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81話

遅くなってしまいました。

申し訳ありませんでした。

 被服店から出ると両側から二人が絡みついてくる。


 二人の歩みに合わせて自分も歩くが、我ながら「女をはべらかす成金」にしか感じられない。


 なんだろう、チンピラと二人の情婦の図にしか見えないよな?


 どこで路線間違ったのだろうか……。


 思い当たる節が脳裏を過ぎって、頭を抱えたくなる。


 疲れて投げやりに成っているか、精神的に参って感情の置き所を見失っていた時だ。


 己の選択の果て、と言うには情けない道筋だとつくづく思う。


「そうだ、靴の前に食事にしないか?」


「あ、忘れていました……」


「起きてから何も口にしていませんでした……」


 二人ともテンションが上がって空腹すら忘れていたらしい。


 満喫してくれている様で何よりだ。


「俺はこの街の良い店を知らないから、二人に任せるよ。俺は、俺が食べれる物が出る店以外のリクエス

トは無いし、しようが無いしな」


 突然二人が立ち止り、ヒソヒソと打ち合わせを始める。


 いや、俺を挟んでヒソヒソする意味有るのか?


 別に高く付いても構わないと言うか、


 むしろ初外食で「ああ、うん、そこそこだね」な店は避けたいのだが。


「二人のヒソヒソ話は良いとして、少し値が張っても美味しい店を希望するが?」


 俺の言葉に少しの間を置いて、またヒソヒソ話が再開される。


「では、美味しいと評判のキッシュのお店に参りましょう」


 キッシュってあれか?パイ生地に具を混ぜた卵を流し込んで焼く、焼き茶碗蒸しみたいなやつか?


 まあ、悪くは無いか。


 しかし、何で「値が張っても」の一言を添えたらあっさり決まったんだ?


「決まったなら案内頼むよ」


「はい、では参りましょう」


 そう言うと先ほどより歩くペースが上がっている二人に引っ張られる様に足を進める。


 数分歩いて、商業区画から外れた所に有る一件の店に入った。


 香ばしいパンが焼ける匂いがする。


 キッシュを焼く窯から漂う香りなのだろう。


 きっと値が張るのは窯で焼く薪の料金の分、全体的に価格が高くなると言う事か。


 一人で納得して頷いていると、ウェイトレスなのか店員に客席に案内される。


 二人が腕を解いて店員に付いていく。


 きっと好物なのだろう、と微笑ましく思いながら付いていく。


 三人して席に着くとメニュー表を広げて二人が品定めを始める。


 テーブルに頬杖をついて眺めながら、二人に幻視を重ねてみる。


 目鼻立ちは分からないが、あれも良いこれも良いと目移りする二人は楽しそうだった。


 そう言えば二人って何歳なんだろう?


 外見から年齢を測れないとは言え、考えもしなかった。


 アンの方がエミリーより年下らしいのは口調で察したが、年齢に関しては測り様が無い。


 同世代に感じていたが、もしかしたら二十歳前後なのでは無かろうか。


 社会構造的に成人が早い可能性が高い。


 同時に、テンションが上がって女の子に成っているだけかも知れないが。


 咎め立てする事でも無いから触れないで、見守る事にする。


「リュート様、根菜とお肉のキッシュと葉野菜のキッシュ、ワインで大丈夫でしょうか?」


 どうやら決まったらしい。


「ああ、それなら俺も食べられる、それと食後に甘い果物のキッシュも頼んだらどうだ?」


「甘い物……」


 あ、余計な事言ったか?


 二人がまたメニューに齧り付いてあれこれ始めてしまった。


 時間に追われている訳では無いし、食べたい物で楽しく迷うのも悪い事は無い。


 そこに混じれないのは残念では有るが、見ているだけでも面白くて気分転換には成る。


 穏やかな気持ちで眺めていると注文が本当に決まったらしい。


 エミリーが店員を呼んで注文をする。


「根菜とお肉のキッシュ、葉野菜のキッシュ、林檎のキッシュ、壺売りのワインで宜しいでしょうか?」


「ああ、頼む」


「銀貨3枚に成ります」


 インベントリから銀貨を取り出して、店員に手渡す。


 店員がお辞儀をして引くのを確認してから会話が再開される。


「リュート様はキッシュはお好きですか?」


「いや、好き嫌いを言う程食べた事は無いな」


「そうなんですか?」


「ああ、逆に故郷では窯で焼かずに、蒸した物が主流だな」


「似た料理でも、地方で違うのですね」


 感心した様に語るエミリーの言葉に、「地方どころか繋がって無い可能性が高いんだが」と内心で呟く。


「海に四方を囲まれた国だからな、色々独特なのは事実だな」


 いや、毒を内包した獲物も毒を持った部分を除去して食べる時点で独特じゃ済まない気もする。


 毒魚の卵巣を数年処理して食べれる事を発見するとか、色々正気じゃないと思わないでも無い。


 そんな事を考えているとアンに蒸したキッシュ? の説明を求められる。


「蒸したキッシュと言うのは正確では無いのだが、熱で割れない器に溶き卵と具材を入れて蒸し上げると喉越しの良い物が出来るな」


 実際は出汁なども入れるし、蒸し時間も難しい料理なのだが、自分で作った事は無いので説明も出来な

い。


 そこからはキッシュの具に合いそうな物を三人で上げて料理を待つ。


 二十分程して店員がワゴンを押しながら現れる。


 二人の様子は分からないが、呼吸音でソワソワしているのは分かった。


 笑いを噛み殺しながらテーブルに並べられた料理を一瞥する。


 うん、今日も安定のドットの何か、だ。


「切り分けますね」


 アンが銀色の何かを両手に持って宣言する。


 切り分けられ取り皿に盛られた濃い黄色いとも薄い茶色とも言えないドットが二つ並んでいる。


 毎日毎回、食欲の湧かない光景である。


 二人に促されてワインのグラスを手に取り乾杯をする。


 何に対する乾杯なのか良く分からないが、嬉しそうな声に無粋な事は言わないで置く。


 一口ワインを含んでからナイフとフォークで切って口に入れる。


 噛む度に歯に心地良い。


 これは根菜の歯触りだろうか。


 肉も柔らかく煮上げた鶏肉みたいな味がする。


 茶碗蒸しのプルプル感は無いが、これはこれで美味しい。


 焼きプリンと蒸しプリンの違いをドット絵で見極めるのは不可能だが。


 でも、ドット絵。

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