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80話

 目を閉じたまま、二人の楽しみ様を聞いて時間を潰す。


 さて、ここからが長い。


 女性の買い物は長い。男は手持無沙汰で余計に長く感じるが、元が長い。


 そして古着が流通の半分を占める社会構造で、しかも借金を背負った人間が既製品、ましてやオーダーメイド等無縁だろう。


 必然的に選び方が慎重になるのは予想が付く。


「どっちが似合う?」の質問(いや、あれは御下問に類する危機問答か)を回避出来る分ましでは有るが。


 時折、瞼を開いて二人の様子を窺うと単色の板を交互に見比べているのが見える。


 板に見えているのは多分染められたシルクの生地なのだろう。


 声の調子と合わせて判断すると、盛大に迷っているらしい。


 多分、世の女性はこの迷っている時間も楽しくて仕方が無いのだろう。


 男でも趣味の専門店に行けば似た物だろうし、この辺りもどっちもどっちなのだろう。


 時折違う色の布を肩に当てて、色味を確認している様だ。


 楽しそうで何よりだと思う。


 身請けしたら何着か購入しよう。


 インベントリが有れば服も着回せる程度に所有出来るだろう。


 流石に、インベントリ無しで宿暮らしのハンターは旅人と大差無いはずだし、旅人が衣服の替えを二、三着が精々だろう、想像でしか無いがあながち外れてはいないと思う。


 そんな事を考えながら二人の布選びを待っていると二人に話し掛けられる。


「お待たせしました、リュート様」


「お待たせして申し訳在りません、選び終わりました」


「気に入った色は有ったかい?」


「「はい!」」


 随分と元気の良い返事が返ってくる。


 既製品を買う訳では無いから、現物は後日に成る。


 気に入った既製品が有ったらもっとテンションが高かったかも知れない。


「なによりだ、じゃ清算してくるとしよう」


「待ってください、リュート様のシャツがまだです」


「ああ、そう言えばそうだったな」


「リュート様は何色のどう言った物が宜しいでしょう?」


 清算しようとカウンターに向けて一歩踏み出した所で止められて、もう一つの目的を失念していた事を指摘される。


「黒か濃い赤が好きだが……どんな物と言われても分からないから任せるよ」


 この街でどんなデザインが一般的か分からない。


 奇抜で傾く(かぶく)のは避けたい所だ。


 色は単純に血の汚れが目立つ服は避けた方が良いと言う理由も有る。


「分かりました。こちらの方のシャツも一緒に仕立てて下さい」


 前半は俺に、後半は店員に向けての言葉らしい。


「畏まりました、では奥へどうぞ」


 店員が何か手振りをするとエミリーとアンが店員に付いて歩き出す。


 俺も付いて行けば良いらしい。


 店の奥のドアを潜ると、工房に成っているらしい。


 強い匂いがしない所を見ると、染めはここではやって居ない様だ。


「では測ります」


 店員に促されて三人揃って採寸を受ける。


 胸囲やらを測られているのは分かるのだが、どう見ても棒にしか見えないのがとてもシュールだった。


 曲線を測っているはずなのに、メジャーが直角に曲がり角が出来て見えるのはツッコミ待ちなのだろうか?


 分かっている、ツッコんだら負けだと。


 このツッコんでも負け、ツッコまなくても負けた気分になる。


 この理不尽な視界の責任は、誰を正座させて説教すれば良いのだろうか?


 そんな愚にも付かない事を考えて居る内に採寸が終わる。


 エミリーとアンが店員に何か話している。


 どうやら服のデザインの要望を出しているらしい。


 暫く待っていると終わったらしく店内に戻って行く。


 俺も後に続いて店内に移動する。



 店内に戻ると後は清算を残すのみ、だ


 カウンターに着いて店員と清算の交渉に移る。


「では、フィルムスパイダーの糸玉の買い取りとお仕立てですが、残った糸玉はどうされますか?」


「買い取って貰えるだろうか?」


「はい、フィルムスパイダーの糸玉が今値上がりしているので助かります」


「まあ、厄介なモンスターだしな……」


「はい、こんな大量に持ち込まれる事は有りません。ワンピースを仕立てるのに糸玉が六つ必要になります。お客様のシャツは四つ必要に成りますので残りは買い取りで宜しいでしょうか?」


「ああ、それで頼む、仕立て代は幾らに成るだろう?」


「持ち込みでしたから、染めの代金をサービスして銀貨3枚でどうでしょうか?」


「ああ、それで構わない」


 店員が何かカウンターで作業して、トレーに貨幣を並べる。


「では糸玉六十一個、金貨2枚と銀貨44枚、仕立て代を引いて金貨2枚銀貨41枚です、お確かめください」


 どうやら買取金額の計算をしていたらしい。


 トレーの金貨と銀貨を一枚ずつ確認してインベントリに収める。


「確認した、それで仕上がりはいつ位に成るだろうか?」


「三日……いえ明後日のお昼までには出来上がると思います」


「分かった、では明後日受取に来る」


「また糸玉が出ましたらお願い致します」


 どうやら糸玉を定期的に持ち込むハンターが少ないのだろう。


 今の言葉の副音声は「受取の時に糸玉をお願いします」だろうし、そう聞こえた気がする。


 外套(がいとう)を作って貰うのにも糸玉は必要に成る。


 まあ、明日以降で一日は蜘蛛退治に当てる事にしよう。


 冬の風を防ぐなら糸玉も相当必要に成るだろうから、本腰を入れて集めなければ成らないか。


 さて、次は靴屋でスリッパかサンダルとして使える靴を探すとしようか。


「エミリー、アン、靴を作ってくれる店に心当たりは無いかな?」


「靴ですか?」


「ああ、風呂上りにサッと履ける軽くて柔らかい靴が欲しいんだ」


「リュート様の(おっしゃ)る物が作れるか分かりませんが、近所に靴屋は有ります」


 エミリーの答えに頷いて道案内をして貰うとする。


 風呂上りで履くブーツの不快感とこれでおさらば出来るなら僥倖だろう。


 視覚異常以外にも小さなストレス源は有るものだ、見えないから躱せないけど。


 でも、ドット絵。

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