戦闘
――― …この世界では、どれ程の力を持つ者が存在するのだろうか… ―――
オレたちは『ジルオーダ』攻略の作戦会議の後、準備に入った。オレとヨーコはスレイプニルを召喚し先にジルオーダ南方の森に身を隠し潜入するタイミングを伺う事にした。昨日の夜に、街の内部から南の城壁を超え外に出ることが容易にできた事から、守りが手薄な場所と判断した。
オレとヨーコが出発した後、少し時間をずらし、早朝にはミウの率いる部隊とエカチェリーナの部隊は同時にアスティナを出発する予定となっている。『カーザス平原』北側で部隊は別れ、エカチェリーナはジルオーダとシディア前線部隊の間に陣を張り、ミウの部隊はジルオーダの北西に部隊を構えているはずだ。
突然街の北西に現れた『ミッドガルド』の部隊に街の中は混乱しているようだ。シディア側からすると「まさか! 」といった所であろう。空が明るくなってくるとジルオーダの北側から魔法を使ったような爆発音が聞こえてきた。どうやらミウの部隊が攻撃を開始したようだ。
しばらくすると街の南側が騒がしくなってきた。「どういうことだ?! 」オレは作戦が失敗したと思った。オレたちは街の南側が手薄になったタイミングで内部に侵入する予定だったからだ。しかし、今更作戦を変更することはできないと判断したので任務を遂行することにした。オレとヨーコはスレイプニルに跨りジルオーダの南側に侵入した。
侵入した街の南側には、北西の前線を回避し逃げてきた女性や子供たちが大勢いた。兵士の姿は無くオレは一安心し、彼女達にこう言った。
「オレはミッドガルドの皇帝、風牙だ。
あなた方、女性や子供に危害を加えるつもりはない。
安心してくれ。 」
突然の出来事で彼女達は信じられないようで、最初はざわざわしていたが、しばらくするとおとなしくなった。ただ、それは安心というよりも、諦めてミッドガルドに隷属する覚悟をしたような雰囲気を感じた。そんな悪いことをするつもりはないのだが、これが当然か… 。これが戦争なのだとオレは思った。オレはそんな不安を抱えている彼女達を一カ所に集め、ヨーコに結界を張らせた。これで彼女達がケガをすることはないだろうと考えたからだ。
その後、オレとヨーコはジルオーダの北西にある城門に向かった。遠くから様子を見ると、作戦通りにミウの部隊は城壁の外側までの攻撃を行っていて、内部には被害がない。リサが上手く指揮を執っているようだ。相手の弓矢の攻撃に対しては、ゴーレムが盾となりミウの部隊を守っていたが、特攻してくる相手の攻撃には被害は出ているようだ。
ただ、シディアの部隊には悟られないようにミウたちは、ギリギリのラインで互角の戦いを演じていた。ヨーコがミウにテレパシー魔法で指示を出すとミウの部隊は少し引いた。すると、こちらの想定していた作戦通りにシディアの全部隊は一気にミウの部隊への追撃を行う。シディア軍はミウの部隊が接近戦は苦手と判断したからだ。そのタイミングを見計らってヨーコは城壁に残る兵士を倒し、オレの「エクスプロージョン」とヨーコの魔法、ミウの攻撃魔法で挟み撃ちにし、シディアの部隊は全滅した。
とりあえずの作戦は成功したものの、オレは初めて人間を殺してしまった罪悪感に襲われた。きっとオレに旨い飯を作ってくれた店主もいたのだろう… 。そう思うとなんだか本当にこれで良かったのか? と感じる。ミウの部隊も被害がゼロというわけではない… 。
作戦通りにジルオーダはヨーコに任せ、オレとミウは、後方でミウの部隊の指揮をしていたリサとも合流した。そのままエカチェリーナの部隊の元へ向かう事となった。そんな中、オレにはひとつの不安要素があった。それはジルオーダをヨーコ一人に任せている事だ。ヨーコの実力や、バベルでの住民管理の実績はわかっているが、気になるのは『シディア七聖者』だ。早かれ遅かれ、シディアの首都からの迎撃部隊が来ることはわかっている。
オレたちがカーザス平原の西方に向かうと、エカチェリーナの部隊はすでにジオランスの部隊と衝突していた。ジオランス軍と自軍に挟まれたシディア前線部隊はすでに壊滅しているようだ。これは大きな誤算であった。ジオランス軍とは交渉し、戦闘を避けたかったからだ。そして、何より驚いた事はエカチェリーナの部隊が押されていることだった。
「エカチェリーナさん!
なぜジオランス軍と戦っているのですか!! 」
思わぬ誤算でリサもかなり焦っているようだった。
「仕方なかろう!
私も戦うつもりはなかったのだが、向こうが有無を言わさずに攻撃を仕掛けてきたのだ!
しかも、強い…
私の闇の魔法があまり効かないのだ…
相手は何者なんだ… 一体… 」
「ミウちゃん!
ゴーレム部隊を前線に出して下さい!
みんなで一斉に攻撃魔法で反撃します! 」
リサがミウに指示を出し、オレたちも戦闘態勢に入った。
「エクスプロージョン!! 」
「シュヴェルツェ!! 」
オレとエカチェリーナは現在扱える最強の魔法をジオランス軍に放った。そして、その攻撃を仕掛けたと同時に事は起こった。
「来る!!! 」
アルファの声が聞こえたと同時に、オレたちだけを残して、一瞬にしてゴーレムを含め自軍の部隊が全滅してしまった。一体、何が起こったのかわからなかった。唯一わかっている事は敵の攻撃を受けたという事だ。アルファの咄嗟の防御結界で何とかオレたちだけは無事だった。
「そんなバカな… 」
オレたち四人は言葉を失っていた。この絶望的な状況を回避する方法はあるのだろうか… 。




