建国
――― …どのように、オレは生きていきたいのだろう… ―――
ログハウスに連れ戻されてから三日が経っていた。いつ巫女に襲われるかわからない、という事で、外には出ないようエカチェリーナに言われていた。傍から見れば、いわゆる軟禁状態だ。オレは退屈ですることがなかった。そこで、この世界で使われている文字の勉強も兼ね、図書室にあった本を数冊ピックアップして地下の寝室で読んでいた。優奈にもらったメモを見ながらだが、少しずつこの世界の文字にも慣れてきた。ただ、文字がわかったところで読みにくいという事に変わりはないが… 。
日課になりつつある読書をしていると地上の方から何かが爆発したような大きな音がした。マジかぁー! 悪い予感しかしねぇわー! そう思いながらもオレは急いでログハウスの外に出た。目の前では戦闘が繰り広げられていた。悪い予感的中しました… 。エカチェリーナとカレンは背中からコウモリの様な羽が生えていて、ヨーコの頭の上には耳があり、尻尾まで生えている。おそらく本気の戦闘モードなんであろう。そんな彼女たちが戦っている相手は二人の巫女だった。
「あ! 風ちゃーん! 」
そう言ってきた巫女の一人は優奈であった。エカチェリーナの攻撃を軽く躱しながら笑顔で手を振ってきた。あのエカチェリーナが全く相手になっていない… 。
「フーガ様!!
ここは我々が食い止めます!
早くお逃げ下さい!! 」
エカチェリーナは優奈に攻撃をしながらオレにそう言ってきた。
「逃げちゃダメだよー!
風ちゃんにお話があって来たんだからー」
相変わらず優奈からは敵意が感じられない。それに、ヨーコとカレンが二人掛りで攻撃しているもう一人の巫女も、優奈と同じように攻撃は仕掛けずにギリギリのところで躱しているだけだった。
「みんな、攻撃をやめてくれ! 」
オレはエカチェリーナ、ヨーコ、カレンに対してそう言った。
「しかしっ!!
………
わかりました… 」
エカチェリーナたちは、しぶしぶ巫女への攻撃をやめ、不安そうにオレの傍に立った。そこに優奈ともう一人の巫女が近づいてきた。
「もう!
『風ちゃんとお話がしたい』って言っただけなのに、この人たちがいきなり攻撃してくるからビックリしたよー。
優奈はまだ良いけど、お供の人は危なかったんだからね! 」
彼女は少し怒りながらそう言った。
「ごめん、優奈。
まさかこんな事になってるとは思わなくってさ…
彼女たちもオレを守ろうとしてやったことなんだ…
なんとか許してやってくれないかなぁ? 」
「ま、風ちゃんがそう言うなら許してあげても良いけど、やっぱり、ちゃんと謝ってほしいな。」
オレは優奈たちに謝るようエカチェリーナたちを促した。不本意だとは思うが彼女たち三人は優奈たちに謝罪をしてくれた。
「ちゃんと謝ってくれたから許してあげる! 」
今まで何事も無かったかのように優奈は笑顔で言った。
「それはそうと… 、優奈、話ってなんだ? 」
「そうそう!
うちのマスターから風ちゃん宛の手紙を預かってきたんだ! 」
そう言うと優奈は手紙を差し出した。その手紙はオレが慣れ親しんでいる日本語で書かれている。内容はこうだった。
「Dear 風牙
やあ、久しぶりだね風牙。
と言っても、今の君には僕が誰だかわからないだろうね。
それはそうと、この世界を楽しんでいるかい?
あとの二人はけっこう楽しんでいるみたいだよ。
今日は君が喜んでくれると思ってプレゼントを持ってきたんだ。
それは、そこにいる優奈ちゃんだ。
君に返してあげる。
今度こそ大事にしなきゃダメだぞ。
それに優奈ちゃんは僕の娘みたいなもんだからね。
それじゃ、この世界を満喫してくれることを祈っているよ。
P.S. 僕のことはそっとしておいてね」
なんだこれ?? 手紙の内容がぶっ飛んでいて理解できん!! てか、誰だよ!! まぁ、とりあえず優奈を返すと書いているけど… どういう事だ?? 手紙を読み終えたオレは優奈の顔を見た。
「ということなので、風ちゃん!
ふつつか者ですが、これからよろしくお願いします。」
優奈は三つ指をついてオレにそう言った。
「どういう事じゃ?? 」
オレたちの様子を見ていたヨーコはオレに尋ねてきた。オレは手紙を渡したが、彼女たちは日本語が全く読めないらしく理解できていない様子だった。
「こんな見たことのない文字読めないよ~! 」
カレンが言った。そういえば、この世界の文字って全く違うもんだったわ… 。
「要するに、風ちゃんは優奈と結婚するってことだよ! 」
優奈はカレンに対していつもの笑顔で言った。
「いや! そうじゃないだろ!! 」
「えー、違うのー? 」
オレと優奈がそんなやり取りをしていると妙な殺気を感じた… 。いつものパターンか… 。
「そこの巫女!
フーガ様は私の夫だ!
ミウという娘もいる!
寝ぼけたことを言うでない! 」
「え! 風ちゃん!
この気が強いヴァンパイアと結婚してるの? 」
「オレは覚えてないんだけど、そうみたいなんだ… 」
「じゃ、別れて優奈と結婚しよ! 」
「ほう… なかなか面白いことを言う。
お主とフーガが結婚するのは納得いかんが、主とフーガが離婚するというのは名案じゃのう。
フーガ、主と別れた暁には妾が妻になろう。」
「え? 何?
『九尾の狐』さんも風ちゃんの事好きなの? 」
「無論じゃ。」
「ちょっと、あなたたち! 何を自由勝手に言っているのですか! 」
「優奈!
お供の巫女さんが何か言いたそうだよ! 」
オレは彼女たちの話を遮るように、わざ大きめの声を出して話を逸らした。
「優奈様…
確かに見届けましたので私はこれで失礼致します。」
もう一人の巫女が優奈にそう告げた。
「うん! マスターによろしく伝えておいてね! 」
優奈がそう言うと巫女はその場から姿を消した。
オレたちはログハウスに戻り、テーブルを囲んで席に座った。
「私の名前は優奈、風ちゃんの幼馴染で巫女だよ。」
「私の名前はエカチェリーナ、ヴァンパイアでありフーガ様の妻です。」
「妾はヨーコ、不本意じゃが主はエカチェリーナで九尾の狐じゃ。」
「私はカレン! ミウの眷属なんだ! 」
それぞれが簡単な自己紹介をした。その後、オレは優奈にこの世界に召喚されてからの経緯を説明した。
「で、これからどうするの?
風ちゃんは世界を支配したいの? 」
「いや、別にオレは世界を支配したいとは思ってないんだけど…
ただ、普通に穏やかに暮らして行ければいいかなぁ… なんて… 」
「そのためにも、フーガ様が世界を支配すべきです。
私の言っている意味は優奈にもわかると思うのですが… 。」
「そうだね…
でも、そうしようと思うときっと大変だと思うよ。」
「そんなことは百も承知しています… 。」
そう言うと、エカチェリーナは何かを思い出したかのように黙り込んでしまった。何となく全員の雰囲気が暗くなったような気がした。
「とにかく、とりあえず今日は楽しく夕食にして早めに寝ようよ。
みんな疲れたと思うしさ… 。」
その言葉を聞いたカレンはキッチンで夕食の準備を始めた。エカチェリーナとヨーコは、カレンには任せられないと言った表情でカレンを手伝っている。優奈も何かしないといけないと思ったのか? 後を追っていった。優奈の天真爛漫な性格もあってか、意外と仲良くコミュニケーションが取れているようでオレは安心した。夕食を終えた後、オレたちはそれぞれ地下の寝室に戻り寝ることにした。
その翌日からは優奈もヨーコたちの手伝いをしていた。エカチェリーナも巫女からの脅威が無くなったこともあり、オレの護衛から外れた。彼女もヨーコたちと一緒に何かをする為に外へ出て行った。何をしているのか? とオレが聞いても誰も教えてくれないので、日課になりつつある読書をすることにした。ただ今までと違うのは、外に出て心地よい日差しの中、ウッドデッキに出て本を読んでいることである。そして優奈がここに来て二日が経った。
「フーガ様、準備が整いました。」
「準備?? 」
エカチェリーナはオレにそう告げたが、何の事かオレには全くわからない。
「ヨーコお願いします。」
エカチェリーナがそう言うと、ヨーコは地下に向かったようだ。しばらくすると、地震が起きた。しかし、彼女たちは平然としている。すると、見えるか見えないか、という程、遠くの方に城壁が現れた。突然現れたというよりも、地下から生えてきたという表現の方が正しい。更に数分後には、今度はその城壁の内側にも城壁が現れた。そして最後に、ログハウスのすぐ近くから巨大な塔が現れた。オレの知っている超高層ビル並みの高さだ。塔の全体が地上に出てきたと思うと同時に地震はおさまり、ヨーコも地下から戻ってきた。オレは信じられない出来事に唖然としていた。
「すごーい!!
ねぇねぇ、風ちゃん! 見て見てー!
この塔とかすっごく高いよねー! 」
「まさか本当にこんなのが出てくるとは思わなかったよ~! 」
優奈がはしゃぎ、カレンが驚きの表情を見せている中、冷静なエカチェリーナとヨーコはオレの前に跪いた。
「フーガ様、こちらがあなた様が治める国
独裁国家『ミッドガルド』の首都『バベル』の真の姿でございます。」
とりあえず、オレは一国の独裁者になってしまったようだ… 。




