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79話

 二人を伴って娼館を出る。


 太陽の日差しが一際眩しく感じる。


 そう言えば、今の季節は春夏秋冬のどれに当たるのだろう?


 冬に積雪しない地域だとは前に聞いたが。


 全身に張り付くタイプの鎧下を着ていても汗だくには成らない辺り、真夏では無いのだろうが。


 気温的に過ごしやすい気候では有る。


 慌てる事も無いので、ゆっくりと揃って歩みを始める。


「エミリー、今更な質問なんだが、今は春? 秋なのか?」


「え? 季節ですか? 秋ですけれど……」


 エミリーが答えた後、に口をつぐむ。


「旅をしてきてなんで季節が分からないんだ?」と疑問に思っただろう。


 普通疑問に思うし、俺でも聞かれたら同様に感じるだろう。


 寒くもしくは暑く成ってから判断すれば良い話では有ったか。


「まだ早いだろうが、その内小洒落た外套も考えよう」


 話題を微妙にずらして話を続ける。



 ここ一週間、雨も降らなかったから確信は無いのだが、この世界に傘は有るのか疑わしい。


 傘がどの文明度合で生まれるのか分からないが、どうも中世ヨーロッパは雨の時には外套と言うイメージが有る。


「小洒落た外套ですか?」


 アンが話題に食い付いてきた、ありがたい。


「ああ、縁取りに違う色を縫い付けた外套なんか良いとは思う」


 頭の中には臙脂色の外套に金糸の刺繍、鮮やかな緑に銀糸の刺繍の絵柄が浮かぶ。


 もしくは革で撥水性の高い物も良いかも知れない。


 風を通さない外套は冬場には重宝しそうだ。


 そう言えば、「通気性の良い」は涼しい時に使う褒め言葉だが、防寒的に「通気性が悪い」とは言わないな、等とどうでも良い言葉遊びが浮かんでくる。


「あの、あまり贅沢は出来ませんから……」


「俺も含めて、皆の分仕立てないとな」


 外套も四着、涼しく成ってきたら購入する旨伝えておく。


 そう言い切るとアンが右腕を掴んで抱きついてくる。


「ありがとうございます、申し訳ありません……」


 左側に居たエミリーが手を取り、そして繋いでくる。


 この辺り、二人の性格の差なのだろう。


 最近グイグイ来るアンと、グイグイ来る時と控え目を往復するエミリーのギャップに戸惑う。


 正直、最初の印象と変わり過ぎて反応に困る。


 エミリーは最初気だるげな雰囲気だったし、アンはアンで控えめな感じがしていたのだが。


 今はエミリーが可愛らしい反応を時折見せるし、アンは懐に飛び込もうとしている感が有る。


 表情は見られないが、二人が笑っていてくれると良いなと率直に思う。


 暫く歩いて昨日来た被服店に到着する。



 二人が手を放した事を確認してからドアを開ける。


 店内に入ってカウンターに向かう。


「いらっしゃいませ、あ、昨日のお客様」


「どうも、今日はお世話に成ります」


 どうやら昨日話した店員らしかった。


 深く考えずに名前を確認していなかった事を今更思い出す。


「この二人の服を仕立てて貰いたい、まず先にシルクを預ける。余った分は素材として買い取りを頼む」


「畏まりました、ではどの様な物をお仕立てしましょうか?」


「それは二人と相談してほしい、染めから仕立てまで二人の好みで進めて欲しい」


 そう言ってカウンターに有るだけのフィルムスパイダーのシルク玉を山の様に置く。


 店員は山積みのシルク玉をカウンターの内側に仕舞いこむ。


「承りました」


 店員はシルク玉を仕舞ってから二人に話し掛ける。


 そこからは女性三人のお喋り混じりの打ち合わせが始まる。



 辺りを見回して何も置かれていない壁を見付けて歩み寄る。


 壁に背中を預けて目を閉じる。


 眠たい訳では無いが、色が溢れた被服店に長居をすると目が疲れてしまう。


 目を閉じて三人の会話に耳を傾ける。


 二人は色の好みを伝えて染め済の生地が有るかの確認に店員が離れる。


 エミリーとアンは初めての仕立て体験らしく、どうも緊張気味らしい。


 それでもエミリーは恐縮気味、アンは上ずった方向で緊張している。


 二人は娼館で着るドレスにするか、町娘風のワンピースかで迷っているらしい。


 確かに、身請け後にドレスを着ていても仕方が無い。


 とは言え、シルクの光沢で眩しい町娘と言うのもおかしな感じがする。


 染め生地を見て判断するつもりらしい。


 判断基準が無いのも有るし、仕立てに慣れていないのも影響しているのだろう。


 実際、俺だって服の仕立てなど経験が無い。


 鎧下は有る意味オーダーメイドでは有るが、変な言い方に成るが戦闘服みたいな物でお洒落着とは違う。


 モンスターが跋扈する世界だからか、戦闘服じみた格好でも囁かれる事も無いが、それはそれ、これはこれなのだろう。



 こうして離れた所から二人の様子を見ていると、やはり若い娘だと思う。


 声を弾ませて、互いに好みを話し合い、相手に似合う物を提案したりしている。


 目を閉じていると、こっちもあっちもあまり変わらないと実感する。


 人は人だし、娘は娘だ。


 仕事に追われている訳では無いが、稼ぎに追われていると言う意味では同じだ。


 それでも、モンスターの出ない街中で、被服店と言う悪漢の立ち寄らない場所は特に安全圏と言えるかも知れない。

も知れない。


 最も、ハンターに囲まれた一件以外に街でトラブルに遭遇した事は無いが。


 それでも大きな騒ぎに成らなかったと言う事は、それなりに有る事だと住人が認識していると言う証左だ。


 まあ、意識して居なかったが、三人の人間の足を掴んで引き摺り回していた俺が一番の危険人物に見えただろうが。

ただろうが。


 そう考えると苦笑するしかない。


 まあ、お蔭で迷惑料分だけ収入が増えたのはありがたい。


 コバルトの買い取りが無くなった分の収入が減った事、シルク玉は買い取りをしていない事が地味に響いている。


 明日からまた大量にモンスター狩りをして稼がなくてはいけない。


 畑と家の費用を考えると金貨2、30枚は考えておく必要が有るだろう。


 手持ちで考えると少し心許無い額では有る。


「二人、いや三人を身請けしてハンターとしてLvを上げるまでは……」


 貯蓄に力を注ぐ事にしよう。


 ゲームみたいな世界でも、お金に追われるのは変わらないらしい。


 でも、ドット絵。

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