90話
ふと気に成る事が有る。
獣系のボスモンスターとは遭遇したが、ゴブリンやコボルトのボスには遭遇しなかった。
何か理由は有るのだろうか?
ゴブリンやコボルトの上位種がこの周囲に居ないのかも知れない。
故に人型モンスターのボスに遭遇しない可能性は有る。
しかし、獣系のボスには毎回痛い目に遭わされている。
一回り以上大きいボスモンスターは厄介だと思う。
攻撃パターンはほぼ同じでも、サイズが違うだけで脅威度が跳ね上がる。
キチンと警戒して、しっかり予測して立ち回りも工夫が必要だ。
「目指せ、ノーダメージ撃破、か」
再度深呼吸をして、己を奮い立たせて探索を再開する。
息を殺して、枝葉を揺らさない様に慎重に移動しながらモンスターを捜索する。
数分移動するだけで発見した。
遠目に見ると熊らしきドットが地面に頭を近づけて何かをしている。
何かを食べているのだろうか?
目を細めて見るとハウリング・ベアとその下にディアと出ている。
「ディア、ディア……、鹿か。モンスターも獲物を捕って食べる訳か……」
それは負ければ俺自身も殺されるだけじゃなく、喰われると言う事だ。
心底から来る怖気に身震いをしてハルバードの石突を地面に擦ってしまう。
遠さとドット絵で見分けは付かないが確信する。
見付かった、と。
獣道を駆けてハルバードが振れるだけのスペースが有る所まで走る。
構えを取ってハウリング・ベアを待ち構える。
食事の邪魔をされた動物は激怒すると言うが、まさしくそんな感じだろう。
唸り声と咆哮を交互に繰り返して突進してくる。
それは俺にとって極めて都合が良い展開だ。
一歩飛び退いて眉間にハルバードを叩き込む。
深く食い込んだ斧刃は一撃でハウリング・ベアを絶命させる。
ハウリング・ベアを捜索し、発見しては倒して、を繰り返す内に森の中が薄暗くなってきた。
暗闇の森で戦うのも危険なので切り上げる事にする。
来た道を戻りながら遭遇するモンスターを排除して森を出ると空は紺色に成りかけていた。
急いで街に戻る事にする。
道すがらインベントリの確認をしながら足を進める。
ハウリング・ベアの毛皮65枚、ハウリング・ベアの胆嚢1個、金貨3枚銀貨96枚が今日の成果だった。
随分と遅くなってしまった、今日は毛皮の買い取りには行かずに宿に戻る事にする。
森の中は時間経過が判別しにくいのが難点だ。
帰り道も、街まで一時間以上掛かるのも面倒では有る。
前に考えていた馬も考慮に入れる必要が有るが、これからは三、四人に増えるなら馬を一頭だけでは意味が無い。
「後数日は我慢我慢っと……」
独り言を呟きながら街道を進む。
遠目に街が見えてくる。
頭上は星の無い濃紺よりも濃い夜の空だ。
この世界にも星座が有ったり、神話が有ったりするのだろうか?
多分有るだろう、神話の無い文明も文化も民族も無いのだから。
帰ったら二人に聞いてみよう。
ようやく街に到着した。
ハルバードをインベントリに仕舞って、腰に剣を改めて吊るす。
刃をむき出しにして街は歩けないからな。
城門を潜って街に入り娼館に向かう。
夜に成ると通行人もほとんど居ない、静かな街。
屋台の類も引き上げて音だけで捉えると眠った街と言う感じがする。
所々、窓から漏れる灯りが人々の営みの場が街から家に移ったのだ。
俺は俺で毎日毎晩娼館に帰る生活。
日本人的には爛れた暮らしだろうが、今更では有る。
あれこれ考え事をしながら歩いて行くと娼館が見えてくる。
帰ってきた、そんな気分に娼館を見て成るのも変な話だ、と苦笑を浮かべながら中に入る。
いつもガヤガヤしている一階の酒場だが、今日は一際騒がしい。
耳に着く声は上機嫌に周りを威圧する様なガラの悪い感じだ。
ハンターの一団だろうか?首を傾げながらエミリーを探して辺りを見回す。
「リュート様!」
この声はアンか?起きてきて大丈夫なのだろうか?
血抜きをしているレバーの入った壺を出そうとするとアンが切迫した声を繰り返す。
「リュート様、エミリーさんが!」
「エミリーがどうした?」
眉を顰めてアンに尋ねる。
何か良くない事に成っているらしい事だけは分かる。
「強引な傭兵に……」
は? エミリーとアンは俺が押さえているはずだ。
それがなんでエミリーが客の相手をしているんだ?
「アン、エミリーは何処だ?」
「二階の部屋に……」
「支配人! どう言う事だ!?」
どこかに居るだろう支配人を、声を張って呼び出す。
怒りが込み上げてくる、独占欲?執着心?嫉妬心?どれでも良いし、全部だろう。
腹の底から湧いてくる怒りが声に篭っているだろう、辺りが一時静まり返る。
「リュート様、いつもありがとうございます。申し訳ありません本日はエミリーに客がっ」
近寄ってきた支配人が口を開くが、言い終わる前に襟首を掴んでしまう。
「どう言う事だ? 俺はエミリーとアンを前金で押さえているはずだな?それがなんで他の客を取らされている?」
俺は今どんな顔をしているだろう?多分眉を怒らせて怖い顔をしているだろう。
「申し訳ありません、相手が傭兵で逆らえず……」
「もう良い、アン案内を!」
「はいっ!」
支配人の相手をしている暇も余裕も無い。
アンの案内で二階の一室の前まで急ぎ足で向かう。
ドアをノックしようと手を上げると部屋から声が聞こえる。
「嫌です、私もう身請けされるのです、お願いです止めて下さい」
「煩せえ、俺は金を払った、お前は俺に抱かれる、それだけだろうが」
「私はもう、キャッ!」
ああ……、ノックして部屋に入るとしよう。
足を上げてのっぺりとした茶色いドアを蹴り付ける。
生々しい悲鳴と相反して見えるのはいつもと同じ。
でも、ドット絵!




