再編成
――― …この世界を支配するのに必要な戦力は、どの位なのであろう… ―――
オレたちは今後の戦略を早急に練る必要があった。『ミッドガルド』軍の兵力の約八割を「ジルオーダ」攻略に絡む戦闘で失ってしまったからだ。国内で大規模な徴兵を行えば戦力の増強はできるが、時間もかかるし、今はできるだけ避けたい。つまり、実質、今残っているミッドガルドの戦力は「アスティナ」の防衛に当たっている兵力のみとなる。時期はいつになるかは不明だが、シディア本部からジルオーダ奪還の為に攻めてくる部隊が来るのは間違いない。
オレたちがジオランス軍との戦闘を終え、『カーザス平原』からジルオーダに戻ってきた時には日が暮れていた。そこには城門の前でヨーコが見張りをしている姿があった。どうやらシディアの迎撃部隊を気にしての事のようだ。特に何事もなく無事な彼女の姿を見て安心した。
「フーガ、待っておったぞ。
シディアの第一部隊は倒せたようじゃの。 」
「シディアの部隊は倒したけど…
というよりも、オレたちが着いた時にはすでにシディア軍は壊滅していた。」
「どういう事じゃ? 」
「優勢なはずだったシディア軍は、一人の男のお陰で形勢逆転。
それに巻き込まれたオレたちの部隊は全滅だ… 」
「何があったのじゃ?? 」
「ジオランスに恐ろしく強い男がいた… 」
「なるほど… 」
「驚かないんだな… 、
本当にヨーコは冷静だよね… 」
「まぁ、大体の話は予想がつくからのぉ… 。
フーガたち相手に、部隊を全滅させる事ができる存在など、この世界にそうはおらぬ。
となると、『マスター』である『海斗』と遭遇した、といった所じゃろ… 」
「なんでそこまでわかってしまうんだ!?
しかも、相手が「マスター」であって名前が「海斗」ってのも当たってるんですけど!! 」
「まぁ、いろいろあってのぅ… 。」
本当にヨーコは謎だ。オレや過去の事をどれだけ知っているんだ?? ただ、聞いても教えてはくれないとわかっているので、オレは話を流す事にした。
「ところで、ジルオーダの住民達はどう? 」
「ああ、普通に生活するよう言ったのじゃが、『七聖者』が来ると怯えていたのでな、少しばかり門番をすることにしてみた。」
ヨーコとの会話をある程度終えると、オレはエカチェリーナに頼み、ジオランス軍との戦闘で起こった事の報告と、今後の戦略について考えたい、というオレの意思をテレパシー魔法で仲間たちに伝えてもらった後、全員をジルオーダに集めてもらう事にした。
翌朝には、先にオレが放っていたスレイプニルと共に、リサ、ユリアナの二人が先にジルオーダに到着した。ユリアナの様子から察する限り、まだ例の説得には至っていないようだった… 。昼を過ぎるとエカチェリーナも、仲間全員を集めて戻ってきてくれたので、これでミッドガルドの主要メンバー全員がジルオーダに揃う事となった。馬車から降りてきたシャーロットはオレの傍にくると、跪き忠誠を誓ってくれた。どうやらミッドガルドを気に入ってくれたようである。戦略会議を始める前に軽くそれぞれに新しい仲間の自己紹介を済ませておいた。
「………で、
今後どうして行くかっていうのが問題なんだけど…
リサ、何か良い策はある? 」
「とりあえず戦力の再編成ですね。
カノンちゃんは『バベル』
カレンちゃんは『メイガダーヌ』を管理しつつ、できる限り戦力を増強を図って下さい。
ミウちゃんは、『アスティナ』で急ピッチでゴーレムの大量生産をしつつ、今残っている魔術師部隊全員の強化育成に当たって下さい。ゴーレム、魔術師部隊以外の戦力は全てジルオーダに集めます。」
三人とも異議はないようだ。ミウとカレンはいつもの様な明るい感じではなく、緊張感がこちらにもヒシヒシと伝わってくる。カノンに関してはプレッシャーで押しつぶされるのではないか? とこっちが不安になってしまう… 。
「あと、シャーロットさんにお伺いしたいのですが… 」
「はい、何でしょう? 」
「まず、私たちに協力してくれる…
というよりも、本当にミッドガルドに忠誠を誓って頂けるのでしょうか? 」
「短い時間でしたが、アスティナの街を見て、ここに来るまでに他の町も見させてもらいました。
国民が活き活きとしていて、素晴らしい国だとこの目で見て感じました。
ですので、お約束した通り、私は風牙様に忠誠を誓います。」
「……ごめんなさいね、シャーロットさん… 。
わかってはいましたけど、改めてこの場で、再確認の為に聞いておきたかったのです。
ようこそ。
新しい仲間を私たちは歓迎します。」
リサがそう言うと拍手が起こり、少し和やかな雰囲気になった。重い内容の戦略会議での小休止と言ったところか… 。リサはそこまで考慮に入れているのか… と感心してしまう。
「では、話を続けさせて頂きますね。
ネストリアの最強騎士団は女性のみで構成されていたと聞いています。
もし、可能であるのなら、ここジルオーダの女性達を最強騎士団レベルに近づけて欲しいのですが… 」
「私は構わないのですが…
騎士になる、ならないは本人達の意思。
無理強いするものではありませんので彼女達次第かと… 」
「わかりました。
この件に関しては全権をシャーロットさんに委ねます。」
「最後に、『サーメラ』にいるマスターの件なんですけど…
ユリアナ… 、どうでしょうか? 」
「う~ん… 、別に命令というのであれば従いますけど… 。
リサ様から聞いた話だとあまり良い印象が持てなかったので、正直、少し戸惑っています… 」
いつもとは違い歯切れが悪い。ユリアナ自身が乗り気ではないという事はすぐにわかる。どうしたもんか… 。
「海斗は超アホだけど、そんなに悪い奴じゃないよ。」
そう笑顔で言った優奈からはミウたちの様な緊張感が感じられず、いつものほんわかした感じであった。ある意味救われる… 。それと優奈は海斗の事を知っている。なぜなら、オレの記憶の中では、優奈、海斗の二人はオレの幼馴染であるからだ。
「私も理性ではそんなに悪い人ではないと思うのですが… 、
生理的に合わないというか… 、
相性が悪そうというか… 、
個人的な直感が邪魔をして、ユリアナに上手く伝える事ができず説得には至りませんでした。
風牙様、申し訳ございません。」
「いや、リサが謝る事はないよ。
それに、ユリアナも無理に要求に応えなくても大丈夫だよ。
海斗には、ユリアナ本人の意思もあるからって伝えておいたし。」
とは言ったものの、困った事態だ。海斗とオレが正面衝突するのは、きっと向こうも望んでいないだろう。ただ、そうは言ってもジオランスの人間。オレがアスティナを離れた時がマズいな… 。かと言って、オレがずっとアスティナに留まっているわけにもいかないし… 。どうしたものか… 。
「風ちゃん?
海斗の事なら優奈に任せて! 」
「ん???
何か良い方法でもあるのか? 」
「うーんとねぇ…
あっ!
「風ちゃんと優奈」、「ユリアナさんと海斗」のダブルデートってのはどう??
それだったらユリアナさんも安心できるでしょ? 」
優奈のやつ、今「あっ! 」って言ってたな… 、何とかしようと思ってオレに声かけたものの、何も考えてなかったのだろう。で、咄嗟に思いついたのがダブルデートか… 。でも、まぁ、悪くはない考えではある。ユリアナとの事が上手くいくかどうかは問題ではない。とりあえず、デートをさせるという事が条件だったからな。
「まぁ、確かに… 、
フーガ様と優奈様がいるのであれば…
それに、相手の人は、お二人様の幼馴染なんですよね? 」
「じゃ、決定という事で良い?? 」
「はい、構いません。」
オレと優奈が一緒という事で、少し安心したユリアナは決心してくれたようだ。
「では、私はジルオーダに残り、街の統制を図ります。
エカチェリーナさんとヨーコさんは
南の都市「ケーバル」
南東の都市「ダンホーン」
南西の都市「バルアド」
の偵察をお願いしたいのですが。」
「ヨーコと二人だけで行動というのは本当に久しぶりですね。
何だか久々に胸が高鳴ります。
場合によっては!
そう、場合によっては、相手を殲滅するかもしれませんがよろしいでしょうか?
海斗とかいうマスターのお陰で私、不完全燃焼ですからね。」
「妾もそう思っていた所じゃ。
主と共に暴れるのは久しぶりじゃしのぉ… 。
優奈と初めてあった時は『バベル』だったので本気で力を開放できなかったのじゃが…
それに『ダンホーン』には個人的に用があったので丁度良かったのじゃ。 」
この人たち… 、絶対、『偵察』の意味わかってないだろう… 。戦う気満々じゃねぇか… 。笑顔で言ってるエカチェリーナの言葉は荒ぶっているし、冷静そうに話してるけど、ヨーコに至っては、力を開放して暴れるって宣言してるし… 。オレは視線をこの二人以外に向けてみたが、優奈以外の全員が呆れ顔だった… 。
「みんなは、リサの戦略で大丈夫? 」
一応、最後にオレは全員に対して確認を取ってみた。どうやら、うちの天才軍師の意見には誰も反論する気はないらしい。そういった訳で今後の戦略は決まったのだが…
ダブルデートという事で一人喜んでいる優奈を見ていると、こんな事してていいのか、オレ?? と思いつつ戦略会議は終わった。




