敗北
――― …この世界には、強力な力を持った者がどれだけ存在するのだろうか… ―――
『シディア連邦』と『ジオランス共和国』の部隊が戦闘を開始したとの報告を受け、オレたちは最前線都市『アスティナ』へ向かった。神馬バリオスとクサントスを呼び出したおかげで、報告を受けた翌日にはアスティナに着くことができた。
今、オレと一緒にアスティナにいるのは戦闘能力の高い、優奈、エカチェリーナ、ヨーコ、ミウ。そして、この世界の知識をほとんど知っているリサである。リサにもわからない知識は彼女に宿っているミネルヴァが教えてくれる。オレは未だにこの世界をよく理解していない。この世界で生きていく上で、オレにとってリサは欠かせない存在なのかもしれない。残りのメンバーであるユリアナには『メイガダーヌ』、カレンとカノンの双子には『バベル』を守るよう指示してきた。
国境付近の兵士の報告によると、今現在も三国の国境『カーザス平原』で双方激しい戦闘が行われているということだった。マジかぁ… 、せっかく平和に暮らしていたのになぁ… なんで戦争とか始めちゃうかなぁ… なんてオレが一人で思っているとエカチェリーナはオレに聞いてきた。
「フーガ様、どうされます? 」
「どうするって言われても… 。
とりあえず、シディアとジオランスの戦闘が終わるまでアスティナを守るべきなんじゃない?
とばっちりを受けたら大変だし… 。」
「しかし、今なら漁夫の利でシディアの前線都市『ジルオーダ』、もしくは、ジオランスの前線都市『サーメラ』のいずれかを手に入れる絶好のチャンスですよ。」
動こうとしないオレに対しリサは進言してきた。
「う~ん… 、少し考えさせてくれない? 」
オレは別に戦争したいわけじゃないけど、他の国同士で戦争が始まってしまった。結局、誰かがこの世界を統一しない限り、争いは絶えないのかもしれない。現状維持で平和を保つにも限界があるなら、今のオレの力を使って世界を支配した方が良いのかなぁ… なんて… 。
そんなことを思っていると前線の兵士が慌てた様子で報告にやってきた。慌ただしく部屋に入ってきた兵士に対し、ヨーコは鋭い目で兵士に言った。
「何事じゃ? 陛下の御前であるぞ。」
「申し訳ございません!
ただ、至急報告を差し上げねばならない事態が起きております! 」
「申してみよ。」
「はい!
一人の女が陛下に会いたいと言って、こちらの制止を振り切り向かってきております。
ミウ様のゴーレムでさえ、すでに十体程、倒されております! 」
「ミウのゴーレムを倒すなんて、普通の人間じゃないよ! 」
ミウは少し驚いた表情で言った。
「確かに… 、しかも、たった一人でミウのゴーレムを倒すなど只者ではないのぅ… 。
どうする? フーガ」
「とにかく、その女と会ってみることにする。
無駄な攻撃はやめるよう伝えてくれ。」
そう兵士に命じて、オレたちは、こちらに向かってくる謎の女に会うことにした。そこに居たのはマントのようなもので全身を隠した一人の女だった。
「はじめまして、フーガ陛下。
私の名はエリス。
勇者ジークムントの仲間の一人でございます。」
その女はオレを見ると跪いて話かけてきた。
「で、その勇者の仲間がオレに何の用だ? 」
「はい。
陛下には、早くこの世界を支配して頂きたいという事を伝えに参りました。」
「はぁ??
世界を支配するかどうか? は別の問題として、オレが世界を支配することで、おまえたちにどういうメリットがある? 」
「メリット?
そうですね… 、強いて言うのであれば今の退屈な世界からの解放です。」
「退屈な世界? 」
「薄々、感じてはいましたが、やはり陛下は以前の記憶を失っておられるようですね… 。
陛下の復活を楽しみにしていた者はこの世界にはたくさんいるというのに… 、残念に思います… 。」
「どういう事だ?
全く意味がわからん。」
「とにかく、陛下にはこの世界を支配して頂きます。
そうすれば陛下のご意志とは関係なく私達の望む世界になりましょう… 。
宣戦布告をしたにも関わらず、陛下が全く動く様子が無かったので、シディアとジオランスの戦いは我々が誘導致しました。
今のうちに「ジルオーダ」を攻め落として頂ければと思います。
もし、動かないというのであれば、我々が陛下に変わって世界を支配し、献上致しましょう。」
「何を言っている?
仮に、オレが世界を支配して、おまえは何を望む?
それに、おまえに世界を支配する力があるのか? 」
「ふふ… 、今の世界など正直どうでも良いのです。
本気を出せば、この世界を支配するなど簡単な事でございます。
私達が見たいのは、その先の世界。
それと… 、今の退屈なこの世界を支配できる力を持っているのは陛下だけではありません… 。
試しに私の力をお見せしましょう…
『トネール! 』」
女がそう言葉を発した瞬間、オレの中で声が聞こえた。
「ダメだ!! 間に合わない! マスター!! 早く逃げて!! 」
(ゼロか… 、どうしたんだ? )
ゼロに悠長に話かけいると、オレの体に衝撃が走った。その衝撃をオレは今まで生きてきて一度も味わったことがない。言葉では言い表す事ができない激痛、痺れ… 。オレの視界は暗くなり死を覚悟した。
遠のいていく意識の中で誰かが会話をしている声が聞こえた。
「ゼロの役立たず… バカ… 」
「そんな事言ったって… 、まさかあんな奴が出てくるなんて思ってもみなかったからさ… 。」
「まぁまぁ、アルファ… 、そうゼロを責めないでやっておくれ。」
「そうだよ!
それにああいう奴からマスターを守るのはアルファの仕事だろ! 」
「私はゼータから指示を受けていない… 」
「そうだよね、僕が悪かったよ。
少しマスターの記憶が戻ってしまうかもしれないけど、アルファもマスターに接触することを許可するよ。」
「ありがとうございます… 。
ゼロのバカだけではいつも不安でしたので… 」
「バカバカ言うなー! 」
「二人とも仲良くやってください… 。
マスターがいなければ我々も存在できないのですからね… 。」
………
……
…
気が付くとオレは心配そうな顔をした四人の嫁に囲まれてベッドで寝ていたようだ。目が覚めるなり彼女たちは泣きながら抱きついてきた。何がどうなっているのか全くわからなかった。あれは夢だったのか? 現状を理解できていないオレに語りかける声があった。
「あれは夢じゃないよ、マスター。
マスターは雷撃を受けて死にかけたんだよ。」
(死にかけた?
じゃあ、今のオレは死んでないのか?
てか、それにしては、オレの身体は特に問題ないようだけど… )
「それは私の力… 。
ミネルヴァが古の回復魔法をマスターに施したこともあって、ダメージは完全に回復しました… 。
おひさしぶりです… 、マスター… 。」
(え~っと… 、ごめん… 、君は誰? )
「失礼しました… 。
私はアルファ… 。」
「実は、僕がマスターの攻撃系の力を担当しているんだよ。
そしてアルファは回復などの防御系の力を担当していると思えばわかりやすいでしょ?
とりあえず、みんなマスターが目覚めて喜んでいるようだし、僕たちは一旦消えるよ、それじゃ! 」
………
……
「一体何があったんだ? 」
オレは抱きついている嫁たちに聞いた。
「風ちゃんは、あの女、勇者の仲間とか言うエリスの雷の攻撃を受けちゃったの。
怒った優奈たちがあの女に仕返しをしようとしたら、
『陛下ならその程度では死にません。早く手当をしてあげなさい。』とか言って消えちゃったんだよ。」
「私はミネルヴァに意識を預け、風牙様に強力な回復魔法をかけたのですけど… 」
リサは静かにそう言ったあと黙ってしまった。
「リサのせいではありません… 。
気にしないで下さい… 。
ただ、ミネルヴァの回復魔法を使ったのに、三日もフーガ様の意識が戻らなかったので本当に心配致しました… 。」
エカチェリーナが泣きながらそう言った。
「フーガ… 生きておって本当に良かった。
もう妾を心配させるでないぞ… 」
そう言うとヨーコはオレに口づけをしてきた。すると残りの三人も順番に… 。自分の嫁とはいえ、この世界最高だなぁ… と、さっきまで死にかけていた事を完全に忘れ、そんな事を思っていたオレであった。
とにかく、あんな正体不明の危険な奴らにこの世界を支配されたら、たまったもんじゃないので、オレはこの世界を支配することにするに決めた。




