作戦会議
――― …この世界では、どれだけの国が平和なのだろうか… ―――
ふと冷静に状況を整理してみると、オレたちは今『ジルオーダ』の町外れの公園にいる。女性に追われていたオレは一番南の公園まで来てしまったようだ。公園の奥には城壁があり、ヨーコと、オレを追いかけてきた女性はベンチに座り何やら話をしている。もう夜なので辺りは暗い。公園は静かで、他に人の姿は無くオレたちしかいない。
そういえば… 。オレは飲食店で買ったお土産が無事かどうか? を確かめた。カバンの中に箱ごと入れておいたのだが、先程、色々と動き回ってしまったからだ。とりあえず中身は無事だった。動きながらでも食べる事ができるように、フランクフルトや焼き鳥、串カツなどの串物をチョイスしたからである。さすがオレ! ナイスチョイス! 自分で自分の事を褒めてあげたいです。オレはお土産として買っていた串物をヨーコとウェスタと名乗る女性に手渡した。
「ウェスタ、お主も遠慮せずに食べるがよい。 」
「では、お言葉に甘えて… 。
いただきます。 」
行儀正しく両手を合わせると、ウェスタは串物を食べてくれた。一本の串を食べ終わるとウェスタはオレに語りかけた。
「ご馳走様でした。
あの… 、せっかく覚醒したのでフーガ様と一緒に行動したい気持ちは山々なのですが、私もミネルヴァと同じように今の彼女の意思を尊重します。
私の考えと、彼女の考えは基本的には同じですからね。
ですから、フーガ様… 。
私の持つ能力は彼女に託しましたので、どうか、彼女の事をよろしくお願い致します。
もちろん、必要であればいつでも参上致します。」
そう言うとウェスタの雰囲気が変わった。
「夢なのか… 。」
ウェスタから意識を解放された彼女は自身の身に起きている事に対して混乱しているようだ。おそらく意識をウェスタに乗っ取られたのは初めてだったのだろう。
「まぁ、混乱するのも無理はない。
お主の中に宿っているのはウェスタという人格じゃ。 」
「もう一人の人格… ? 」
「詳しい話は後ほどしてやろう。
ところで、お主の名は何と申す?
妾の名はヨーコじゃ。 」
「私の名は、シャーロット・イアハート。
ネストリア王国の王女で、騎士です。 」
「シャーロットって言うんだ… 、よろしく。
オレの名前は風牙。
一応、ミッドガルドの皇帝をやってる。 」
「ミッドガルドの皇帝!!
なぜ、そんな方が、こんな敵地にいるのですか?!
それと、先ほどの私の無礼、本当に申し訳ございません。 」
「まぁ、済んだことはもういいよ。
あと、なんでオレがここにいるのか? って話だけど、それを言うなら君も王女でありながら、なんで旅なんかしてんだ? って話になるけどね… 。
オレの場合はジルオーダの街がどんな感じなのか? を知るためにヨーコと二人で侵入してきたんだよ。 」
「なんか信じられないけど… 、でも、あなたがそう言うならそうなんでしょう… 。
ミッドガルドって、本当に平和な国なのですか?
もし、そうであるなら、私はあなたに忠誠を誓います。」
「う~ん… 、オレは平和だと思ってるけど… 。
どうなんだろうね… 。
自分の目で確かめてみるのが一番だと思うよ。
ミッドガルドまで連れて行くからさ。 」
「ジルオーダの街は、もう見なくて良いのか? 」
ヨーコがオレに尋ねてきた。
「まぁ、大体わかったからね。
もういいよ。
それじゃ、アスティナに戻ろっか。 」
オレは魔法を詠唱してスレイプニルを召喚し、ヨーコは帽子の姿となりオレの頭の上に乗った。オレはスレイプニルに跨り、シャーロットに後ろに乗るよう促した。
「こいつは空を飛ぶから振り落とされないようにしっかりオレにしがみついててね。 」
「本当に、あなたって何者なのですか… 」
シャーロットがそう呟いたのが聞こえたが、オレは敢えて答えずスレイプニルに命令した。スレイプニルは動き出すと、公園の奥にある城壁を軽く超えて行った。今は夜で、町外れにある公園という事もあり、城壁の上には見張りの兵士はいなかったようだ。オレたちは、特に騒ぎを起こすことなくアスティナへ戻る事ができた。
アスティナに戻るとみんなが迎えてくれた。初めて見るスレイプニルにエカチェリーナ以外は驚いていたようだ。
「ところで風ちゃん。
その娘誰? 」
優奈が聞いてきた。やっぱ知らない女の子連れて帰ってきたら普通聞かれるよなぁ… 。ま、正直に答えれば問題なし。… 問題なしか??? 余計な事がバレなければいいんだけど… 。
「自己紹介が遅れ、失礼致しました。
私はネストリア王国の王女、シャーロットと申します。」
「ネストリア王国… 、あの最強騎士団で有名な… 。
あ、ごめんなさい。
私の名前はリサと申します。
よろしくお願いします。 」
その後は順にエカチェリーナ、ミウ、優奈と自己紹介が続いた。
「で、その王女がなぜフーガ様と一緒にいるのですか? 」
エカチェリーナが聞いてきた。
「ああ、偶然ジルオーダの街で出会ってのぅ。
実は彼女にはウェスタが宿っていることがわかったので連れてきたのじゃ… 。 」
ヨーコが当たり障りのない答えを返してくれた。
「ウェスタ… ?
ああ、あの人ね。 」
エカチェリーナは思い出したようだが、その感じからして、あまり親しいという訳では無さそうだ。
「とりあえず、今日は夜も遅いから、明日、ジルオーダの報告と今後どうするか説明するよ。 」
オレはそう言って、その場を解散した。部屋に戻ったオレがくつろいでいるとドアをノックする音が聞こえた。入ってきたのはリサだった。
「リサか、どうかした? 」
部屋に入ってきたリサは何か怒っているような、拗ねているような感じだった。
「風牙様、あの娘とキスしたでしょ。 」
なんだ! 会話の初っ端から、ドストライクの剛速球投げてきたぞ、おい!
「あ、… いや、まぁ、したと言えばしたかも知れない… かな? 」
変に嘘をついても仕方が無い。ここは諦めよう! だけど、なんでバレたんだ??? ヨーコがバラすとは考えにくいしなぁ… 。 あっ!!! そっか! ミネルヴァを宿してるリサなら、完全にバレるって事じゃねぇーかぁああ!! 覚醒した雰囲気は全く無いシャーロットだけど、アナスタシアを宿してるってわかったから連れて来た、とか言っちゃってるもんなぁ… 。鋭いわぁ… 、さすが知を司る女神… 。
「やっぱり!
エカチェリーナさんや、優奈ちゃんたちには黙っていてあげますから、今日は私と一緒に寝て下さい。
そうしたら許してあげます。
私も風牙様の妻なんですからね! 」
可愛らしく怒っているリサの要求をオレは受け入れた。それにしても、何だろう… 。普段は大人しいリサのままだが、結婚してからオレに対して妙に積極的になってきている様な気がする。
翌朝、オレが見たジルオーダの報告と、今後の展開を決める為、全員が会議室に集まっていた。
「さすがに戦争中の最前線都市というだけあって、たくさんの兵士が街の中にいたよ。
おそらく前線へ投入される追加の第二部隊といったところだろう。
それと、気になったのはシディアには『七聖者』ってのがいるらしい。
自称勇者がシディアに侵入したおかげで、彼らは前線には、いないみたいだけどね。
あと、街の状態は、まぁ普通だな。
徴兵によって人がたくさんいる分、平時よりも賑わっている感じだ。
それにしても、男尊女卑の国だったって事には驚いたけどね。 」
「そうなんだよ!
昔、ミウたちが旅してた時もシディアって扱いが酷いからすぐに国を出ちゃったもん!
思い出したら腹立ってきたよ! 」
「そうだね。
優奈がいた巫女の国ジャンヌなんて彼らには考えられないだろうね。 」
「で、どうするつもりですか? フーガ様。 」
エカチェリーナが話を本題に戻すように言った。
「ジルオーダを落とす。
ただ、街の中には女性や子供もいるから、できれば街の外で決着をつけたいかな。
それと、カーザス平原の前線部隊が戻って来れないようにするため、時間はあまりかけたくないと思ってる。
あとは、シディアの部隊を殲滅させた後、ジオランスの前線部隊と、どう折り合いをつけるかが問題だよね。
リサ、何か良い策ってある? 」
「そうですね… 。
風牙様の話を聞く限り、まだシディアの第二部隊は戦闘の準備が整っていないように思います。
ですので、アスティナの戦力の五分の一程を、ジルオーダの前に陣を張って外に誘導します。
この部隊はミウちゃんに任せます。
ゴーレムを使って魔術師部隊を守りつつ、魔法を使って遠方からの攻撃を仕掛ければ、ゴーレムがいるとはいえ、こちらの戦力の少なさに油断してジルオーダの全戦力を使ってこちらに向かってくるはずです。
ミウちゃんが本気で魔法を使ったら街の中まで被害が出てしまうから気をつけて下さいね。
戦闘が始まったタイミングで、風牙様とヨーコさんはスレイプニルを使って街の中に侵入して内部から戦力を削ぎ落として下さい。
お二人なら、ジルオーダの内部を見てきたので街の中のポイントもある程度わかると思います。
エカチェリーナさんは、アスティナの部隊の五分の二を率いて、ジルオーダと前線にいる第一部隊の間に陣を張って、彼らが連絡を取ることができないようにして下さい。
それと、全面的な第一部隊との戦闘は避けて下さい。
ジルオーダが陥落すれば、ヨーコさんにジルオーダを任せて、風牙様とミウちゃん、私が合流しますので。
優奈ちゃんは残りの部隊と一緒にアスティナの防衛をお願いします。
ジオランスとの折り合いですが、こちらに関しては何とも言えない状況です。
もし交渉ができて、相手の要求が飲めるようであれば、休戦に持ち込みたいところですが、場合によっては全面衝突になるかもしれません。
こんなところでどうでしょうか? 」
「あの… 、私は何をすれば良いのでしょうか? 」
リサの説明を聞いてシャーロットが口を開いた。
「正直、シャーロットさんの力を私は知りませんから… 。
風牙様、どうしましょう? 」
「シャーロットが協力してくれるなら、それは大きな戦力になると思うよ。
ただ、ミッドガルドが本当に平和な国か確かめたいんでしょ?
とりあえず、優奈がここを守っている間、アスティナの状況を見てみたらどう?
前線都市とはいえ、ミッドガルドだから、他の町と似たような暮らしを国民はしてるよ。
それで、納得がいけば、優奈と一緒にアスティナの防衛をお願いする。 」
「わかりました。 」
「オレはリサの作戦で良いと思うんだけど… 。
みんなはどう? 」
特に問題はなく、みんなリサの作戦に納得しているようだ。メイガダーヌは無血開城だったが、ついに血が流れる戦争が始まるのだな… 、とオレは心の中で思いつつ作戦を遂行することにした。




