9話
夕食を平らげて宿を出る。
酒場でモンスターの分布や、武器情報、仲間作りが可能かを調べる事にする。
正直、スキルツリーの魔法は考えて居ない。
やっぱり戦ってる実感は欲しいし、これ以上得体の知れない物を増やしたくない。
ラノベの異世界物だと皆魔法を好むみたいだが、この環境だとどうなんだろうな?
日本人だと体育で剣道を軽く習う人も多いから、剣の方が馴染みそうだし。
体育会系思考だが、命のやり取りは手応えが欲しい。
ん?俺明日以降の事考えてる?
いやいや、夢だったら起きた時に恥ずかしいだろ。
と否定しつつ、どう転ぶか分からないから思い付く限り想定して行こう。
城門近くの酒場までの距離を取り留めもない事を考え続ける。
酒場は賑わって居る様だ。
ドアを開ける前から喧騒が外まで漏れている。
中に入ると明るい店内には丸テーブルがいくつも有り、沢山の人が酒を呑み、賑やかに何かを自慢し合っている。
カウンターの空いた席に座るとバーテンダーか酒場の店主かが注文を聞いてくる。
「冷えてたらビールかエール、無ければ蒸留酒を」
温いビールは流石に呑みたくないからな。
「生憎冷たい酒は無いから、こっちだ、銅貨4枚だ」
と小振りのタンブラーが目の前に置かれる。
代金の銅貨4枚を渡す。
ふむ、瓶売りしてるなら井戸に浸けておく位しか無いか。
山間の湧水では無いからそこまで冷えないかも知れないが。
タンブラーから一口酒を含む、甘味の違いからウィスキーだと思う。
「ここはモンスター退治の専門家が集まる店だと聞いたが」
目の前のバーテンダーに話しかける。
「兄ちゃんもハンター志望かい?」
「まあね、他に出来る事を知らないからね」
「他に仲間は? 居ないならどこかグループに入れてもらえ」
「今の所ソロだね。仲間探しか」
やはり、パーティーが当たり前らしい。
「兄ちゃんレベルは? どんなモンスター倒してた?」
釣り合いの取れるパーティーを紹介してくれるらしい。
「今レベル4だ。ネズミと蜂と狼位だ、まだ素人だね」
「レベル何かは倒せば上がる。しかし、レベル4でシャープウルフを倒し切るとは無茶な野郎だ」
狼はシャープウルフと言うらしい、レベルも5以上らしい。
「この辺りでシャープウルフの次は何が狙い目かな?」
「ヘビーカウ辺りか、硬くてタフで強くはないが倒し切るのに時間が懸かる。ちょっと待ってな」
とバーテンダーはカウンターから出てあるテーブルに向かう。
少しするとバーテンダーともう一人連れ立って人が来た。
ん~、多分男、パーティーリーダーだろうか?
「待たせたな、こいつはカイル、レベル15のグループのリーダーだ」
紹介されたら自己紹介しなければ。
立ち上がって右手を差し出す。
「新米のハンターで、……リュート、レベル4です」
何故だろう、龍人と名乗るのに抵抗が有った。
何だろう、切り分けないと日本人に戻れない、そんな予感がしたんだ。
とは言え「タツヒト→リュート」は安直で厨二過ぎるか。
名乗ってしまったから、今更だが。
「リュート、良かったら俺達と呑まないか?お互いに組めるか確かめ無いとな」
カイルと名乗る男は明るく誘ってくる。
「ありがとう、喜んで」
カウンターからカイル一行のテーブルに移動する。
「まあ、座ってくれ。リュート、ここに居るのが俺の仲間だ」
カイルの隣に座ると順々に紹介される。
前衛盾持ちのアダム、両手剣のトビー、弓使いのジョー。
驚いた事にジョーは女性らしい。
あ、ジョセフィーヌの愛称か。
「リュートだ、まだレベル4だから武器は決めてない」
そこからはメンバーの拘り蘊蓄大会だ。
やれ両手剣の迫力がとか、盾職の男らしさとか、矢の軌道の美しさとか。
うん、参考に全くならんわ。
取り合えずレベル7まで上げて、武器屋を見て考えてると返事をした。
もしかしたら宿で寝たら夢が終わるかも知れないしな。
往生際が悪いとは思うが、簡単に開き直って異世界だかゲームだかに居座れる程、故郷に絶望していないのだから当然だ。
不満が無い訳でも、世界一幸せでも無いが、住み慣れた故郷とはそう言う物だ。
この世界も楽しいとは思う。
戦ってレベルが上がれば確実に強くなる。
努力は裏切らないと言うが、目に見えて成果が分かるのは正直羨ましくも有る。
だが、やはりこの世界は長居出来ない。
どんなに素晴らしくても、俺の本音は。
「でも、ドット絵!!」