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93話

 城門を潜って真っ直ぐ娼館に急いで向かう。


 特に急ぐ必要ももう無いのだが、きっと二人は気を揉んでいるだろう。


 早く安心させてやろう。


 不思議だ……。


 なんでこんなに冷静なのだろう?


 怒りは娼館での傭兵の時以外には感じていなかった。


 冷静に損得勘定だけで連中を排除した。


 そして人を手に掛けた直後も今も心が凪いでいる。


 あ、いや、娼館の支配人には怒りを感じているか。


 確かに傭兵相手では手に余ったのだろうが、


 それでも自分が持て余す様な傭兵に身を委ねるのは何倍も辛く危険だ。


 その辺りの事をキチンと理解させなければならない。


 奴の店の女性達の為にも、骨身に沁みて貰うとしよう。


 あれこれ考えている内に娼館に到着する。


 篝火を見て、松明をそのままにしてきた事を思い出すが放っておく事にする。


 面倒だし、腹減ったし。



 酒場は打って変わって鳴りを潜めている。


 さっきまでの喧噪は何処に行ったのやら。


 ドアを開けて入るとシンッと声が止んだ。


 そのまま誰も声も上げずに沈黙が続く。


 まあ、傭兵と揉めた張本人が無傷であっさり帰って来たらこうなるか。


「リュート様、あの……お怪我は……?」


「いや? 無傷だが?」


 支配人が恐る恐る話し掛けてくる。


 自分の差配のミスで起きた揉め事だ、気には成るだろう。


 まあ、我関せずな態度が取れないから起きたトラブルなのだがな。


「それより腹が減った、これを焼いて部屋に持ってきてくれ、あんたが直接。ついでにワインも頼む」


 インベントリから牛乳漬けのレバーと空の壺に入れた牛肉の塊を出して差し出す。


(かしこ)まりました……」


 荷物を受け取ると頭を下げて奥に引っ込んでいく。


 周囲の小声も再開されているが、妙な雰囲気だ。


 視線の種類なんか分かるはずも無いから、さっさと三階の部屋に戻るとしよう。


 二階を通り過ぎる時に最初の傭兵の事を思い出したが、どうでも良いので放置して階段を上がり続ける。


 廊下を通っていつもの部屋に着くとドアをノックする。


「エミリー、アン、ジュリア居るか?」


 一声掛けると部屋の中でバタバタと音がしてドアが勢い良く開かれる。


 人影が飛び出してきてしがみ付かれる。


 名前を確認するまでも無いがエミリーだった。


 早く安心させないと、と思って急ぎ足で戻ってきたが、良く考えると三人は俺が傭兵等と出て行った事は知らないのだったな。


 勢いに任せてあれこれ仕出かしたから、色々と抜けていたらしい。


 苦笑しながらエミリーの頭を撫でる。


「エミリー、部屋に入れてくれると嬉しいのだがな?」


 そう笑って話し掛けると慌てて身を離して部屋に招き入れてくれる。


 後ろ手でドアに閂を掛けてソファーに向かう。


 ソファーに腰掛けるとエミリーとアンが左右に座って身を寄せてくる。


 ジュリアは腰掛けずに正面に立ったままでいるつもりらしい。


 それらを見て一息吐いてから話し始める。


「まず三人共、騒がせてすまなかった。エミリー、遅くなったせいで酷い目に遭わせてしまった、すまない」


 腰掛けたままで頭を下げる。


「いいえ、いいえ、そんな事よりリュート様は? お怪我はされていませんか?」


「いや、無傷だが……」


 何を慌てているのだろう?


 首を傾げているとアンが言葉を継いで話し始める。


「リュート様が他の傭兵達と出て行ったのは知っています、だから……」


 ん? エミリーもアンも三階に上がらせたから知らないはずだが。


 あ、そうかジュリアが見ていたのか。


 と言う事は時間が掛かって心配していたのではなくて、俺の身を案じていたのか。


 余計に悪い事をしたな。


「余計に心配を掛けたらしいな、すまない。もう謝る事しか出来ないな……」


 そう苦笑して再度頭を下げる。


「リュート様にお怪我が無ければそれで……」


「俺は大丈夫だから、安心して良いんだ、もう大丈夫だ」


 笑って二人の頭を撫でる。


 さて、そろそろ本題に入った方が良いだろう。


 支配人が来てからじゃ話せないしな。


「三人に話しておくな? 今日この場で皆を身請けする事にしたから。あんな事後数日でも起きて貰っては困る」


 そう断言して反応を窺う。


 暫くの沈黙が続くがそれぞれ口を開く。


「私は妹も一緒ならお受けいたします」


「私も姉と一緒なら……」


「私は……本当にご迷惑ではありませんか?今日もあんな事に成ってしまって……」


「今日の事、エミリーに責任は無いだろう? 迷惑なんて思わない。三人が問題なければこの後来る支配人と話を付けるが良いな?」


「「「はい!」」」


 綺麗にハモった返事に笑顔で頷く。


 それからは力を抜いた雑談をしながら料理が来るのを待つ。


「アン、辛かったら横に成っていても良いんだぞ? 後、少しだけ眩暈が軽減する食事を今日は頼んで有るからな」


「ありがとうございます、少しだけ横に成らせていただきますね」


 そう言ってアンはベッドに移動する。


 あの騒動の時、アンも相当に慌てていたし心労が有っただろう。


 それでも俺の帰りをじっと待っていたのだと思うとやはり優しい娘だと思う。


「ジュリアも今夜はこの部屋に泊まった方が良いな、俺は警戒の為にソファーで寝るから」


「え? でも、それは、あの、でも……」


 慌て、困ってるが今夜はそれしか無いだろうさ、な?


 困った顔が見れないのが残念だ。


「……でも、ドット絵」

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