
「ジークムント…
最近、十勇者に選ばれたグループの代表ですね… 。
今までは無名のグループだったようです。」
「それにしても… 、なぜクウさんがそんなに詳しくて、海斗さんは全然知らないのですか? 」
ユリアナの指摘はもっともだ。ジオランスの国家元首である海斗が十勇者についてこんなにも知らないんだ???
「アレス様は内政の事には全く興味が無く自由奔放に生きていらっしゃるので…
本人ですら、この国の国家元首という自覚が全く無いので、本当に困ったものです。
でも… 、そんな細かい事は気にしない男らしい所も大好きなのですけれど… 」
……… 、まぁ、一人でデレているクウは放っておいて話を続けることにした。
「で… 、
なぜエリスって女は危険なんだ?? 」
「あれは旧世界の産物だ。
相当な力を持っているし、ある相手と戦うことを望んでいるからだ。」
「ある相手?
モンスターじゃダメなのか? 」
「どうやらダメみたいだな… 」
「じゃあ、エリスが戦いたい相手って誰なんだ?? 」
「それは…… 答えられない… 」
「なんだ、それ?? 」
「オレの中の美女たちが、これ以上喋るなと言っている… 」
「またかよ! 」
「だって、おまえ七百年位前の記憶ないだろ?? 」
「は???
七百年???? 」
「どうしたんだ? 」
「いやいや… 、てかオレって何歳??? 」
「そんなもん、もう覚えてないわ。
オレと同い年だから千歳ちょっとだったんじゃないか? 」
「はぁ!? 」
「何驚いてるんだ、おまえ? 」
そーいやそうだ!!! オレって何歳なわけ!!! オレの体も記憶も二十二歳のままだけど、冷静に考えれば、この世界での娘のミウは四百歳位な訳で… 。てことは、この世界でのオレはもっと長い間生きてるっていう設定なのか?? ま、設定は設定か… 。ここは異世界だからあんま関係ねぇか…
!!!!!!
何だこの激しい頭痛は!! 何かが頭の中で映っている… 、オレの記憶か… 。何だ??? どこだ、ここは?? 研究所のような場所… 。誰かがいる…
!!!
ヨーコ!!! 何してんだ?? 何で白衣を着てるんだ?? あともう一人いる… 誰だ…
………
……
…
「風ちゃん!!
風ちゃん!!! 」
オレは優奈の声で我に返った。
「ああ、ちょっと頭痛がして… 」
「大丈夫?? 」
「ありがとう、優奈。
大丈夫だ。
なぁ、優奈… 」
「どうしたの? 」
「オレって自分が望んで記憶を無くしたって前に言ってたよな?? 」
「……… 」
「何か今、少しだけ記憶かどうかわからないけど、
研究所のような場所でヨーコがいる場面が頭に浮かんだんだけど… 」
優奈はずっと黙っていた。何と答えれば良いのかわからず、すごく困っている様子だった。この質問を優奈にしているオレは、何だか彼女を凄く責めている様な気がする。そんな優奈の姿を見かねた海斗が口を開いた。
「おまえの疑問は、オレ達には答えられない。
真実を知りたかったら、楓香ちゃんに聞くことだな。」
「楓香だと!!
楓香もこの世界にいるのか?!
どこで何をしてるんだ!! 」
「北の国『ヘルヘイム』の魔王。
そして、この世界のマスターの一人だ。 」
マジでかーーーー!! マジなのかぁーーーーー!!! オレはフリーズしてしまった。
「あの~… 、楓香さんってフーガ様のお知り合いなんですか?? 」
ユリアナが優奈に小さい声で聞いていた。
「うん!
楓香ちゃんは私の妹!
って言っても義理だけどね。」
「ということは… 」
「そう!
風ちゃんの実の妹だよ! 」
この世界での妹が、魔王でマスターとか… 。またもや意味のわからん展開に混乱するオレであった。




