8話
俺守宮龍人は困って居る。
前触れも無く謎な世界に居り、その世界が夢なのかゲームなのか、まさか異世界なのかも分からないのだ。
一番困るのは視覚情報だ。
俺の目にはこの世界は現実味を感じられない。
視覚以外の五感は正常に機能してると思う。
血の臭いも血の味も肉を裂く感触も断末魔の悲鳴も俺には確かに届く。
こんな言い方をするとサイコだと言われるな。
訂正しよう、現実だと思える世界だ、ここは。
ただ一点を除いて。
「でも、ドット絵!!」
手で触ると麻布の服だと分かる。
だが、目で見るとゲームのアイテムにしか見えないんだ。
取り合えず買ってきた綿の服を着てみる。
触った感じだと頭から被るタイプ、ボタンは無い。首元は紐かな?
多分、着れた。多分。
視覚情報の当てに成らない、かなり不便だ。
靴の左右さえ俺には見定める事が出来ない訳だ。
半端に見えている、と言うのは厄介な物だ。
いや、この世界が異世界やゲームの中なら見えなければ生きる事が出来ないか。
兎に角、俺は目が醒めるか、ゲームの中から出るか、日本に帰るまで生き延びる必要が有る。
先ず何処から情報を集められるかの情報を集めよう。
何処までも遠回りで先は見えないが。
そんな自分に言い聞かせる様な思考を繰り返していると、ドアの向こうから声を掛けられる。
「お客さん、飯の時間だよ、降りといで」
今の声は女将さんだろう、多分。
取り合えず降りて夕食だ。
同時に冒険者とかハンターとかそんな人が集まる場所を聞こう。
宿の一階は酒場に成って居て、食事もそこで出して居る様だ。
適当にテーブルに着くと女将さんが温かい料理を出してくれる。
鳥の半身を食べただけの腹は既に空腹だ。
「今日はシチューと、揚げた魚とパンだよ」
既に懲りてる俺は口を開かずに女将さんの言葉聞き流す。
多分パンと思われる物を手に取りながら質問をする。
「街の周辺のモンスターを退治してる専門の人は居るんですか?」
固いパンを割って一口かじる。
酸味が有る、カンパーニュ見たいな感じだ。
シチューかスープが無いと固いし癖が強すぎるパンだ。
二次発酵は有るらしい。
「モンスターとか害獣駆除はハンター連中がやってるよ」
やはり居るは居るらしい。
後はたむろしてる酒場か組合所が分ければ良い。
俺が1つ頷くと女将さんは続ける。
「城門脇のデカイ酒場がハンター連中の溜まり場だよ」
組織的な物かは敢えて聞かない。
行けば分かるし、知らない事が不自然なら事が面倒に成る。
食べたら行ってみるか、酒場ならまだ人も居るだろう。
さて、夕食に向き合って食べるとしよう。
目の前には多分揚げた魚の茶色い四角と白い多分クリームシチューのドット絵。
銀色の長方形は多分スプーンとかフォークだろう。
手探りでスプーンを選んでシチューを一口。
美味い、ジックリ煮込まれた濃厚な味だ。
舌に触るのはニンジンの様な味だ。
うん、闇鍋だな、これじゃ……。
想像してみて欲しい、口に入れるまで何か分からない食事の恐怖を。
美味いんだ、美味いと感じてるんだよ?
でも俺の心の声はやっぱり。
「でも、ドット絵!!」




