再会
――― …どのようにして、オレは今後生きていくのだろう… ―――
首都『メイガダーヌ』へ来て二日目の朝、オレは部屋のドアをノックする音で目が覚めた。入ってきたのはユリアナであった。
「おはようございます。フーガ様。」
「あ、おはようございます。ユリアナさん。」
「紅茶をお持ち致しました。」
「あ、なんか、すみません… せっかくなんで頂きます。」
オレは部屋に置かれていた椅子に座り、テーブルの上にあるユリアナが用意してくれた紅茶を飲んだ。
………
彼女はテーブルの傍に立ったまま、黙ってオレを見ている。
「あの… 、どうかしたんですか? 」
「いえ… 」
じっと見られていると、なんだか紅茶の味がしない… 。しばらくすると、ユリアナは意を決したかのように口を開いた。
「実は… 、お伺いしたい事があるのですが、よろしいでしょうか? 」
「まぁ~、オレに答えられる事なら答えますけど…何ですか? 」
「フーガ様は、なぜ世界を支配したいのですか? 」
「え??? 」
確かに!!! 間違いない!! なんでオレがこの世界を支配しなきゃならんのだ!! この世界に来てから今日はまだ四日目の朝ですよぉお!! 一気に色々あり過ぎて、わけわからんくなって、気づいたら世界の強国の首都乗っ取って、属国にする事まで決まってるじゃねぇかぁあああ! オレが、この世界に召喚されてから今まで起こった出来事の流れを頭の中で考えているとユリアナは静かに言った。
「申し訳ございません。
愚問でした。
余りにも私の知る魔神の伝説と印象が違ったものでしたから… 。」
そういえば、『伝説の魔神』って何が伝説なのかオレは知らない、オレの事なのに… 。
「ユリアナさんが知っている伝説とはどんな話なんですか? 」
「私も昔、リサ様から少し教えて頂いただけなので、詳しい話までは知りません。
ただ、リサ様から聞いた話だと、旧世界において、破壊の限りを尽くした魔神だそうです。
そして、世界のほとんどを壊滅させた後、忽然と姿を消したと聞いています。」
「… 」
え! マジかよ! オレってそんな超悪者だったのかぁああ!! 全然覚えてねぇわ…
「伝説は伝説ですからね…
少なくとも、今のオレはそんな事するつもりはありませんよ。」
とりあえず、オレは今の気持ちをユリアナに伝えた。
「………
確かにそうかもしれません… 。
伝説のようにならない事を願っております。
それでは失礼致します。」
そう言ってユリアナは部屋を出ていこうとした。
「あ! 待って下さい、ユリアナさん! 」
「はい。何か御用でしょうか? 」
「え~っと… 、何かお金を稼ぐことができるような仕事ってないですか? 」
ユリアナはきょとんとした顔でオレを見ている。
「お金… でしょうか??
お金なら、仰って頂ければすぐにでもご用意致しますが… 。」
「いやいやいや… そんなの貰えないですよ… 」
「………
失礼ですが、何に使われるご予定でしょうか?
差し支えなければ教えて頂きたいのですが… 。」
「いや、実は… 、
昨日の夜、みんなで街へ出かけた時、エカチェリーナにいろいろと買ってもらってしまって…
恥ずかしい事に、今オレお金持ってないんですよね。
なんで、何か仕事してお返しでもしようなぁ… なんて… 」
「………
本当に伝説とは全く違うお方なのですね。」
ユリアナは微笑んでそう言った。
「それでしたら、少ないかもしれませんが、こちらをお渡し致します。」
そう言ってユリアナは、自分の財布から一万と書かれた紙幣を十数枚オレに差し出した。
「いや、だから… そういうことじゃなくて… 」
「これは、昨日、魔神の力を見せて頂いたお礼として受け取って下さい。
フーガ様のお役に立ちたいとは思いますが、こちらで仕事を紹介する事はできません。
というよりも、フーガ様に仕事をさせるなどあり得ないことですから。
…
ただ、街に行けば仕事はあると思います。
ですので、それまでの活動資金として使ってみてはいかがですか? 」
「いや、でもそれって結構な大金じゃないですか…
そんなの受け取れないですって… 」
「大丈夫です。
経費で落としますから。
こう見えても私、この国の参謀総長ですよ。」
そういって強引にお金をオレに渡すと一礼をして部屋から出て行ってしまった。
…
まぁ、せっかくだしもらっておくか。仕事して稼いだらユリアナにも何かお返しをしようと思った。
オレは昨日エカチェリーナに買ってもらったコートを来て街に出てみることにした。
さっそく仕事を探そうと思ったがいきなり問題が発生した。オレはこの世界の文字が全く読めないのだ。言葉は日本語で通じるので全く問題はない。ちなみに、昨日の夜の買い物でわかった事なのだが、この世界で使われている数字はアラビア数字であり、物価もオレがいた日本と似たようなものであった。文字がわからないオレは飲食店に入り、アルバイトをさせてくれと直接店の人に掛け合ってみたのだが、今度は身分が証明できないからダメだと言われた。今のオレは住所不定、無職なのである。この響き凹むわぁ… 。
気分転換にカフェに入った。文字は読めないが普通に注文することはでき、支払いも問題なくできた。とりあえず、どうしたら仕事ができるのか? という事を考えながらも、少し諦めの感じになってオレは、ぼーっとしていた。
「ねぇ! そこのカッコいいお兄さん! 相席してもいいですか? 」
突然、後ろから掛けられた声に「まさかな… 」と思いつつ後ろを振り返ると、そこに立っていたのは、ポニーテールの綺麗で長い黒髪をした可愛らしい巫女であった。
「!!!! 」
オレは驚きの余りに絶句した。
「どうしたの?
鳩が豆鉄砲を食らったような顔して? 」
彼女は笑いながら言った。
「… 優奈…… なのか… 」
「何言ってるの??
まさか風ちゃん!!
こんなにキュートでカワイイ幼馴染の顔を忘れちゃったの?
もしそうだったら、優奈ちょっと信じられないよ~ 」
彼女は呆れた顔をしながら、オレと同じテーブルのイスに座った。
「本当に… 優奈なのか… ? 」
「風ちゃん、しつこい男の子は嫌われちゃうんだよ。
って言っても、優奈が風ちゃんの側にちゃんと居てあげるけどね! 」
可愛らしい笑顔で彼女はそう言ってくれた。
確かに見た目も、声も、喋り方もオレの知っている幼馴染の優奈だ。しかし、オレは彼女が幼馴染の優奈であるとどうしても信じられなかった。なぜ、この異世界に優奈がいるのか? という事も、もちろんそうなのだが、オレの記憶の中での優奈は四年前に死亡していて、もうこの世には居ないはずだからである。
「なぁ… 優奈… 」
「なになに? 風ちゃん」
オレは無言で優奈の頬を軽く人差し指でツンツンした。
「確かに優奈の感触だわ… 」
触れることができたので、幻覚でも幽霊でもないようだ。それに小さい頃からいつもそうしてきた感触と同じだった。
「ちょっと~、風ちゃんの私を確認する判断基準てソコなのぉ~? 」
冗談ぽく怒りながら彼女は言った。
もしかすると何者かが優奈に化けているのか? そう思ったオレは、彼女が本当に優奈であるかを探るように幼い頃からの話をしてみたが、どの話もオレの知っている記憶通りに答えてきた。オレはもうこれ以上、彼女が本物の優奈であるかどうか? を見極めることができる材料がないと思った。
とりあえず、オレは彼女が本物の幼馴染みであると信じてみた。




