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92話

残酷描写が有ります。

苦手な方は読み飛ばして下さい。

 城門脇のモンスターの出ない安全圏で立ち止まり振り返る。


 松明の灯りが二つ、名前を確認すると相手は四人。


 俺の松明と合わせればそれなりの光源に成る。


 これなら連中も戦えると言う判断だろう。


 と言うか、松明を持った俺は連中から見たら良い的だろう。


「こんな所まで俺達を連れて来て、馬鹿か? お前」


「店に迷惑は掛けれないし、ここなら狭く無いし、な」


 そう言いながら空いた右手にコバルトの粉末袋をインベントリから出現させる。


 コバルトの粉末は、可燃性は低いが目潰し位には成る。


 それに今更使い道も無いし、問題ないだろう。


 この世界を俺は信じていない。


 モラルも常識も時代、地域、歴史、経済、治安で変化する物だと思う。


 そして、この世界を俺は信じた瞬間に足元を掬われる、そう確信している。


 そんな世界の住人の、傭兵と言う輩は特に危うい存在だと思う。


 殺気なんて分からないが、少なくとも無事には帰してくれそうに無い雰囲気だし。


 そして、それは俺も同じだ。


 遠慮する意味も無いし、何よりも俺は今キレている。


 野放しにすればエミリー達を狙ってくるのは目に見えている。


 だからな? 無事に帰さないのは俺の方なんだよ、そう心の中で呟く。


「お前等、やっちまえ……」


 その声のする場所を聞く限り、一番後ろで松明を持った男がリーダーらしい。


 松明を持った奴を含めて三人が俺を囲む様に移動する。


 流石傭兵、人間相手に躊躇が無いのが感覚で分かる。


 そして俺はこいつ等を人間とは認識していない。


 ドット絵の何か、だ。


 故に恐れも何も感じない。


 第一、自分を殺しに掛かってくる相手が人間か、モンスターか、に違いは無い。


 右手の指だけで袋の紐を解いて口を開ける。

 松明をリーダーの男に思いきり投げ付けて一歩退く。

 右手の袋はもう一人の松明を持つ傭兵の顔に投げる。

 驚きの声が二か所で上がり、俺はインベントリからハルバードを取り出して表示された名前の下を横薙ぎに振るう。

 俺の優位性、それは名前が必ず頭上に表示される為に、位置が正確に認識出来る事だ。

 肉と骨の感触が掌に伝わる。

 首が飛んだと思う。

 今日戦ったハウリング・ベアより耐久力は低いのが分かる。

 直ぐ様立ち位置を男の身体で松明の灯りが遮られる場所に移動してハルバードを突き出す。

 ハルバードの槍の穂先を名前の真下に突き入れるとくぐもった声が漏れる。

 柄を捻って傷口を抉ってから引き抜く。

 松明を持った男は狙い通りに目潰しが効いたのか、動きを止めている。

 踏み込んでその男の首にもハルバードを振るう。

 ガシャンと言う音と鉄を打ち合わせた手応えに防がれたのが分かる。

 互いに飛び退いて距離を取る。

「やるじゃねえか……、ちっ、二人もやられちまった……」

 リーダーの男が割って入ったらしい。

 判断が早い。

 松明を投げ付けてから十秒程しか経っていないのに、もう参戦してくるか。

 腕の立つ傭兵なのだろう。

「人間相手に躊躇いもねえ……、お前なにもんだ?」

「自分の女に手を上げられてキレた唯の男だが?」

「たかが娼婦の為に、なんでそこまでする?」

「自分の女の尊厳を守るのが男だろ? なら躊躇う理由は無いな」

 そう言い切ってハルバードを振るう。

 相手も剣か何かで防いでくる。

 間合いとしては俺の方が数十㎝長い分有利では有る。

 何度か一方的に斧刃で畳み掛けてみるが全て防がれる。

 どうするか少し考えて口角を上げる。

 今までより二歩間合いを詰めて斧刃と、反対側の石突で左右から攻め立てる。

 穂先だけの攻撃では攻撃速度はこれ以上上げられないが、石突と交互織り交ぜると手数は倍に成る。

 防がれた時に生じる反発力を取り込む様にして次の攻撃に生かすやり方だ。

 詳しくは知らないが、薙刀も含めた長柄の武器は古今東西共通した物だと思う。

 ステータスに物を言わせて攻め立てるがなかなかに粘る。

 顔も狙えば、足元も狙う。

 火花を散らしながら、両手剣で良く凌ぐものだと感心する。

 対人戦闘のプロと言うのは伊達では無いのだろう。

 それでも何十合と打ち合わせればパターンの摺り込みは十分だろう。

 思い切り上段から真下に振り下ろすと相手は剣を横にして防ごうとするのが分かる。

 柄を捻って、斧刃とは逆向きにして叩き付ける。

 穂先が肉を裂く感触が伝わってきた。


 薄闇の中、そしてドット絵で視認は出来ないが、ピック部分が頭に食い込んだのが分かる。


「ハルバードを長柄の斧だと思い込まされたらこう成るだろうさ……」


 連続で上下左右から攻め立てて、意識の中から俺の武器の形状を忘れさせただけだ。


 そんな単純な手はこの夜の街の外と言う闇の中だから使える手では有るが。


 ドサッとリーダーが音を立てて倒れると、近くで悲鳴が上がる。


 もう一人の松明持ちが手付かずだったな。


 リーダーが意外と粘るせいで忘れていた。


 地面を蹴る音が聞こえる、走って逃げるつもりらしい。


 ハルバードを手放して槍を取り出す。

 昼間散々投げ続けた投擲を、名前の真下に向けて全力で行う。

 短いギャンと言う悲鳴が上がったがそのまま静かに成った。


 静寂の中にシステム音が鳴る。


 Lvが上がったらしい。


 やはり人間相手でもLvは上がるか。


 肺の中に溜まった不快感に染まった息を吐く。


 想像以上に罪悪感や嫌悪感を覚えていない自分に、違和感が有る。


 予想はしていたが……。


 壊れているとか人格面に問題が有るのも事実だが、一番大きいのはこの視界に引っ張られているのだろ

うと思う。


 現実味の無い視覚は無意識に他者を無視したり、認識から排除する。


 少なくともこの連中を、俺はNPCか人型のモンスターとして駆除した。


 溜息を一つ吐いて傭兵の遺体をインベントリに仕舞う。


 明日、バイト・アリゲーターの河に投げ込んで処理しよう。


 なんだか、遺体処理に野生動物を使う犯罪者な気分だ。


 ん? いや、その物か。


 まあ、過剰防衛では有るが、当面の俺の命の危険と、後々の俺達の命の危機を考えれば、他の選択肢も無かった訳だし。


 ハルバードと槍を回収して帰る事にする。


 城門を潜って真っ直ぐ娼館に向かう。


 さて、後はあの支配人には反省と後悔をして貰おうか。


 エミリー達を娼館に居させるのも我慢ならないし、同じ事が起きても困る。


 さて、どれだけ迷惑料を積ませようかな?


 泣き顔が見られないのが、残念だ。


 きっと性格の悪い笑顔してるんだろうな、俺……。


 でも、ドット絵。

今回は主人公の人格破綻が明確に出ました。

優先順位が定まると躊躇わない奴ですね。

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