内政
――― …どのような世界を、オレは望んでいるのだろう… ―――
ログハウスの前に突如現れた巨大な塔の中へオレたちはヨーコに案内された。一階はもの凄い広さであり、『メイガダーヌ』にある王宮の数倍はある。ただ、お世辞にも、内部は王宮のように煌びやかなものとは言えないものであった。ヨーコは塔の内部を知り尽くしていたようで、一通りの案内が終わると外に戻ってきた。
「当時の面影は全く残っておらぬのぉ… 」
オレにはヨーコが悲しそうに見えた。
「だからこそ、フーガ様と共に再建するのですよヨーコ。」
優しい口調でエカチェリーナはヨーコにそう言った。
「果たして、再建することが本当に正しい選択なのかどうか? 未だに妾にはわからん。
じゃからこそ、妾はこの街全体を封印したのじゃ。
愚かな者が近づかぬよう、唯一、外部と接触する一本道には魔力を施し見えぬようにした。
この地で亡くなった者たちに対して、少しでも安らぎを与えることができるのであれば、と思ったからこそ季節を永遠の春にしたのじゃ… 」
「ヨーコ… 、では、なぜ、私たちは何百年もこの地を守り続けたのですか?
本当に微かな希望ではありましたが、今日の様な日が来ることを望んだからではないのですか? 」
「………
そうじゃったのぅ…
本当に正しいのかどうか? そんな事は二の次かもしれぬ… 。」
オレはここで何があったのか聞きたかったが、今はとても聞ける雰囲気ではなかった… 。
オレたちはログハウスに戻りいつもの様に席に着いていた。エカチェリーナはテレパシーの魔法でリサに語りかけていた。
「リサ、聞こえますか?
こちらの準備は整いました。
今からそちらに向かいますので準備をお願いします。」
リサへの伝達が終わると、オレたちは『メイガダーヌ』にいる彼女たちと合流することになった。ただ、『バベル』を空にするわけにはいかないのでカレンは留守番を任された。
「出でよ! バリオス、クサントス! 」
エカチェリーナはいつもの馬車を召喚した。すると優奈は初めて神馬を見たと喜んでいた。確かに普通の馬ではないとは思っていたけど… 。そんなものまで普通に存在するのね… 。確かに楽しめるわ、この世界… 。
『メイガダーヌ』へ向かうまでの道中の景色は、今までとは全く違っていた。塔の中心から最初の城壁までの間は商業都市であったかのような街並だ。今は誰も住んではいないが、とても大きな街である。そして、内側の城門を抜けると住居が立ち並ぶ地区に出た。更に外側に進んでいくと畑などもあった。『メイガダーヌ』も凄いが、それとは比較にならない程『バベル』は巨大な城塞都市だった。一番外側の城門を抜けると、いきなり冬の森林地帯に入り、見覚えのある一本道に出た。
オレたちは『メイガダーヌ』に着くと王宮でリサたちと合流した。オレたちと一緒に巫女である優奈が現れてみんな驚いていたが、事情を説明すると理解してくれた。
オレたちが『バベル』にいる間、リサとユリアナは『ルーシアン帝国』が『ミッドガルド』の属国になる事を想定して、軍の再編成、法律の改正案を練っていたようだ。軍の再編成はすでに行われていた。改正される法律は、そのまま『ミッドガルド』全体の法律にするという事で統制をとっていくようだ。リサの報告が終わると、優奈はヨーコと一緒にリサのもとへ行き、何やら話をしていた。
その日の夕方、『ルーシアン帝国』でのリサの王位継承が発表され、それと同時に独裁国家『ミッドガルド』の属国になることも発表された。
リサは事前に『ミッドガルド』の属国になった場合のメリットを、カノンに依頼しわざと噂として街に流していた。そのこともあって、『メイガダーヌ』での大きな混乱はなかった。また、ユリアナも治安部隊を編成していて、事前に反逆の芽を摘んでいたようだ。
リサとユリアナは当面、ルーシアン帝国内の経済活性、治安維持を担当することになった。アドルフによる長年の富国強兵策で疲弊した地方に対しては、首都『バベル』への移住を国民に勧め、経済が活性するよう『バベル』と『メイガダーヌ』を結ぶ一本道を大きな街道にする為の大規模な公共事業が行われた。
ミウは三大勢力の国境が接する付近、最前線都市『アスティナ』の防衛の任に就き、魔術師の指導にあたりながらゴーレムを作成し部隊を編成している。
カノン、カレンの双子とヨーコは、『バベル』で地方都市からやって来た移住者たちの管理、治安に追われていた。
エカチェリーナ、優奈とオレは、帝国内にある未開の地に入り魔物を掃討する日々を過ごしていた。
『ルーシアン帝国』が『ミッドガルド』の属国となり丁度一ヶ月後、オレたちは再び『バベル』に集結した。『バベル』にはすでに多くの住民がいて、街も活気に溢れていた。オレたちはいつものログハウスで久々に会う仲間の無事を喜びながら、それぞれの成果の報告をしていた。そんな中、なぜか優奈とヨーコの様子がおかしい。ミウに関してはいつも通りなのだが… 、なぜか褒めてオーラが強い様な気がする… 。
「ねぇ、風ちゃん!
優奈すごく頑張ったと思うんだよね。」
「あぁ、ずっと一緒にいたから優奈がよく頑張ってたのは知ってるよ。
ありがとう。」
「妾もこれだけ広い『バベル』の管理をしたのじゃ。
それはもう大変じゃったわ。」
「うん、本当にお疲れ様、ありがとうヨーコさん。」
「じゃあ、風ちゃん!
ご褒美に優奈たちのお願い聞いてもらっていい? 」
優奈がオレにおねだりしてくるなんて普通じゃない… 、何か怪しい… 。
「ああ、オレにできる事なら… 」
「フーガにできる事なら本当にやってくれるのじゃな?
約束は守るのじゃぞ、良いな? 」
普段は冷静なヨーコまで何だか様子がおかしい… すごく嫌な予感がする… 。
「あの…
私も結構頑張ったと思うんです…
厚かましいかもしれませんが、私のお願いも一つ聞いて頂けないでしょうか? 」
リサまで?? なんだ? 一体なんなんだ??
「… う~ん… 約束するよ。
でも本当にオレにできる事だけだよ! 」
オレは警戒して『できる事だけ』を強調して答えた。
オレがそう答えると、三人は顔を見合わせて「してやった」みたいな顔をしている。
「風ちゃんは優奈たち三人の事が好き? 」
「なんだよ?? いきなり!
そりゃ、まぁ… 、好きだよ… 」
「じゃあ、決まりじゃな! 」
「何が?? 」
「風ちゃん! 優奈たち三人と結婚して下さい! 」
「はぁ??? 」
「フーガ様、私たちと結婚するのは嫌ですか? 」
「いや、嫌とかじゃないけど…
オレにはもうエカチェリーナがいるし… 」
「フーガ様の仰っしゃる通りです。
久々に会ったかと思えば、何をわけのわからない事を言っているのですか。
前から何度も言っていますが、フーガ様は私の夫です。
あまりバカな事を言うのはよしてください。」
「まぁ、主がそう言うであろう事くらいはわかっておったわい。
リサ、あれを主に見せてやるがよい。」
ヨーコがそう言うとリサは一枚の紙をエカチェリーナに見せた。
「あの… 、こちらは先月、改正した法律の一部です… 」
「!!!! 」
エカチェリーナはそれを見て言葉を失っていた。
何が起こったのか気になったオレはその紙を見ると「一夫多妻制を採用する」と書かれてあった… 。
「フーガ… お主、さっき結婚するのは嫌じゃないと言っておったのぅ。」
「風ちゃんは昔から優奈を泣かすような嘘なんかつかないもんね! 」
「フーガ様、さっき私たちの事好きって言ってくれましたよね… 」
とりあえず、オレには四人の嫁ができてしまった。




