騎士
――― …この世界には、どのような国が存在するのだろうか… ―――
帽子に変身したヨーコとオレは今、シディアの最前線都市『ジルオーダ』のすぐ近くにある山の麓にいる。国境付近からスレイプニルを呼び出し、『ミッドガルド』と『シディア連邦』の国境にある未開の地と言われている山を超えて来たのである。その山には、やはり魔物がいたのだが、ゴブリンやコボルト以外にもいたような気がする。オレは、空からしか山の様子を見ていなかったので、定かではない。スレイプニルは空を飛ぶことができたのだ。
それはさておき、予想はしていたが、ジルオーダも城塞都市であった。城門付近、城壁の上には『メイガダーヌ』や他のミッドガルドの城塞都市と同様に見張りの兵がいる。どうやって、ジルオーダの街に中に侵入するか? が問題であった。さすがにスレイプニルごと街の中に入れば大騒ぎになるだろう。オレの目的は他国の都市がどのような状況になっているか? を知ることである。強行突破をするのであれば、ここに来た意味はない。とりあえず、スレイプニルは目立つので魔法を使って収めた。
夕方も過ぎ、もうそろそろ日も暮れようとしていた。どうやって街の中に入るかを考えていると、ジルオーダから続く街道の南方から、馬車の集団が現れた。何事かと思い、その集団をよく見ると、何台もの荷馬車を連ねてたくさんの荷物を運んでいる。おそらくシディア本部からの輸送物資を運んでいるのであろう。オレは閃いた。
「ヨーコ、帽子に変身している状態でも魔法って使えるの? 」
「まぁ、強力な魔法は使えんが、軽い魔法なら可能じゃ。
何か良い方法でも思いついたのか? 」
オレはできるだけ見つからないように集団の近くまで行き、ヨーコに遠くの方にある山に雷を起こさせた。突然の雷に集団が気を取られている間、戦闘モードを使うことによって身体能力を上げたオレは荷馬車の中に紛れ込む事に成功した。そこにはたくさんの剣や弓矢が積まれていた。突然の雷に驚いていた集団であったが、遠くの山の方だったので、特に慌てることなくそのまま街の中に入っていった。
街の中に入った事を確認したオレは隙を見て、荷馬車から抜け出し普通に街を見て回ることにした。街の中は特に変わった様子はないが、戦争が始まったということで、たくさんの兵士の姿があった。
とりあえず腹も減ってきたので、たまたま見つけた飲食店に入ることにした。店には酒も置いているようだ。もうすぐ夜ということもあり、すでに数人の男達がテーブルで酒を飲んで盛り上がっていた。店にはバーカウンターがあったので、オレはそこに座ることにした。
「いらっしゃい、ご注文は? 」
この店の店主であろう体格の良い男が聞いてきた。
「少しお腹がすいたので軽くつまめるものと、おすすめの酒を下さい。 」
「ああ、わかった。
ところで、あんた見ない顔だな。」
「ええ、丁度さっき物資を運んできたところです。
やっと一段落したところですよ。」
オレは状況から考えて、適当にごまかした。マズかったかも… 。
「おお、そう言えば、そうだった。
今日は首都から武器と防具がから届く日だったなぁ… 」
店主はそう言いながら酒を出してくれた。
「ま、最初はビールだろ、とりあえず、つまむもんは作るから待ってな。」
「それにしても賑やかですね。
繁盛してるんじゃないですか? 」
「まぁ、みんな他の町から兵役で来てるからな。
戦争が始まったのは残念だが、その分、人はたくさんいて街全体は賑やかだ。
ただ、このうち何人が生きて戻って来れるのか? を考えると悲しい気持ちになるがな。
俺にできることは、そんなやつらに、旨い酒と飯を出して精一杯楽しんでもらう事だと思ってる。
… 悪い、なんか、変な話になってしまったな… 。」
「いえ、オレも変なこと聞いてしまって申し訳ない。」
「はいよ、お待たせ。」
そう言って店主は料理を出してくれた。一口食べたが確かに旨い。あとでヨーコにも食べさせてあげよう。
「それはそうと、首都でも大変なことになってるんじゃないのか? 」
「何がですか? 」
「何がって… 、自称ジオランスの勇者のことだよ。
もし本物なら、ジオランスの『十勇者』って相当強いって話だぜ。
そんな奴らが、南西の町『バルアド』に侵入してきたってんだから大変だよな。
しかも突然行方を眩ませたってんだから、国を挙げて血眼になって探してるって噂だ。
今んところ、派手にドンパチやってるって訳じゃないみたいだけど、やっぱ首都とかじゃ厳戒態勢になってんだろ? 」
「ああ… 、その話ですね。
まぁ、厳戒態勢って言ってもそこまで考えてるほどじゃないと思いますよ。」
オレはまたしても適当に答えてしまった… 。
「そうなのか?
ま、確かにシディアにも『七聖者』がいるから大丈夫だろう。
それよりどうだ?
うまいか? 」
「ええ、とっても美味しいです。」
「そうか、よかった。
おっと、他の客の注文が大量に入ったみたいだからちょっと抜けるぜ。
あと、追加注文があったら遠慮せずに声かけてくれよな。」
「わかりました。
ありがとうございます。 」
そう言って店主は厨房へ戻って言った。その後も、いくつか料理を注文し、ヨーコに食べてもらう為のお土産も買った。ヨーコさん… 、オレだけ食べててゴメンね… 。外に出るとなんだか騒がしく、人だかりができていた。なにやら揉めているようだ。
「女のくせに、オレたちに歯向かおうってのか? 」
どういう経緯かはわからないが、一人の女性が幼い少女を庇いながら五人の男達と対峙しているようだ。おそらく少女が因縁でもつけられたのだろう。メイガダーヌにも似たような男二人組がいたな… 、どこにでもこういう奴らはいるんだな… と呆れながら様子を見ていた。
「女のくせに、とはどういうことだ? 」
「は? この国の常識じゃねぇか?
女は男の言うことを聞いてりゃいいんだよ! 」
「男がそういう考えだから、『シディア』が『ミッドガルド』に及ばないと噂をされているという事もわからんのか? 」
「あんな国境を守るだけで精一杯の弱小国に及ばないだと?
バカかおまえは?
この国のモンじゃないな? 」
「その通り。
私は『ネストリア』王国出身だ。 」
「ちっ、ネストリアの女か… 。
てめぇと争う気はねぇ… 。
おい、おまえら行くぞ! 」
リーダー格の男がそう言うと、五人の男達は去っていった。
オレの視線に気付いたのか彼女はこちらに話しかけてきた。これだけ人がいて、なんでオレ??
「何か用か?」
「いえ、何も… 。
とにかく怪我もなくて良かったですね。
それじゃ… 。」
そう言ってオレは去ろうとした。
「おい、貴様は一体何者だ? 」
「いや、ただの一般人ですよ。 」
「ただの一般人にしては、私への反応はシディアの男のものではないが。 」
「そんなことないですよ。」
「それだ。
シディアの男が女にそのような喋り方はせん。
もっと横柄で奴隷を扱うような話し方のはずだ。 」
そうなのか? そんなの知らねぇよ… 。とりあえず撒くか… 、オレは戦闘モードを意識して、その場から逃げることにした。
「どこへ行く! 怪しい奴め! 」
彼女は剣を抜いて追いかけてきた。なんて短気な女なんだ! 普通、いきなり剣抜いて追いかけてくるか?? てか、身体能力を上げている戦闘モードのオレについて来るとか、それも異常だろ!! 異常なオレが言うのも何だが… 。
「貴様!
その尋常ではない足の速さ、やはり只者ではないな! 」
おまえもだよ! とツッコミを入れたくなる。すると、彼女の剣がオレに向かって振り下ろされた。しかもスローモーションの様に見えない… 。やられたか!! と思ったが、オレは光のバリアのようなもので守られていた。
「マスター… 油断大敵… 」
アルファの声だった。
すると、ヨーコが本来? の人の姿に戻った。
「ほう… 、今度はちゃんと仕事はしているようじゃの、アルファ。 」
バリアで攻撃が防がれただけではなく、突然、帽子が人の姿になった瞬間を目撃した彼女は驚いているようだ。ま、普通そうなる… 。
「貴様ら何者だ!
人間ではないな!
成敗してくれる!! 」
何もしてないのに何で成敗されなきゃならんのだ! と思いつつも、彼女の攻撃がスローモーションで見えないので剣をかわすだけで精一杯だ。ま、躱さなくてもバリアあるんですけどね… 。
オレたちの様子をしばらく見ていたヨーコは、何かの呪文を唱えると剣でオレに攻撃をしていた彼女の動きが急に止まった。
「くっ… 化け物どもめ… 、
どのような魔法を使った… 。」
「お主も普通の人間ではあるまい。」
「そんなことはない!
私は普通の人間だ!
そして誇り高きネストリアの騎士だ! 」
「なら、騎士道として、一対一の剣の勝負をして、負けた方が、勝った方の言うことを聞くというのはどうじゃ?
もちろん、魔法は無しじゃ。 」
「よかろう、貴様らのような化け物は私が成敗してくれる! 」
「アルファ、あれをフーガに… 。」
「マスター、右手を握って、今から言う魔法を詠唱してください… 。」
アルファに言われた通りの魔法詠唱をすると右手に刀が出てきた。
「天叢雲剣… 。
戦い方は体が覚えています… 。
剣術の記憶を解放します… 。 」
「ま、そういう事じゃから、そこの女を軽く倒してしまうと良いぞ。
一応、正々堂々とした勝負じゃ。
妾の重力魔法も解いておいた。
あと、アルファ。
フーガのバリアも解除しておくのじゃぞ。 」
やっぱ、オレが戦うのね… 。まぁ、しゃーないか。未開の地でいろいろ魔物とも戦ってきてある程度の自信はあるしな。やれるだけやってみるか。
「変わった形の剣だな。
まぁ、良い!
いざ参る!! 」
彼女が剣を構え、オレに襲いかかってきた。しかし、それは一瞬の出来事だった。スローモーションではないが、なぜかオレは彼女の剣の軌道を読むことができ、身体が勝手に彼女の剣を躱した思うと、脇腹へ峰打ちをしていた。
彼女はその場に崩れ落ち、動けなくなってしまった。オレは彼女をいわゆるお姫様抱っこをして近くのベンチに寝かせ、ヨーコに頼み彼女に回復魔法をかけてもらった。
「完全に私の負けだ… 。」
「ああ。」
「なぜ、私を助けた? 」
「別に最初から殺す気なんてないし、そもそも戦う気もない。」
「私は貴様を殺そうとしたのだぞ! 」
彼女はそう言うと黙り込んだ。そんな彼女に対し、ヨーコが口を開いた。
「なぜネストリアの騎士がシディアにいる? 」
「ネストリアもシディアも国が腐っている。
ネストリアはシディアの属国となり、金を収める事で国の安全を買っている。
それを理由に、国民には過剰な重税が課せられ、地方では餓死する子供たちまでいる。
そんな中、シディアに献上する金額以上を、税と称して集めた王族貴族だけが何事もないかの様に贅沢な生活を送っている。
以前の誇り高きネストリアの姿はもう無い… 。
一方のシディアは強力な軍事力を持つ、男尊女卑の国。
昔から女性は虐げられてきた。
ネストリアに難民として入国してくる女性は今でも大勢いるのだ。
そんな中、つい最近ミッドガルドの話を巫女から聞いた。
巫女なんて伝説だと思っていたので、私の目の前に現れただけでも驚いたのだがな。
そしてその巫女の話が本当かどうか?
それを確認するため、ミッドガルドまで旅に出る事にしたのだ。
やっとここまで辿り着いたのに… 、無念だ。 」
「どうやら、お主は相当正義感が強いようじゃの?
で、ミッドガルドに行って巫女の話が本当かどうかを確認した後、何をするつもりじゃった? 」
「まずは、巫女が言う通りの本当に平和な国であるかをこの目で確認すること。
そして、それが真実であれば、世界を平和にする力は皇帝が持っているとの事だったから、その力を見極めること。
そして、私が信じることができるような皇帝であれば、世界を統一して欲しいとお願いするつもりだった。」
「巫女がわざわざそれを伝えるという事は、やはりお主は只者ではないようじゃの。
女神の系譜かもしれぬ。
フーガ、妾は気に食わぬが彼女に口づけをするが良い。」
「はい???
突然過ぎて意味わかんないっすよ、ヨーコさん… 。
それって… 、浮気オッケーって事?? 」
「浮気をしたいのか? 」
ヨーコは笑顔でオレに言ってきたが、目は全然笑っていなかった… 。
「冗談です… 、すみません… 。 」
「妾が彼女に口づけをしろと言ったのは意味があるのじゃ。
お主がリサと口づけを交わしてから、ミネルヴァが覚醒したじゃろ?
奴は普段、リサの意思を尊重して表には出て来ぬがの。
それと同じで女神の系譜ならフーガの口づけで覚醒するかもしれぬ。 」
「そう! それなんだよ!
何でオレが口づけをするとミネルヴァが覚醒するんだ? 」
「そのへんはいろいろと事情があるのじゃ… 。」
「そっか… 。
でも、マジかよ… 。
普通、初めて会う男とキスなんて嫌がるだろ?
しかも、さっきまでオレを殺そうとしてたんだぞ。」
オレとヨーコがそんなやりとりをしているとベンチに座っていた彼女が何か呟いた。
「キ…キキ… キスするとか… 」
彼女の顔は真っ赤だった。
「……… 。
あの… 私は負けました… 。
ですから… その… 。
キ、キスしたいなら… して下さい… 」
なんだ??? このまんざらでもない感じ??? オレの考えを察したのかどうかわからんがヨーコが言った。
「女神の系譜だからじゃろ。」
意味わかんねーよ!!
「あの… 、別に無理しなくて良いですよ。
こっちが勝手に言ってるだけだから、ね。 」
「……
イ… 、イヤじゃありません…… 。
すごく不思議なんですけど… 、さっき、あなたに触れられてから、なんだか胸がドキドキしてきて… 。
あなたは、私とキスをするのが… 、嫌ですか… ? 」
久々のモテ期きたぁあああ!! って喜んでいいのかオレ… 。ただ、ヨーコは良いって言っても、優奈とリサっていう嫁がいるしなぁ… 。それに、特にエカチェリーナにバレた日には… って考えると恐ろしい… 。
「はやくせぬか。
妾とて良い気分ではないのじゃぞ… 。
覚醒のためじゃ。 」
「わかったよ。 」
意を決したようで目を閉じた彼女にオレは口づけをした。すると何となくだが、彼女の雰囲気が変わったような気がした。
「お久しぶりですね、フーガ様。 」
「えっと… どちら様ですかね… 。」
「お忘れですか?
相変わらずひどい方ですね、私はウェスタですよ。」
「ほう… 、ウェスタ、お主じゃったのか… 。」
って誰だよ!!! どうやら覚醒した彼女をヨーコも知っているようだ。相変わらず、またわけのわからん展開になってきた。




